はじめに
2020年代に入って以降、世界経済はパンデミックや地政学的リスク、為替相場の変動、サプライチェーン混乱など多面的な課題に直面し、各国の貿易や産業構造に大きな変化をもたらしています。その中で中古車市場も例外ではなく、需要動向や流通体制の再編が進んでいます。
こうした環境下で、中古車輸出に携わる日本の中小企業が注目すべきニュースが飛び込んできました。スリランカ政府が2025年2月1日から乗用車の輸入を再開するとの発表が報じられたのです。(出典:https://www.ft.lk/front-page/Private-vehicle-imports-to-resume-from-1-Feb/44-770725#goog_rewarded)
スリランカはここ数年、外貨不足や経済危機に対処するため、乗用車を含む多くの輸入品に厳しい制限措置を課していました。そのため外国からの車両流入はほぼ止まり、中古車市場においても事実上「閉ざされた市場」となっていました。
本記事では、この輸入再開措置が示す背景、スリランカ市場の特性、そして日本の中古車輸出業者にとってのビジネスチャンスやリスクを整理します。さらに、成功するための戦略的アプローチにも言及し、One Step Beyond株式会社としてのサポート可能性についても控えめに触れます。
スリランカが輸入再開に至るまでの背景
スリランカは長年、インド洋の要衝として貿易において重要な役割を担いつつ、観光や農産品輸出などで外貨を獲得してきました。しかし、世界的観光需要がコロナ禍で急減したこと、経済運営上の問題、外貨準備高減少、財政赤字拡大、債務返済問題などが重なり、2022年前後には同国は深刻な経済・財政危機に直面しました。
この危機への対策として、スリランカ政府は多くの輸入品に対して厳格な規制を導入し、不要不急品と見なされた乗用車を含む車両輸入は実質的に停止状態が続いていました。外貨の流出を抑え、自国経済の破綻を防ぐための緊急措置だったのです。
しかしその後、国際通貨基金(IMF)をはじめとする国際的支援や、国内経済の徐々な安定化により、スリランカは経済復興への道を模索しています。その一環として輸入規制の一部緩和や外貨管理の見直しが進められており、その成果として2024年2月からの乗用車輸入再開が決定されたと考えられます。
輸入再開が意味するもの:新たな需要創出の可能性
長期間にわたる輸入停止は、スリランカ国内の自動車市場において新車・中古車ともに深刻な供給不足を招きました。乗用車の新規流入が止まれば、既存車両の価格高騰や老朽化が進む一方、消費者は選択肢を失い、不満が高まります。輸入再開はこうした市場歪みを是正し、新たな需要を喚起する契機となるでしょう。
以下が、輸入再開がもたらす可能性の一端です。
- 需給バランスの回復:
新たな中古車が市場に流入することで、価格が適正化し、消費者はより幅広い選択肢を得ます。日本製中古車は信頼性と品質面で高評価を得やすいため、競合他国からの中古車と比較して有利に働く場面が多いと考えられます。 - 経済刺激効果:
自動車流通が活発化すれば、関連部品、整備、金融、保険など自動車周辺産業にも恩恵が波及します。スリランカ政府としても、外貨流出管理と経済刺激のバランスを模索しつつ、適度な輸入を許容することで国民生活の向上と経済活性化を狙っているとみられます。 - 中長期的視点での市場拡大:
一度輸入が再開されれば、段階的に枠拡大や規制緩和が進む可能性があります。特にスリランカは地理的条件から南アジア地域との結びつきも強く、中古車市場を通じた新たなビジネス機会が徐々に広がる可能性があるでしょう。
日本の中古車輸出業者へのビジネスチャンス
日本は中古車輸出大国であり、既に世界各地で実績と信頼を築いています。スリランカ市場は、過去においても日本車(特にトヨタ、スズキ、日産、ホンダなど)への信頼が高く、耐久性や品質が重視される中で日本車は有力な選択肢でした。
輸入再開によって期待できるビジネスチャンスは以下の通りです。
- ブランド力を生かした再参入:
日本車はスリランカ市場で一定のブランド価値を有しています。長期的な輸入停止後の再開は「日本製中古車が再び買える」という消費者期待につながりやすく、初動から一定の販売拡大が見込まれます。 - 幅広い車種選択による需要対応:
スリランカでは小型車や燃費の良い車、耐久性のあるセダン、コンパクトSUVなどが人気と考えられます。日本国内では多様な中古車が流通しており、消費者の嗜好に合わせたラインナップを迅速に用意できる点は大きな強みです。 - 付帯サービスでの付加価値提供:
他の輸出国との競争を勝ち抜くためには、単なる車両販売だけでなく、アフターサービスやパーツ供給、保証制度、遠隔サポートなどの付加価値が効果的です。中小企業であっても、ローカルディーラーとの提携やオンラインサポート体制の構築で顧客満足度を高められます。 - 将来需要を見据えた戦略的対応:
環境意識の高まりや燃料価格変動を背景に、将来的にはハイブリッドカーや電気自動車への需要が拡大する可能性もあります。日本はハイブリッド車の中古市場が成熟しており、長期的な視点でこうしたニッチ需要を取り込むことも考えられます。
考慮すべき課題やリスク
一方で、スリランカ市場でビジネスを展開する際には以下の課題・リスクも念頭に置くべきです。
- 政策・規制の流動性:
今回の輸入再開決定は状況好転の兆しですが、将来にわたり政策が安定的とは限りません。外貨管理や関税、輸入枠などが再び厳格化される可能性も考えられます。最新情報をフォローし、リスク分散を図ることが大切です。 - 為替・決済リスク:
スリランカの通貨は近年変動が激しく、外貨払いを巡る混乱や遅延が起こる可能性があります。信用状(L/C)の活用や信頼できる決済パートナー選定など、慎重な金融戦略が求められます。 - 物流・サプライチェーン管理:
車両輸出には船積みから通関、現地での輸送まで多段階プロセスがあります。港湾インフラや国内輸送網の問題、関税手続き上の手間などを考慮し、コストとリードタイムを管理することが重要です。 - 競合他国からの参入:
スリランカ市場は日本だけでなく、他の中古車輸出国も狙っています。価格競争力を持つプレイヤーや新興国メーカーも参入する可能性があり、品質以外の強み(コスト削減策、現地生産、現地顧客サポートなど)を確立して差別化を図る必要があります。
戦略的アプローチ:段階的参入と関係構築
スリランカ市場は今まさに再開発段階にあり、「一気呵成」に攻めるよりも、段階的なアプローチが現実的です。
- テストマーケティングからスタート:
まずは小規模出荷で現地バイヤーやディーラーとの反応を確認します。顧客ニーズや価格許容度をつかみ、その上で本格的な投入計画を練り直すことで、在庫リスクや価格競争リスクを軽減できます。 - ローカルパートナーの活用:
信頼できる現地ディーラーや代理店、サービス工場とのパートナーシップは、顧客満足度向上や迅速なトラブル対応を可能にします。中小企業でも、人脈形成や現地訪問、オンライン商談などを駆使して信頼関係を築くことが可能です。 - 柔軟なビジネスモデル選定:
市場状況や規制変更に素早く対応するため、輸出契約条件や価格設定、取引通貨などを柔軟に見直せる体制を整えます。多様な取引条件を用意し、顧客やパートナーごとにカスタマイズできるモデルが有効です。
One Step Beyond株式会社のサポート
海外市場への進出や新規市場開拓には、法制度リスクや情報不足、語学・文化の壁などが存在します。One Step Beyond株式会社は、海外事業展開支援の経験をもとに、中小企業が直面するこうした課題に対して、情報提供や初動段階の調査サポートなどを行うことが可能です。必ずしも大がかりなコンサルティングを必要としない場合でも、状況に応じて柔軟なアドバイスをお求めいただくことができます。
まとめ:長期的ビジョンで新市場を拓く
スリランカが2025年2月から乗用車輸入を再開するというニュースは、日本の中古車輸出業者にとって長く閉ざされていた市場が再び動き出す合図です。経済危機を経たスリランカは、今後自動車市場を慎重に整え、需要拡大と経済再建を目指すと考えられます。日本の中古車はブランド力と品質面で優位性があり、適切な戦略を立てれば、この新たな潮流をビジネス拡大のチャンスに変えることが可能です。
ただし、政策リスクや為替問題、物流上の課題など、不確定要素は依然として存在します。段階的な参入戦略、現地パートナー活用、柔軟なビジネスモデル設計など、リスクを最小化する工夫が不可欠です。また、中長期的な視点で市場変化を注視し、環境対応車両や付帯サービス強化など、将来志向の取り組みを進めることで、持続的な成長を目指すことができます。
スリランカ市場は今後、外部環境の変化や国内政策の修正を経ながら、徐々に整備されていくでしょう。日本の中小企業は、こうした動きを的確にとらえ、自社に適した時期と形態で参入することで、海外市場への新たな活路を開くことができるはずです。
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【出典】
- The Financial Times (Sri Lanka): “Private vehicle imports to resume from 1 Feb”
https://www.ft.lk/front-page/Private-vehicle-imports-to-resume-from-1-Feb/44-770725#goog_rewarded