目次
- スリランカの銀行制度の概要
- 外資企業が開設できる銀行口座の種類と要件
- 法人口座開設の手順と必要書類
- 駐在員の個人口座開設に関する手続き
- スリランカへの資金送金の制度と規制
- 実務での送金手続き・注意点・為替の影響
- 銀行の選び方と日系企業に人気の金融機関
- One Step Beyond株式会社によるサポート内容
- まとめと事前準備のチェックポイント
海外市場としてスリランカへの進出を検討する企業にとって、現地での銀行口座開設や資金送金の手続きは避けて通れない重要事項です。本記事では、スリランカに進出予定の中小企業を対象に、現地法人の法人口座および駐在員個人口座の開設方法と、事業資金の送金に関する実務ポイントを網羅的に解説します。スリランカの銀行制度の基礎から、実際の手順、規制への対応、金融機関の選び方、そして現地進出支援を行うOne Step Beyond株式会社によるサポート内容まで、段階的にわかりやすく説明していきます。ぜひ事前準備のチェックリストとしてご活用ください。
1. スリランカの銀行制度の概要
まずはスリランカの銀行制度全体像を押さえておきましょう。スリランカでは中央銀行であるスリランカ中央銀行(Central Bank of Sri Lanka, CBSL)が金融機関を監督し、為替管理も所管しています。同国には大きく分けて以下の種類の銀行が存在します。
- 国有商業銀行: 代表的なのはセイロン銀行(Bank of Ceylon)とピープルズ銀行(People’s Bank)で、全国に広い支店網を持ち預金・融資残高でも国内最大規模です。国の信用を背景に安定性が高く、地方まで支店があるため現地企業や個人に広く利用されています。
- 民間商業銀行: コマーシャル銀行(Commercial Bank of Ceylon)やハットン・ナショナル銀行(Hatton National Bank)、サンパス銀行(Sampath Bank)など多数の民間銀行があります。IT化やサービス面で積極的な銀行も多く、ATM網やオンラインバンキングなど利便性の高いサービスを提供しています。民間銀行の中には近代的な経営で中小企業金融に強みを持つところもあり、預金金利やサービスの柔軟さで選ばれる傾向にあります。
- 外国銀行の支店: スリランカには外資系の銀行支店も進出しており、HSBC(香港上海銀行)やスタンダードチャータード銀行、シティバンクなどがコロンボに拠点を構えています。外資銀行は国際送金や外国為替の取扱いに慣れており、英語でのサービスも充実しています。ただし支店数は限られるため、日常の決済というより大企業向けの法人融資や貿易金融で利用されることが多いです。
以上のように国有から民営、外資まで幅広い銀行が存在し、銀行業界全体としては約25行以上の商業銀行が活動しています。近年のテクノロジー導入により、都市部ではインターネットバンキングやモバイル決済も普及しつつあり、ATMは主要都市で24時間利用可能です。スリランカの銀行は歴史的には政府の影響力が強い一面もありますが、1980年代以降の民営化や外資誘致によって競争が促され、現在では中小企業や外国企業にとっても比較的利用しやすい環境が整っています。
もっとも、2022年にはスリランカ経済が財政危機に陥り、外貨準備の枯渇から対外債務のデフォルトに至りました。この影響で一時的に輸入制限や外貨流出規制が強化され、為替相場も急激な変動を見せました。ただ、2023年以降はIMF支援プログラムの下で経済再建が進み、為替管理の一部緩和や銀行セクターの安定化措置が取られています。スリランカの銀行自体は国内向け業務において堅調さを維持しており、預金保護制度も整備されているため、通常の預金・送金業務は大きな混乱なく行える状況です。これから進出する企業としては、中央銀行の最新の為替規制や経済動向に注意を払いつつ、信頼できる銀行と取引関係を築くことが重要になります。
2. 外資企業が開設できる銀行口座の種類と要件
スリランカでビジネスを行う外国企業や投資家には、国内企業とは異なる特別な種類の銀行口座が用意されています。ここでは、外資企業が開設可能な主な口座種類と、その利用目的・要件について解説します。
2.1 対内投資口座(IIA: Inward Investment Account)
まず外国資本の投資用に最も重要なのが対内投資口座(Inward Investment Account, IIA)です。IIAは直訳すると「内向き投資用口座」で、外国の個人や法人がスリランカに資金を送金し投資する際に開設する専用口座を指します。他国にはあまり例のない仕組みですが、スリランカでは外貨資金の流入出を管理するためIIAが一般的に利用されています。
- 用途と特徴: IIAは投資資金の受け皿として機能する口座です。通常の当座預金口座や普通預金口座とは異なり、スリランカ国内での事業運転資金の決済や給与支払いなど日常の取引には使えません。あくまで海外からの投資資金を受け入れ、それを現地事業体に振り替えるためだけに用いる特殊口座です。また、IIAは投資する側の名義で開設される点にも注意が必要です。例えば日本の本社企業がスリランカ現地法人に出資する場合、日本側法人名義でIIAを開き、そこに日本から資本金を送金する形になります(個人投資家の場合は個人名義で開設)。一方、投資を受ける現地法人名義では開設しない点が特徴です。口座には利息も付かず、機能面では当座預金と同様ですが、出資金の流入経路を明確化する役割を果たします。
- IIAが必要な理由: スリランカ政府・中央銀行は、外国資本の流入について一定の管理を行っています。IIA経由で資金を受け入れることで、「何の目的でどれだけの資金が海外から入ってきたか」を明確にし、将来その資金や利益を海外へリターン(送金)する際の承認手続きが円滑になります。簡単にいえば、IIAを通じて投資すれば出資元への配当送金や資本撤収が容易になるメリットがあるのです。実際、スリランカの外貨規制では、適法に投資された資金に由来する利益や売却代金は、IIAを通じてであれば税引後に制限なく本国送金できると定められています。したがって、現地法人の設立資金や増資、親会社からの貸付金の送金など、「後に本国へ戻す可能性がある資金」は必ずIIA経由で投入するようにしましょう。
- 開設要件: IIAはスリランカ国内で営業する主要な商業銀行であれば開設可能です。国内資本の銀行・外資系銀行を問わず、多くの銀行がIIAを取り扱っています。開設時には投資家本人(法人の場合は担当者)の来店とKYC手続きが必要です。法人がIIAを開く場合、日本側法人の登記証明書や代表者の署名権限証明、公的身分証(パスポート)など書類の提出が求められることがあります。また銀行によっては所定のIIA開設申請フォームへの記入提出が必要です。基本通貨は外国通貨建て(例えば米ドル建てIIA)で開設するケースが多く、日本円でのIIAも可能ですが、最終的にスリランカ・ルピーに換える必要があるため一般的には国際的に流通性の高い米ドル口座としてIIAを用意するのが実務的です。
※参考: 2018年4月以前、スリランカには証券投資口座(Security Investment Account: SIA)と呼ばれる類似の口座区分がありましたが、現在はIIAに一本化されています。過去にSIAやSFIDA(特別外国投資預金口座)といった名称の口座を保有していた場合も、多くの銀行でIIAへ転換する措置が取られました。したがって現在進出する企業はIIA一本を覚えておけば問題ありません。
2.2 現地法人口座(当座・普通預金口座)
スリランカで会社を設立した後は、その現地法人名義で銀行口座を開設することになります。こちらは日常の事業取引で使うための当座預金口座(Current Account)や普通預金口座(Savings Account)です。現地法人の口座は、スリランカ国内での売上入金、経費支払い、給与振込などあらゆる商取引に利用します。IIAから受け入れた資本金も、この法人口座に振り替えてはじめて事業に使えるようになります。
- 通貨と種類: 法人口座は一般的にスリランカ・ルピー建てで開設します。ただし必要に応じて外貨建て口座を併せて開くことも可能です。例えば貿易取引でドルで入金を受け取る場合や、為替変動リスクに備えて資金を一部ドルで置いておきたい場合には、現地法人名義の外貨預金口座(Foreign Currency Account)を作成できます。スリランカでは主要通貨(USDやEUR、JPYなど)の外貨口座開設が認められており、外貨建てで受け取った資金はそのまま外貨口座で管理し、必要に応じてルピー口座へ振り替える、といった運用も可能です。ただし外貨口座から外貨のまま海外送金する際には用途確認など追加手続きがある場合がありますので、日常支出用途には基本ルピー口座をメインとし、外貨口座は資金プールや為替ヘッジ目的で活用するのが良いでしょう。
- 開設要件: 現地法人の口座開設には会社の登記が完了していることが前提となります。通常は会社設立後に発行される会社登録証明書(Certificate of Incorporation)や定款(Articles of Association)のコピー提出が求められます。また納税者番号(TIN)の取得が完了していることも望ましいです。銀行は口座開設時に企業の基本情報や事業内容を確認するため、取締役会決議書(口座開設および署名権者選任の決議)や取締役・署名権者の本人確認書類(パスポート等)提出を求めます。さらに外資100%の企業の場合、出資が適法に行われたことを確認するためIIAの入金記録やBOI(投資庁)からの投資認可レター等の提示を要求されるケースもあります。銀行によって必要書類は多少異なりますが、一般的には以下のような書類チェックリストとなります。
- 登記証明書(法人としての存在証明)
- 定款コピー
- 取締役会決議書(口座開設および署名者指定)
- 取締役・署名者のパスポート(およびビザ)コピー
- 納税者登録証明(税務当局から発行されるTIN通知書)
- BOI認可関連書類(BOI企業の場合)
- 資本金送金のエビデンス(IIAの送金受領証など)
- 登記証明書(法人としての存在証明)
以上を揃え、銀行の法人口座開設申込用紙に記入して提出します。銀行側では所定のインタビューを行う場合もあります。インタビューでは事業内容や売上・送金見込み額などを聞かれることがあり、これはマネーロンダリング対策の一環として銀行がビジネスプロフィールを把握する目的で実施しています。正直に事業計画を説明し、質問には誠実に答えれば問題ありません。
2.3 駐在員・個人向け口座
詳細は後述しますが、外国人駐在員個人としても開設できる口座があります。非居住者用口座と呼ばれる区分で、在留資格に応じて開設可能です。典型的には非居住者用貯蓄口座(Non-Resident Savings Account)や非居住者用当座口座があります。こちらは現地で給与受取や生活費管理に使う口座であり、企業ではなく個人名義となります。開設には就労ビザなど一定の在留資格証明が必要となる点が一般の個人口座と異なります。
以上が外国企業・投資家が利用できる主な口座種類です。特にIIAはスリランカ特有の制度であり最初は馴染みが薄いかもしれませんが、進出準備段階で早めに理解・準備しておくことが肝心です。次章では、このIIAも絡む法人口座開設の具体的な手順について見ていきましょう。
3. 法人口座開設の手順と必要書類
スリランカ現地法人の設立後、ビジネスを開始するには法人名義の銀行口座が不可欠です。ここでは、現地法人口座(当座預金)の開設手順をステップごとに解説し、必要となる書類や手続き上のポイントを整理します。
3.1 法人口座開設のタイミングと準備
スリランカでは会社登記完了から口座開設までのタイミングに注意が必要です。一般に、会社設立証明書が発行された直後から銀行口座開設手続きを進めることができます。しかし、資本金の払込という観点では、実務上「口座開設→資本金送金→払込完了→納税者登録」の順に進めるケースがあります。具体的には以下の流れです。
- 会社設立完了 – 登記局から会社登録証明書を取得。
- 納税者登録(TIN) – 国税庁(Inland Revenue Department)で税務登録を申請し納税者番号を取得。
- 銀行口座開設 – 登記証明書とTINを持参して銀行に法人口座を申請。
- 資本金の送金・払込 – 日本からIIAを通じて資本金相当額を送金し、法人口座へ入金。この入金をもって資本金払い込み完了となる。
- 払込証明の提出 – 必要に応じて会社登記局やBOIへ、所定期間内に資本金が払込まれたことを報告。
上記は一般的な流れで、案件により前後する場合もありますが、銀行口座は登記完了後できるだけ早く開設しておくと後の資金移動がスムーズになります。特にBOI認可企業の場合、認可後一定期間内に所定の最低資本金を投入する要件があるため、口座開設の遅れはそのまま投資実行の遅れに繋がります。
3.2 銀行の選定と事前相談
銀行口座を開くには、まずどの銀行に依頼するかを決めます。既に現地でお付き合いのある銀行があればそこに相談するのが早道です。初めてであれば、複数の銀行を比較検討しましょう。大手の商業銀行(例:Bank of Ceylon, Commercial Bank, HNBなど)は法人新規口座の受付に慣れており、外国企業対応の専門部署を持つところもあります。英語でのやり取りになりますが、日本企業で実績のある銀行では対応もスムーズです。選定ポイントとしては:
- 本支店の立地: 本社オフィスや工場予定地の近くに支店があるか。特に地方進出の場合、地場大手銀行の方が網羅性が高い。
- 外国為替業務の強さ: 輸入資材の決済や配当送金など外貨取引が多いなら、外資銀行や国有大手銀行(外貨取扱量が多い)が安心。
- サービス対応: 口座開設の迅速さ、手数料水準、インターネットバンキング可否など。中小企業の場合、親身に対応してくれるかどうかも重要なポイントです。
銀行が決まったら、事前に担当者と打ち合わせをしましょう。必要書類のリストやフォームを入手し、漏れなく準備します。書類は可能であれば英語訳付きまたは英語原本が望ましいです。日本の登記簿謄本などは英文翻訳+アポスティーユ(もしくは在日スリランカ大使館の認証)まで求められる場合もありますので、コンサルタント等と確認しながら進めます。
3.3 書類提出とKYC手続き
書類一式が揃ったら銀行窓口へ提出し、Know Your Customer (KYC)手続きを完了させます。提出資料例は前項で列挙した通りです。いくつか留意点を挙げます。
- 署名者の同行: 口座の署名権者(サイン権限者)に指定する予定の駐在員や現地スタッフがいる場合、その本人が同行してサインを行う必要があります。署名サンプルを登録するためです。通常は2名程度を共同署名者とすることが多く、その場合両者とも出向きます。
- 初回入金: 一部の銀行では、口座開設時に初期預け入れ金(例えば1万ルピー程度)を求められることがあります。これは口座維持手数料の前払いも兼ねますので、少額の現金を用意して行くと良いでしょう。
- 面談内容: 銀行担当者との面談では「事業内容」「年間予想売上高・送金額」「主要取引先」などを質問されることがあります。あらかじめ事業概要の英文説明を用意し、進出目的や事業計画を簡潔に説明できるようにしておくとスムーズです。これは情報提供であって審査ではないため、特段構えず率直に答えれば問題ありません。
書類と面談が済むと、銀行内での承認プロセスに入ります。通常数日から1週間程度で口座開設が承認され、口座番号とSWIFTコードなどが発行されます。銀行によっては即日で口座番号が出る場合もありますが、外資100%企業だと本店決裁が入る関係で若干時間がかかることがあります。開設完了後、小切手帳(Cheque Book)やデビットカードの発行申請を行い、インターネットバンキングの利用登録も済ませておくと良いでしょう。
3.4 IIAから法人口座への資金振替
法人口座が開設できたら、さっそく親会社からの資本金送金を実行します。前章で説明したIIA口座を利用し、日本からの送金金を一旦IIAで受け入れ、そこから現地法人の法人口座へ振り込みます。例えば、日本本社が自社名義でセイロン銀行にIIAを開設し、日本の銀行からそのIIA口座へ10万米ドルを送金したとします。セイロン銀行ではIIA入金を受け、銀行内で為替換算(米ドルをスリランカルピーへ両替)した上で、同額を現地法人の当座預金口座に入金します。これで資本金の払い込み完了となります。
なお、この際の送金用途(Purpose of remittance)欄には「Capital Contribution to [Company Name]」といった出資目的であることを明記し、銀行にもその旨伝えておきましょう。銀行発行の入金明細書に資本金送金である旨が記載されれば、後日当局への報告資料として使えます。また送金通貨は一般的に米ドルが推奨です。日本円を直接送金することもできますが、スリランカ国内ではマイナー通貨のため結局銀行がドル経由で換金するなど時間と手数料が余計にかかることがあります。ドル建て送金が一番スムーズで、為替レートも安定的に適用される傾向があります。
以上が法人口座開設から資本金受け入れまでの基本手順です。続いて、駐在員個人として必要になる個人口座開設について見てみましょう。
4. 駐在員の個人口座開設に関する手続き
スリランカに駐在する日本人スタッフや出向者が現地で生活する場合、個人名義の銀行口座を持っておくと何かと便利です。給与の受け取りや家賃・光熱費の支払い、日々のキャッシュレス決済など、安全かつ効率的に行うためにも、駐在開始後できるだけ早めに口座開設を済ませましょう。ここでは外国人駐在員がスリランカで個人口座を開設する手続きについて説明します。
4.1 在留資格と口座開設条件
まず大前提として、観光ビザなど短期滞在では銀行口座を開設できない点に注意が必要です。スリランカの銀行は、労働ビザや居住ビザを保有し一定期間以上滞在予定の外国人に対して口座開設を認めています。一般的な条件は「就労・留学など正当な目的で6か月以上の滞在予定があること」とされています。日本から駐在する場合には、現地法人がスポンサーとなって発給される就労ビザ(Residence Visa for Employment)を取得しているはずですので、そのビザがパスポートに貼付された状態で入国し、在留カード等はありませんがパスポート上で在留許可を証明できる状態になります。この就労ビザがあることが個人口座開設の大前提となります。
4.2 開設できる口座種別
外国人居住者が開ける個人口座としては、通常以下のようなものがあります。
- 非居住者普通預金口座(Non-Resident Ordinary Account): いわゆる普通預金に相当し、ルピー建てで預金・引き出し・送金ができます。デビットカードの発行も可能で、日々の買い物やATM引き出しに使えます。金利はごくわずかですが利息が付く場合もあります。
- 非居住者当座預金口座(Non-Resident Current Account): 小切手帳が発行され、小切手による支払いもできる当座口座です。一般的に無利息です。ビジネス用途で個人小切手を振り出す必要がある場合はこちらですが、多くの駐在員にとっては当座口座まで必要ないかもしれません。
- 個人外貨預金口座(Personal Foreign Currency Account): 必ずしも外国人専用ではありませんが、個人が外貨建てで資金を保有できる口座です。給与を米ドルで受け取る場合や、日本に定期的に送金するため一時的にドル建てで資金を置いておきたい場合などに役立ちます。開設には別途申込が必要ですが、就労ビザを持つ外国人であれば開設資格があります。
通常は最初に非居住者向けの普通預金口座を開き、それで十分事足りるケースが多いでしょう。後日必要に応じて外貨口座を追加で開くことも可能です。なお非居住者口座とは言え、一度就労ビザを取得すれば銀行上の扱いは「居住者(Resident)」とみなされる場合もあります。銀行によって呼称が異なるため、窓口で「就労ビザを持って長期滞在する外国人だが口座を作りたい」と伝えれば、適切な種類の口座を案内してくれます。
4.3 必要書類と手続き
個人口座開設に必要な書類は以下の通りです。
- パスポート: 写真ページおよびスリランカ入国ビザ(就労ビザ)貼付ページのコピーが求められます。原本も提示します。
- 在留(就労)ビザ: 上記の通りパスポート内ですが、有効なビザがあることが確認されます。場合によっては入国カードのコピーなども。
- 現地住所の証明: 多くの銀行では住所確認書類として、公共料金の請求書や賃貸契約書などの提示を求めます。駐在直後でまだ住所が定まっていない場合は、会社の住所を一時的に使わせてもらうか、ホテル住まいならその旨相談します。理想的には賃貸住宅の契約書写しや、社用アパートであれば会社からの住所証明レターがあるとスムーズです。
- 収入証明: 外国人には収入の裏付けを確認する銀行もあります。具体的には「雇用主からの在職証明書(Employment Certificate)」「給与額が記載されたレター」などです。これはマネーロンダリング防止の観点から、口座に入出金される資金の出所を明示する目的があります。日本本社や現地法人の人事担当者に依頼して英文の在職証明書を作成してもらいましょう(氏名・パスポート番号・役職・給与額・駐在期間などを記載)。
- 銀行所定の申込用紙: 銀行が用意する個人口座開設申込書に記入します。氏名(ローマ字)、住所、連絡先、職業等の基本情報に加え、納税者であれば税番号(通常外国人駐在員は現地の個人納税者登録は任意ですが、高額所得者になる場合は取得も検討)、口座種別の選択等を記入します。
以上を揃えて銀行窓口で申請します。ポイントとして、紹介者(Reference)欄を設けている銀行があります。これはすでに口座を持っている顧客や会社からの紹介があると望ましいという意味合いで、特に当座口座など発行時に求められることがあります。駐在員の場合、現地法人の担当者(例えば現地スタッフの経理担当など)が同行して紹介者としてサインしてもらえると安心です。また会社が取引する銀行に個人口座も開くなら、「自社の駐在員である○○の口座開設をお願いします」というレターを会社から出してもらうとスムーズに対応してくれるでしょう。
口座開設手続きの所要時間は、早ければその日のうちに口座番号が発行されます。ただしデビットカードの発行やオンラインバンキングのセットアップには数日かかることがあります。口座番号取得後、初回入金を行えばすぐに利用開始できます。駐在員の場合、日本からの個人資金を送金するケースより、現地法人から給与振込を受けるケースが多いでしょう。会社の給与支払いサイクルに合わせて、銀行口座開設が間に合うよう逆算して動くと良いです(間に合わなければ一時的に現金や小切手で給与受領し、後日まとめて預金してもらう対応も可能です)。
4.4 外国人個人口座の留意点
- ルピー持ち出し禁止: スリランカでは外国人による現地通貨(LKR)の現金持出し・持込みが原則禁止されています。従って、駐在期間終了時に現地通貨の現金を余らせても日本に持ち帰ることはできません。残余資金は口座から海外送金する必要があります。その際も送金理由(給与貯蓄の送金など)の申告や書類提出を求められることがありますので、定期的に給与の一部を日本口座に送金しておく、あるいは最後にまとめて送る際は銀行と事前調整するなどして対応しましょう。
- ATM・カード利用: スリランカのATMは都市部では充実していますが、銀行によってネットワークが異なります。自分の口座を開設した銀行のATMであれば基本手数料無料ですが、他行ATMだと利用料がかかる場合があります。デビットカードはVisaまたはMaster提携が一般的で、店舗やオンラインでの支払いにも利用できます。紛失盗難時の再発行手続きも確認しておくと安心です。
- インターネットバンキング: 銀行によってはスマホアプリやウェブで残高照会・送金指示が可能です。外国人でも登録できますので、積極的に活用しましょう。日本への送金もオンラインで指示できる銀行もあります(ただし高額送金は支店窓口へ行くよう求められることも)。
以上が駐在員個人口座開設の概要です。次に、実際の資金送金に関わる制度と規制について、企業送金を中心に解説します。
5. スリランカへの資金送金の制度と規制
海外ビジネスでは本国から現地への送金や、現地収益の本国送金が発生しますが、国ごとに外為法規制や送金ルールが異なります。ここではスリランカに資金を送る際の制度や留意すべき規制について整理します。
5.1 外国為替管理の基本枠組み
スリランカでは2017年に新外国為替法(Foreign Exchange Act No.12 of 2017)が施行され、従来の厳格な為替管理から一部自由化へと舵が切られました。この法律の下で、個人・企業の外貨取引は中央銀行認可のディーラー(Authorized Dealer)である銀行を通じて行うことと定められています。つまり、日本からスリランカへの送金やスリランカから海外への送金は、必ず銀行を仲介して行う必要があり、正規の銀行口座間送金であれば合法的に処理できる仕組みです。一方で、非公式ルート(現金持ち出しや第三国経由の迂回など)は違法となるため注意が必要です。
外貨の持ち込み・持ち出しに関しては、一度に1万5千米ドル相当額を超える現金を持ち込む場合は税関への申告義務があります。逆に持ち出しも制限があり、外国人については前述のとおりルピーの現金持出しは禁止されています。外貨現金は一定額まで持ち出せますが、それ以上は銀行での送金に切り替える必要があります。
5.2 投資資金とIIAの規制
外資による投資資金は対内投資口座(IIA)経由で送受されることが義務付けられています(中央銀行の通達により)。前章までに述べた通り、資本金や外国親会社からの借入金などはIIAに入金する必要があります。これは資本取引(Capital Transaction)として扱われ、IIAに入った資金は現地法人の資本勘定に組み入れられます。その後、配当金や借入金返済の送金時もIIAを経由して本国へ戻せるようになります。
具体的には、中央銀行のガイドラインでは「外国親会社が開設したIIAを通じて投資された資金については、利益や余剰資金の本国送金が認められる」と規定されています。これは、事前にIIAを使っていない資金(例えば現地で調達した資金や第三者から受け取った資金)を海外送金する場合は制限や審査があることを意味します。したがって、親会社からの送金は必ずIIAを利用し、IIA以外の資金はできるだけ現地で消費・投資する形で処理することが望ましいです。
5.3 収益の本国送金と税金
現地で事業が軌道に乗れば、現地法人の利益を日本本社へ配当という形で送金する局面も出てきます。その際の規制ですが、基本的には納税義務を果たした後の利益であれば配当送金は認められています。スリランカでは企業利益に対する法人税や配当金に対する源泉徴収税がありますが、これを納付した上で残った可処分利益を株主に配当し、それを海外に送金することができます。配当送金の際にも、銀行には税金支払い済みであることの証明(納税証明書など)を提出することで円滑に処理してもらえます。
2022年の経済危機時には、スリランカ政府は一時的に「企業の海外への資金送金」に厳しい制限を設けました。具体的には資本取引に関する送金を停止・制限する緊急措置が取られ、外貨の国内留保を図りました。しかしながら、このような緊急措置は2023年末までに順次解除されてきており、IMF支援下での経済正常化に伴い2024年以降は送金規制も平常ベースに戻りつつあります。それでも、為替状況によっては再度規制が強化されるリスクもゼロではありませんので、現地情勢の最新情報を入手することが大切です。特に大口送金(例:100万ドル超など)の際には事前に銀行と相談し、中央銀行への報告義務や承認手続きが要るか確認しておくと安心です。
5.4 その他の関連制度
- ネガティブリスト規制: スリランカには外資参入が制限または禁止されている業種があります(茶葉・ゴムなど一部農業や土地取引等)。そうした業種への投資資金は送金自体認められない場合がありますので、自社の事業分野が特殊な場合はJETRO等の情報で事前に確認しましょう。
- 輸入決済: 機械設備や商品を日本から輸出してスリランカ法人が輸入代金を送金する場合、輸入許可(商務省のImport Control License)が必要なものがあります。許可が必要な物品は、銀行が送金実行前に書類確認を行います。該当しない通常物品であれば商業送り状と請求書の提示で支払い送金ができます。
- 外国借入金: 親会社以外からの外国からの借入(金銭消費貸借)を現地法人が行う場合、中央銀行の事前承認が必要になるケースがあります。借入金も資本取引扱いとなり、IIA経由での入金および返済時の手続きが指定されますので、外部からの資金融通を検討する際は専門家に相談してください。
以上、スリランカへの資金送金に関する制度面のポイントを概観しました。次章では、これら制度のもとで実際に送金を行う際の具体的な手続きや留意点、為替変動への対応について掘り下げます。
6. 実務での送金手続き・注意点・為替の影響
ここからは実践編として、日本とスリランカ間で資金をやり取りする際の具体的な手順や気を付けるべきポイント、そして為替レートの変動が事業資金に与える影響について解説します。
6.1 日本からスリランカへの送金方法
親会社から現地法人への送金は通常、以下の2通りのルートがあります。
- 銀行電信送金(TT: Telegraphic Transfer): 日本の銀行からスリランカの受取銀行(現地の自社口座)へSWIFTを利用して海外送金する方法です。もっとも一般的で安全な手段です。日本側銀行で送金依頼書に受取人名義・口座番号・銀行名・SWIFTコード・受取銀行住所・送金金額・通貨・送金目的等を記入し実行します。数営業日でスリランカ側口座に着金します。送金手数料は日本の送金銀行手数料と、場合によっては中継銀行・受取銀行の手数料がかかります(手数料負担区分による)。資本金送金の場合は必ずIIA宛にし、用途も「Investment in capital」等と明示しましょう。
- 国際送金サービスの利用: 最近ではWISE(旧称TransferWise)などのオンライン送金サービスを使う方法もあります。ただし法人送金では制限があったり、送金額が大きい場合は結局銀行間送金となるので、中小企業でも基本は銀行TTを選択するほうが無難です。個人の小口送金であればWISE等で割安に送金できることもありますが、サービス提供会社が為替管理上認可されているか確認が必要です(一般的にWISEは各国でライセンス取得していますが、企業の資本金送金には適しません)。
送金通貨は前述の通り米ドルが標準的ですが、円高/円安の状況によっては日本円送金後の換金タイミングを考慮することもあります。例えば円高局面では円をドルに換えて送ったほうが現地で多くのルピーを調達でき、有利になります。逆に円安が進行しているときは早めにある程度まとめて円→ドルに換えて送金し、将来の為替変動リスクを抑える戦略も取れます。為替相場は専門家でも予測が難しいため、一度に全額送るか分割して送るかは資金計画に沿って検討しましょう。
6.2 スリランカから日本への送金方法
現地で得た利益や配当金、あるいは駐在員の給与貯蓄を日本に送る場合も、基本は銀行電信送金です。現地法人から本社への配当送金では、銀行に取締役会の配当決議書や税務申告書類を提出した上で送金します。個人の場合も、送金依頼書に用途を記入(例:「Savings from salary」など)し、必要に応じて給与明細や納税証明を添付します。
注意したいのは為替レートと手数料です。スリランカの銀行が提示する為替レート(ルピー→ドルまたは円)は、中央銀行レートを基準に各銀行のスプレッドが上乗せされています。タイミングによってレートに差が出ることもあるため、まとまった額を円転する場合には複数銀行のレートを比較したり、交渉して有利なレートを適用してもらう余地もあります。特に外資系銀行だとマーケット連動性が高く、時間帯によってレートが細かく変動しますので、その日のうちでもより円安な(ルピー高な)瞬間を狙うことも可能です。もっとも、通常の事業送金ではそこまで神経質になる必要はなく、予算レートに基づいて計画的に送金すれば問題ありません。
なお、スリランカから海外への送金には1件ごとに送金申告書(Form)の提出を求められることがあります。これはマネロン防止のための情報収集で、送金人・受取人・金額・目的を簡単に記入するものです。銀行窓口でフォームに書けばその場で済むため、大した手間ではありませんが、記載内容に矛盾がないよう気を付けましょう。
6.3 送金手続きにおける留意点
- 送金リファレンスの明確化: 親子間の送金や貸付金のやり取りでは、後から監査や税務調査の際に説明できるよう送金電文の備考欄(Reference)にできるだけ詳細を記載しておくことをお勧めします。たとえば「Loan from Parent Co. to Subsidiary, per agreement dated YYYYMMDD」といった具合です。これにより銀行の月次取引明細を見返した際に目的が判別しやすくなります。
- 中継銀行手数料: 日本からスリランカ送金では、直接提携関係がない場合中継銀行(国際決済ネットワーク上の経由銀行)を挟むことがあります。この際、中継銀行が手数料を差し引くため、現地到着額が送金額より減ることがあります。契約上資本金ちょうどを送る必要がある場合などは、手数料負担区分を「OUR」(送金人負担)にして送金し、全額着金させるようにしましょう。
- 送金所要日数: 日本とスリランカ間の送金は通常2~3営業日で届きます。ただし日本の銀行で受付が午後の場合翌日扱いとなったり、スリランカ側が週末(土日)にかかると休業日のため遅れます。特に4月や12月は両国の祝祭日が多いため(4月はスリランカ新年で銀行休業あり)、余裕を持って手続きしましょう。
- 緊急時のフォロー: 万一送金が期日までに届かない場合、SWIFTのトレーサー照会を依頼できます。送金番号を伝えれば銀行間で追跡してくれますので、不着の際は早めに送金元・先双方の銀行に問い合わせましょう。
6.4 為替レートの影響とリスク管理
中小企業にとって為替変動は利益を大きく左右し得る要素です。特にスリランカ・ルピー(LKR)は主要通貨に比べボラティリティ(変動率)が高めで、経済情勢によって大きく上下する可能性があります。2022年には対米ドルでルピーが急落(大幅なルピー安)し、輸入コストが跳ね上がる事態となりました。このような為替リスクに備えるための基本方針を考えておきましょう。
- 収入と支出の通貨バランス: 現地法人の収入が主にルピー建てで、親会社への支出(原材料費や配当)がドル建ての場合、ルピー安になるとより多くのルピーが必要となり収益圧迫します。このような場合は、一部売上を外貨で獲得する(輸出事業を行う、または外貨で料金設定する)か、さもなくば為替予約を利用して将来の円貨/ドル貨をある程度固定してしまう方法があります。スリランカ国内の銀行でもフォワード契約(Forward Exchange Contract)を提供しているところがあり、将来の特定日時のドル円やドルルピーレートを事前にロックできます。ただし中小企業でそこまでの規模でなければ、シンプルに定期的に利益を送金しルピー現地留保を減らすこともリスクヘッジになります。為替変動で目減りする前に本国に送っておくという考え方です。
- 複数通貨の活用: スリランカではルピー以外に米ドルやユーロの利用も一定認められています。例えば大きな取引は米ドル建て契約にすることで、ルピーの変動ではなくドル円の変動だけに露出を限定できます(ドル円相場のほうが情報量も多く対応しやすい)。また駐在員給与についても、一部を日本円またはドルで本国口座に振込む形にし、残りをルピー現地支給とすることで個人としての為替リスクを分散できます。
- 最新情報の収集: 為替規制や相場に関する情報は、中央銀行発表やニュースを注視しましょう。特に中央銀行が介入する際は事前に報道が出ることもあります。One Step Beyond株式会社のような進出支援企業や金融機関のニュースレターを活用し、レート動向や政策変更にアンテナを張っておくことが肝要です。経済危機時には非公式のマーケット(闇レート)が生じることもありますが、そうしたルートに手を出すのはリスクが大きいため、正規の銀行を通じた取引を守ることが長期的に信頼関係を築くポイントです。
以上、送金実務と為替対応について詳しく見てきました。では次に、進出企業が直面する「どの銀行を選ぶか」というテーマに移りましょう。日系企業に人気の金融機関や選定時の視点を整理します。
7. 銀行の選び方と日系企業に人気の金融機関
現地でビジネスをする上で、取引銀行の選定は重要なステップです。スリランカには多数の銀行がありますが、どの銀行と付き合うかによって日々の利便性やサービス品質が変わりますし、将来的な融資などファイナンス面でも違いが出てきます。ここでは銀行を選ぶ際のポイントと、日本企業から信頼を集めている主な銀行を紹介します。
7.1 銀行選定のポイント
- 信頼性と規模: まずは銀行の信用度です。一般的に大手銀行は財務基盤が安定しており、万一の破綻リスクが低いため安心です。特に国有銀行(セイロン銀行やピープルズ銀行)は政府保証的な安心感があります。ただ、大手でも経営状況は年によって変わり得るため、最新の銀行格付けや業績報告をチェックするのも良いでしょう。また規模が大きい銀行ほどサービスメニューが豊富でワンストップで色々対応してもらえる利点もあります。
- サービス品質: 中小企業には、銀行担当者の対応の良さや親身さも大事です。例えば、口座開設手続きにどれだけ柔軟に協力してくれるか、英語で質問した際に迅速かつ的確に回答してくれるか、といった点です。実際にコンタクトしてみてレスポンスの早い銀行、こちらの要望を理解してくれる銀行を選ぶことをお勧めします。
- 外国為替と国際業務への強み: 親会社との資金やり取り、輸出入決済、海外送金の頻度が高い事業の場合、外国為替業務に慣れている銀行が望ましいです。国有のセイロン銀行は海外のコルレス網が非常に広く、世界中の銀行と直接送金取引があるため円滑と言われます。またHSBCやスタンダードチャータードといった外資行は国際業務の専門家が多く、複雑なL/C決済(信用状取引)なども安心して任せられます。一方、地場民間銀行でもコマーシャル銀行やHNBは国際部門が充実しており、日本向け送金も問題なく処理できます。
- 手数料・レート: 日々のATM利用料、送金手数料、外貨両替レートなど、コスト面も比較材料です。銀行ごとに大きな差はないものの、例えば外資銀行は送金手数料が高めだがレートは良心的、地場銀行は送金手数料は安めだが中継銀行を挟むため着金額が少し減りやすい、など特色があります。月次の口座維持手数料も銀行により異なるので確認してください(多くは残高要件を満たせば無料)。
- ネットワーク: スリランカ国内で複数拠点を展開する場合、その銀行の支店ネットワークも重要です。地方都市に支店がない銀行だと、本店との遠隔やり取りになり時間がかかることもあります。国有銀行や大手民間銀行は地方にも支店がありますし、工業団地付近に出張所を置いている場合もあります。逆に拠点がコロンボ1か所だけなら、外資銀行でも不自由しません。
- 日系企業との関係: 日本企業に対する理解が深い銀行は、文化や要望を汲んだサービスを提供してくれる傾向があります。例えばセイロン銀行は2014年にみずほ銀行と業務提携を結んでおり、日本企業へのサービス強化を図っています。こうした協定のある銀行は、日本語の資料があったり日本デスクを設けていることもあります(常駐日本人スタッフはいないまでも、担当者が研修で日本に行った経験があったりすることも)。
7.2 日系企業に人気の主な銀行
以下に、日本企業からの評価が高い代表的な金融機関を挙げます。
- Bank of Ceylon(セイロン銀行): 国有最大手。預金・貸出シェアトップであり、国内618以上の支店網を持ちます。豊富な外貨取引実績があり、各国の銀行とのコルレス関係も厚いです。日本のメガバンク(みずほ銀行)と協力協定を結んでいるため、日系からの紹介で口座開設や融資相談をするとスムーズです。政府系プロジェクトの資金取扱にも強みがあり、大型案件に関与する場合頼りになります。
- Commercial Bank of Ceylon(コマーシャル銀行): 民間銀行最大手で、「民間のBenchmark Bank」と称される存在です。経営の健全性やIT化への積極性で評価が高く、特に中小企業融資やデジタルバンキング分野に強いです。日本円を含む主要通貨の為替サービスも充実しており、他行に比べてオンラインバンキングの使い勝手が良いとの声があります。国内外の賞も多く受賞しており、現地ビジネスパーソンの信頼も厚い銀行です。
- Hatton National Bank(HNB): 民間大手。SME支援や農村部への融資など地元経済への貢献度が高い銀行です。デジタル化にも熱心で、モバイルバンキングアプリの利便性はトップクラス。日本企業では工業団地などローカル従業員の給与支払いでHNBを採用する例もあります。英語対応もしっかりしています。
- HSBC(香港上海銀行): 言わずと知れた外資系の大手銀行。コロンボにリテール・法人営業拠点があります。国際ネットワークを活かしたキャッシュマネジメントやトレードファイナンスが強みで、多国籍企業の利用が多いです。日系企業でも地域統括をシンガポールなどで行っており、HSBCグローバルバンキングを使い慣れている場合はスリランカでもメインに据えることがあります。個人口座では富裕層向けのPremier口座を提供するなど、高所得駐在員にもサービスが手厚いです。
- Standard Chartered Bank(スタンダードチャータード銀行): イギリス系の外資銀行で、スリランカでは160年以上の歴史があります。貿易取引に強く、信用状(L/C)発行や国際決済で高い専門性があります。融通の利くサービスというよりは決められた手続きに則った確実性を提供する銀行なので、大企業や政府取引に向いていますが、日系中堅企業でも信頼を寄せるところがあります。
- 人民銀行(People’s Bank)やサンパス銀行(Sampath Bank)なども現地では有力ですが、日系企業との直接取引実績では上記ほど多くない印象です。ただし進出形態や立地によってはこれらの銀行が第一候補になる場合もあるでしょう。例えば地方政府との結びつきが強い案件では人民銀行が適していることがあります。
7.3 複数銀行との取引と使い分け
実務上、複数の銀行口座を用途別に持つことも珍しくありません。例えば、「メインバンクとしてコマーシャル銀行に法人口座を置き、給与振込や国内決済はそこで行う。一方で親会社との外貨送金や為替取引はセイロン銀行の口座も作って、レートや手数料を比較し有利な方を使う」といった形です。また、銀行のシステム障害や国の混乱時に備え、リスク分散で別銀行にも少額預金しておくこともあります。2022年の経済混乱時にも銀行間でサービス提供に差が出た事例があったため(現金引き出し限度額など)、バックアップの意味で2行程度と取引関係を持っておくのは良い戦略です。
但し、あまり多くの銀行に広げすぎると管理が煩雑になりますし、各銀行との関係構築も浅くなりがちです。最初は1行をメインに決め、必要に応じてサブをもう1行追加するくらいで十分でしょう。その上で、どちらの銀行とも良好なコミュニケーションを保ち、困ったときに柔軟に対応してもらえる関係を築くことが大切です。
以上、銀行選びについて解説しました。次章では、One Step Beyond株式会社が提供する進出企業向けサポートの中から、今回のテーマ(銀行口座開設・資金送金)に関連する内容をご紹介します。
8. One Step Beyond株式会社によるサポート内容
スリランカへの進出準備や現地での事業運営において、One Step Beyond株式会社は中小企業向けに総合的なサポートを提供しています。特に金融機関対応や資金管理の面でも、現地事情に通じた専門家が伴走いたします。今回のテーマである銀行口座開設と資金送金に関連して、当社が提供できる主な支援内容を以下にまとめます。
- 事前コンサルティング(銀行制度・規制の理解): スリランカの銀行制度や外為規制について、最新情報を踏まえて分かりやすく説明します。IIA口座の開設要否や資本金送金の段取り、駐在員の口座準備など、企業ごとの事情に合わせたアドバイスを行います。またどのタイミングで何をすべきか、資金計画と紐づけてスケジュール策定を支援します。
- 銀行口座開設の実務サポート: 法人口座および個人口座の開設にあたり、必要書類のチェックリスト提供から各書類の準備代行(英文翻訳・認証取得の手配等)、銀行との事前折衝まで幅広くお手伝いします。現地の提携銀行担当者と連絡を取り、口座開設当日のアポイント設定や同行サポートも可能です。英語でのコミュニケーションが不安な場合も、当社スタッフが橋渡ししますので安心して手続きを進められます。
- 資金送金フローの構築: 親会社⇔現地法人間の資金の流れや、売上代金回収・経費支払フローを一緒に設計します。具体的には、IIAからの資本金振替手順の策定、輸入代金決済の銀行手続き指導、配当送金時の税務上の留意点チェックなど、資金が滞りなく移動するよう総合的にサポートします。また、必要に応じて為替リスク軽減のための助言(例えば外貨建取引の活用やヘッジ手段の検討)も行います。
- 銀行選定・交渉の支援: 企業の規模や事業内容に適した銀行選びについて、当社の豊富な知見から候補を提案します。すでにスリランカで取引実績のある日系企業の事例も踏まえ、どの銀行がどういう点でメリットがあるか比較検討できます。希望があれば銀行の紹介も行い、口座開設後も各種サービス(融資や為替商品)の利用に向けた交渉をサポートします。たとえば、初期運転資金の借入ニーズがある場合に銀行融資担当者を紹介し、条件折衝を円滑に進めるお手伝いをいたします。
- 継続的なフォローアップ: 口座開設・送金が一通り完了した後も、定期的にフォローアップ面談を行い、資金面で困っていることがないかヒアリングします。スリランカでは制度変更が起こりやすいため、為替規制の更新情報や銀行業界のニュースを適宜共有し、必要なら対応策を一緒に考えます。さらに、駐在員の個人口座についてもセキュリティ対策や利便性向上の提案(例えば給与自動送金サービスの利用など)を行い、企業と駐在員双方にとって安心できる金融環境づくりを継続支援します。
One Step Beyond株式会社は、単に情報提供するだけでなく、「実行支援型」のサービス提供を信条としています。銀行口座開設や資金送金といった実務は、小さなミスが後々の大きな問題につながりかねません。当社のサポートによってこれら金融面の手続きを確実に遂行し、お客様企業が本業に専念できるようバックアップいたします。
9. まとめと事前準備のチェックポイント
最後に、本記事の内容を総括し、スリランカに進出する際に事前に準備・確認しておくべきチェックポイントを整理します。
1. スリランカの銀行制度把握: 中央銀行の役割や主要銀行の種類、IIA口座などの特殊制度を理解しておきましょう。現地通貨ルピーの持出し規制や2022年の一時的な送金制限の経緯など、背景知識を持つことで臨機応変な対応が可能になります。
2. 口座種類と利用目的の明確化: 開設すべき口座として、親会社側のIIA、現地法人の当座預金口座、駐在員個人の口座が挙げられますが、それぞれの役割を明確にし必要書類を事前に準備しましょう。IIAは投資資金専用、法人口座は事業決済用、個人口座は給与・生活費用と整理して計画を立ててください。
3. 法人口座開設の実務準備: 会社設立直後から速やかに口座開設手続きに入れるよう、登記簿謄本や定款の英文版、取締役会決議書案などを日本出国前に用意しておくと安心です。特にアポスティーユなど時間がかかる認証は日本で取得しておきましょう。また銀行への提出書類はコピーでも良いもの・原本が必要なものがありますので、不明点は早めに問い合わせる姿勢が大切です。
4. 外為規制・税務の遵守: 資本金送金はIIA経由、配当送金には納税後の資金を使う、といった法令順守を徹底しましょう。仮に規制が厳しくなっても正規の手続きを取っていればトラブルを最小化できます。現地会計士やコンサルタントとも連携し、税務・法規の変更点をアップデートしてください。
5. 為替変動への備え: 円高・円安やルピー相場の変化に備えて、資金計画に余裕を持たせることと、必要に応じたヘッジ手段の検討をしておきましょう。予算策定時に安全レートで試算し、想定以上に為替が動いた場合の代替策(追加送金や費用削減策等)をシミュレーションしておくと安心です。
6. 金融機関の選定: 信頼できるメインバンクを決め、連絡窓口をはっきりさせておきましょう。日本本社側の銀行担当者とも連携し、国際送金時の問い合わせ先や緊急連絡先を共有しておくと、いざという時に素早く対応できます。必要ならOne Step Beyond株式会社など専門家のネットワークを活用して現地での銀行紹介を受けてください。
7. 専門家の活用: ゼロから全て自社で調べて対応するのは労力がかかります。不明点や不安があれば遠慮なく専門家に相談し、適切な助言や実務代行を受けることも賢明な選択です。銀行口座開設や資金移動のスムーズさは事業開始時のストレスを大きく軽減してくれます。
以上、スリランカでの銀行口座開設と資金送金実務について、包括的に解説しました。スリランカ市場は経済の不安定要因も抱えますが、適切な金融手続きを踏み確実な資金管理を行えば、そのポテンシャルを十分に活かしたビジネス展開が可能です。綿密な事前準備と現地専門家の力の活用によって、ぜひ万全の体制でスリランカ進出を成功させてください。
本記事は情報提供を目的として作成されており、特定の法的アドバイスや投資判断を示すものではありません。実際のビジネスにおいては最新の公式情報を確認し、専門家と相談の上でご判断ください。スリランカ進出や銀行口座開設、資金送金に関するご不明点がございましたら、One Step Beyond株式会社までお気軽にお問い合わせいただければ幸いです。
参考資料:
- 日本貿易振興機構(JETRO)「外国企業の会社設立手続き・必要書類 | スリランカ」(2023) – 外資企業の対内投資口座(IIA)経由での資本金送金要件等について解説
- 株式会社東京コンサルティングファーム「スリランカのIIA口座とは」(2020) – スリランカ特有のInward Investment Accountの概要と用途を説明
- スリランカライフ「日本から送金するなら”IIA”口座がお勧め」(2018) – IIA口座と旧SIA口座の統合、およびIIA経由の投資資金リターン送金メリットについて
- JETRO「為替管理制度 | スリランカ」(2022) – スリランカにおける外国為替管理の制度変更や一時的規制措置に関する情報
- Mizuho Bank プレスリリース「Business Cooperation Agreement with Bank of Ceylon」(2014) – スリランカ国有銀行と日本の銀行の業務協力に関する発表資料(日系企業向けサービス強化)
- Wise(旧TransferWise)公式ブログ「How to open a bank account in Sri Lanka」(更新日不明) – 外国人がスリランカで銀行口座を開設するための必要書類や所要時間に関するガイド
- Redditスリランカフォーラム「Opening Bank Accounts in Sri Lanka for Non-Residents」(2023投稿) – 非居住者がスリランカで口座を開く際のパスポート・ビザ・住所証明など必要条件についてのQ&A
- One Step Beyond株式会社公式ブログ「スリランカでの会社設立の流れ(進出計画・準備編)」(2025) – スリランカ進出時の基礎知識や手続き、同社の支援内容に関する記事シリーズ