スリランカ:輸出サービス税の引き下げとデフォルト終了宣言で示す新たな可能性 スリランカ:輸出サービス税の引き下げとデフォルト終了宣言で示す新たな可能性

スリランカ:輸出サービス税の引き下げとデフォルト終了宣言で示す新たな可能性

〜最新ニュースと日本企業にとっての機会・課題〜


はじめに

近年、政治的・経済的に大きな変革期を迎えているスリランカ。2022年に深刻な経済危機と債務不履行(デフォルト)状態に陥った同国ですが、2024年12月20日に正式に「デフォルト終了宣言」が行われ、国際社会からの信用回復に向けて新たな一歩を踏み出しました。こうした中で、政府が輸出産業を再生させるために打ち出した政策として注目を集めるのが、「輸出サービス税の引き下げ」です。

今回取り上げるのは、現地経済紙「ft.lk」に掲載された記事「Export-service-tax-cut-to-boost-sector-s-growth-EDB-Chief」(以下「本記事」)です。本記事によると、この税制改革はITやBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)などのサービス輸出部門にとって、コスト競争力の強化や収益機会の拡大につながる可能性が高いとのこと。さらには、2024年末のデフォルト終了宣言が象徴するように、債務再編や国際支援の進捗と連動して、スリランカは「外貨獲得力」を高めることを最重要課題のひとつとして掲げています。

本稿では、**「輸出サービス税の引き下げ」と「デフォルト終了宣言」**という二つの重大な動きに注目し、スリランカの現状と今後の行方を俯瞰します。特に日本企業にとっては、経済危機を乗り越えつつあるスリランカへの進出機会と、そこに潜むリスク・課題を整理することが必須です。再び活気を取り戻そうとするスリランカ市場が、果たしてどれほどの魅力を持ち、どのように攻略すべきなのか——以下で詳しく解説していきます。


1. 記事の概要:「輸出サービス税の引き下げで成長を加速」

1.1 ニュースのポイント

  • 輸出産業開発庁(EDB)のトップが期待を表明
    スリランカ輸出産業開発庁(EDB)の代表者が、政府による輸出サービス税の引き下げにより、同国の輸出セクターに大きな成長が見込めるとコメントしている。特に、ITサービスやBPOといった海外向けサービスが一層の競争力を得られるとの見解。
  • 税制改革の具体的狙い
    これまで企業活動の重荷となっていた税金が軽減されることで、外貨獲得の要となる輸出サービス分野の活性化をめざす。その背景には、2022年以降の債務危機から回復を図る国策がある。
  • デフォルト終了宣言との関連
    2024年12月20日に正式にデフォルト終了が宣言されたことを受け、国際金融市場からの信用を再構築し、外資誘致と輸出促進を一気に加速させるための施策の一環とみられる。

1.2 輸出産業への期待と政府の狙い

  • IT・BPOの成長潜在力
    コロンボなど都市部でのIT立国化の動きや、英語能力の高い若者の増加により、インドに次ぐ新たなオフショア開発拠点として期待が高まる。税制メリットにより、海外企業の誘致が加速する可能性。
  • 伝統的輸出品(紅茶、ゴム、繊維)への波及
    スリランカが伝統的に強みを持つ農産物や繊維産業にも、税制改革が間接的に影響を与えるかもしれない。コスト軽減により、価格競争力を取り戻すチャンスが生まれる。

2. スリランカの現状:2024年のデフォルト終了宣言と経済再生への道筋

2.1 2022年の経済危機とデフォルト

  • 債務不履行までの経緯
    スリランカは対外債務の返済が困難となり、2022年に事実上のデフォルト状態に。燃料不足や通貨急落、国民の生活困窮が相次ぎ、大規模デモや政変が起きた。
  • IMFや国際支援
    IMF(国際通貨基金)や各国政府、国際機関からの支援パッケージを受け、財政緊縮と構造改革を進めることで、通貨安や物資不足は徐々に改善の兆しを見せ始めた。

2.2 2024年12月20日のデフォルト終了宣言

  • 国際信用の回復ステップ
    2024年12月20日に、スリランカ政府は正式に「デフォルト終了」を宣言し、国際金融市場へ復帰する意欲を示した。これはIMFとの合意や債権国との再編協議が進展した結果とされる。
  • 国内外企業への影響
    デフォルト終了宣言により、海外企業の投資や融資が再び活性化することが期待される。しかし、為替リスクや政治リスクが完全に消えたわけではないため、慎重な見極めが求められる。

2.3 2024年以降の経済再建

  • 観光業と輸出産業の二本柱
    コロナ前には観光大国として浮上していたスリランカ。観光再開と輸出産業の強化を二本柱として、短中期的な外貨収入の増加を狙う政策を打ち出している。
  • 構造改革の行方
    国営企業の民営化や補助金カット、財政健全化などを進める政府の動きに対して、国民の反発や政治的対立が潜在している。改革が順調に進むかどうかが、長期的な安定を左右する。

3. 日本企業にとっての機会:税制改革とデフォルト終了のシナジー

3.1 サービス分野(IT・BPO)への参入チャンス

  • 新たなオフショア拠点
    インドなど従来のオフショア先が人件費上昇や競争激化でコストが高まる中、スリランカは英語力・ITスキルの面で注目度が増している。輸出サービス税の引き下げは、開発コストの面でもメリット大。
  • 日系IT企業との親和性
    日本独特の業務フローや文化を踏まえた開発が必要なケースでも、スリランカ人材の英語力と柔軟な学習能力が生きる可能性がある。現地スタッフのリクルートや育成を計画的に行えば、日系企業にとって有力なパートナーとなるだろう。

3.2 製造業・インフラ投資の展望

  • インフラ再整備の加速
    債務再編が進むことで、道路や電力などの公共インフラ投資が再開し始めている。日本の建設会社やインフラ関連企業がこのプロジェクトに参画するチャンスが期待される。
  • ASEAN・インドとの連携ハブ
    地理的にインド洋の要衝にあるスリランカは、インドおよび中東、さらにアフリカ方面へのトランジット拠点として潜在力を持つ。日本企業が製造拠点や物流拠点を構築する場合、地域戦略の一環として位置づけやすい。

3.3 観光・ホスピタリティ産業の潜在力

  • コロナ後の観光需要リバウンド
    世界的にコロナ収束ムードが広がる中、ビーチリゾートや仏教遺跡など、多彩な観光資源を持つスリランカは再浮上が期待される。日本人観光客誘致にも可能性が大きい。
  • 日本企業のビジネス機会
    ホテル運営、旅行代理業、飲食やエンターテインメントなどのサービスが狙い目。ローカルスタッフの接客訓練や日本の“おもてなし”ノウハウを導入すれば、差別化が図りやすい。

4. 日本企業が直面する課題とリスク

4.1 政治的・社会的安定性への懸念

  • デフォルト終了宣言後も続く改革の痛み
    IMF主体の構造改革で、増税や補助金削減など国民負担が増す施策が進められている。社会的反発や政治対立が再燃すれば、経営計画の変更を余儀なくされる恐れがある。
  • 不透明な法規制と通関手続き
    輸出サービス税は下がっても、他の税目の新設や通関の遅れなどがビジネスコストを高めるケースがある。現地法務・会計の専門家との連携が不可欠。

4.2 インフラ・物流面の制約

  • 電力供給の不安定さ
    地域によっては停電が発生しやすいなど、電力インフラが万全とはいえない。ITアウトソーシングや製造業では、安定稼働のための自前の発電設備やUPS(無停電電源装置)が必要かもしれない。
  • 港湾・道路の整備状況
    コロンボ港は地域のハブとしての機能が期待される一方、周辺道路や地方への物流ルートが十分に整っていない地域もある。大規模な輸出入を伴う事業は、物流コストを十分検討する必要がある。

4.3 人材確保とマネジメント課題

  • 人材流動性の高さ
    ITやBPOセクターでは、優秀な人材が高い給与を求めて海外に流出する“ブレイン・ドレイン”が問題化しやすい。日本企業が現地に拠点を構えて採用しても、定着に向けた適切なキャリアパスの提供が求められる。
  • 文化的・コミュニケーション上のギャップ
    スリランカのビジネス習慣や宗教・文化などを理解しないと、現地スタッフとの信頼関係が構築できない可能性がある。多国籍チームをうまくマネジメントする体制づくりも大きな課題。

5. 「第二領域経営®」によるスリランカ進出の戦略策定

5.1 緊急度と重要度を見極める

  • 目先の業務 vs. 中長期の市場獲得
    スリランカ市場への参入検討は、“緊急ではないが重要度が高いテーマ”に該当する場合が多い。事業拡大を急いで他の緊急案件に押し流されるのではなく、経営トップが計画的に時間を割いて検討すべき。
  • 月次・四半期での進出プロジェクト会議
    会議の設計や意思決定のフローを「第二領域経営®」の考え方に当てはめ、将来のリスクと期待リターンをバランスよく分析できる場を設ける。

5.2 情報収集とリスクシナリオづくり

  • 専門家・公的機関の活用
    JETROや大使館、現地コンサルタントから、税制優遇策や投資誘致制度などの最新情報を得る。デフォルト終了後の新政権動向や、法改正の速度感も把握しておく。
  • 複数シナリオを設定
    政治安定シナリオ、改革停滞シナリオ、観光復興シナリオなど、複数の前提条件を想定し、対応策や投資金額を変動させる柔軟な戦略を練る。

5.3 段階的進出とパートナー連携

  • 少額投資・実証プロジェクトから開始
    一気に大規模投資を行わず、まずはパイロットプロジェクトや合弁会社などで市場感をつかむ。現地人材との相性や物流体制をテストし、成功すれば拡大するステップ型のアプローチがリスクを低減する。
  • ローカル企業との協業
    現地のビジネス慣行や人脈を活かせるローカル企業との合弁や業務提携により、文化的・政治的リスクを一定程度カバーする方法も有効。相互の得意分野を補完できれば、参入スピードが速まる。

6. 今後の展望と日本企業への提言

6.1 デフォルト終了後の動向

  • 外資誘致と改革ペース
    2024年のデフォルト終了宣言を受けて、外資系企業の投資が再燃する可能性があるが、改革ペースが遅れると期待外れとなるリスクもある。政府の施策や政治情勢を注視する必要がある。
  • 輸出セクター強化のさらなる措置
    今回のサービス税引き下げだけでなく、製造業や観光業向けの追加優遇策が出されることも十分考えられる。経済危機からの回復段階にある国では、投資家向けインセンティブが拡充されがちだからだ。

6.2 日本企業が取るべきアクション

  1. 現地の最新情報収集と専門家連携
    政府の政策発表や税制変更のタイミングは突然訪れることが多い。公的機関やコンサルタントとの連携で、常に最新情報をキャッチアップしよう。
  2. 段階的投資とリスク管理
    大規模投資を行う前に、小規模な参入や合弁などで市場をテストし、成功なら拡大、リスクが高いと感じたら縮小という柔軟戦略が有効。
  3. 多文化マネジメントと組織づくり
    海外進出プロジェクトチームでは、異文化間コミュニケーションや現地人材のモチベーション管理が欠かせない。日本流のやり方を押し通すのではなく、ローカルの事情に合わせた柔軟性を持つことがカギ。

6.3 「第二領域経営®」を活かした継続的な意思決定プロセス

  • 経営トップのコミット
    海外展開を戦略的に進めるには、経営トップや役員クラスが“緊急ではないが重要”という意識を持ち、定期的にスリランカ進出の進捗やリスクをモニタリングする場を作る。
  • 会議とKPI管理の仕組み化
    月次あるいは四半期ごとの会議で、現地子会社やパートナーからのレポートを検証し、次の打ち手を議論する。KPIを設定して成果を可視化すれば、リスクアセスメントも容易になる。
  • 長期ビジョンとの整合性
    スリランカ進出が単なる一時的なコスト削減策に留まらず、企業の中長期ビジョンの一環として位置づけることで、じっくりとリターンを育てる姿勢が不可欠。デフォルト終了宣言や輸出税制改革といったポジティブな要因も、“一過性”に終わらないよう継続的なリソース投入が望まれる。

7. まとめ:変革期のスリランカで描く未来戦略

2024年12月20日に公式にデフォルト終了が宣言されたスリランカは、経済危機からの再建プロセスを進めるなかで、「輸出サービス税の引き下げ」という具体的な政策を打ち出しました。これにより、IT・BPOなどのサービス輸出が一層の注目を浴び、同国が新興オフショア拠点や観光再興への道を歩むための追い風になると期待されています。

一方で、政治的・社会的な不安定要素やインフラ・人材面の課題は依然として存在し、日本企業が進出を検討する際には、リスク評価と現地パートナーの選定を慎重に行わなければなりません。ここで重要となるのが**「第二領域経営®」**の視点です。短期的・緊急的な課題に流されず、中長期的な視点で海外進出計画を策定し、定期的な会議と意思決定プロセスを整備することが、成果を出す上で不可欠といえます。

主要なポイントを振り返ると:

  1. 輸出サービス税引き下げがもたらすチャンス
    IT・BPOをはじめとするサービス輸出のコスト競争力向上が期待され、日本企業のオフショア先としてスリランカが浮上。
  2. 2024年末のデフォルト終了宣言による信用回復
    債務危機を克服しつつあるスリランカへの投資環境が一歩改善し、外資誘致や輸出促進策が強化される見込み。
  3. 残るリスクと課題
    政治的不安定、インフラ不足、為替リスク、文化的ギャップなど、進出企業が乗り越えるべき壁は少なくない。
  4. 「第二領域経営®」による戦略的アプローチ
    緊急業務に追われる日常の中でも、海外展開という“将来の成長エンジン”に継続的なリソース配分と意思決定を行える組織体制を作ることが鍵。

スリランカ市場は再び活気づきつつあり、今後数年間でどの程度の安定と成長を示すかが、日本企業の進出戦略を左右します。デフォルト終了宣言と輸出振興策のシナジーが現実のものとなるならば、ビジネスチャンスは大きい一方で、慎重かつ段階的な進出が望ましいことも事実。**「第二領域経営®」**を取り入れた経営者視点での冷静な判断と綿密な準備が、スリランカにおける成功への道を拓くでしょう。

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