1. はじめに
近年、気候変動や資源枯渇といった地球規模の課題が深刻化する中で、「環境経営」は世界的に大きな注目を集めています。大企業だけでなく、中小企業においても環境負荷の低減やサステナブルな事業運営を追求することが重要視されるようになりました。実際、取引先からのCSRやESG対応の要求、消費者の環境意識の高まりなどにより、“環境に配慮していない企業”がビジネスの機会を逃すリスクはますます大きくなっています。しかし一方で、中小企業では日々の売上確保や業務運営に追われているため、「今すぐには売上増に直結しないが、将来的に不可欠な」環境施策を後回しにしてしまう構造が起きやすいのが現実です。
こうした構造を変革し、“緊急ではないが重要”な環境経営を継続的に推進できる手法として、One Step Beyond株式会社が提唱し、商標を所有する「第二領域経営®」が注目されています。これは日々の“第一領域”業務（売上や顧客対応など）に時間を取られる一方で、中長期的に企業の将来を左右する“第二領域”のテーマ（研究開発、環境対応、人材育成など）を後回しにしがちな状況を打破するフレームワークです。経営トップや幹部が意図的に“第二領域会議”を設定し、緊急業務ばかりに埋没せずに改革や長期投資に時間を割けるようにすることで、企業が継続的に変革できる体制を整えます。
本稿では、中小企業が環境経営に取り組む意義を改めて整理するとともに、なぜそれが後回しにされがちなのか、その背景を探ります。そのうえで、“第二領域経営®”を活用して環境対策を計画的かつ組織的に推進する方法を示し、具体的な導入ステップや成功事例から学ぶポイントを考察します。最後には、実行時の注意点も取り上げ、環境経営が単なるコストセンターではなく、中長期的な競争力や企業価値向上につながる可能性を探りたいと思います。
2. なぜ中小企業にも環境経営が求められるのか
「環境経営」という言葉は、大企業やグローバル企業が積極的に取り組むイメージが強いかもしれません。しかし、国内外の市場や取引先がESG（環境・社会・ガバナンス）への取り組みを重視する潮流の中で、中小企業も環境対策を無視できなくなっています。具体的に、次のような理由が挙げられます。
まず、サプライチェーンからの要求がますます強まっている点です。大手メーカーや小売企業がサプライチェーン全体の環境負荷削減やCO2排出量管理を求める中で、中小企業も下請け・協力会社として「環境対応の証明」や「排出量報告」といったリクエストを受けることが増えました。ここで対応しきれないと取引先から外される恐れがあり、ビジネス継続自体が危うくなるケースもあります。
次に、消費者の環境意識が急速に高まっている点です。とくに若い世代を中心にエシカル消費やグリーンプロダクトが支持を得ており、環境に配慮している企業は好印象を持たれやすいでしょう。SNSや口コミが拡散する時代において、環境負荷の高い企業イメージが広がるとブランドイメージは著しく損なわれかねません。
さらに、資源価格やエネルギーコストの高騰が顕在化する中で、省エネや廃棄物削減に取り組むことが中長期的なコスト削減やリスク管理に繋がる側面もあります。環境対応は単なるコストではなく、生産性向上やイノベーションの源泉となる可能性を秘めています。
ただし、このように中小企業にとっても必須になりつつある環境経営は、すぐに売上増をもたらすわけではないため、どうしても後回しにされがちです。そこで“第二領域経営®”が活きてくるわけです。
3. 環境経営が後回しにされがちな理由
企業が環境対応の必要性を認識していても、実際に計画を立てたり投資を行ったりする段階までに至らない背景はいくつかあります。
- 短期的利益優先の風土
中小企業では月次の売上・利益確保や人件費の支払いといった課題が切迫しており、“将来に向けた環境対策をやる余裕がない”と考える経営者が多い。成果がすぐ見えない投資は先送りされやすい。 - 資金・人材不足
小規模な企業ほど環境専門家やCSR担当を置くことが難しく、社内ノウハウも乏しいため、どう始めていいのかわからない。外部コンサルを雇う資金も限られ、結局大掛かりな施策はできないとして諦めてしまう。 - “いま売上を上げるほうが大事”という思考
切迫した経営状況で、エコ製品や省エネ設備に投資を回すインセンティブを見出せず、“やりたいが後回し”という構造が続く。 - 顧客や取引先の要請がまだ弱い
地域や業種によっては、取引先や顧客からまだ厳格な環境対応を求められていない場合、“いずれやらなくちゃ”と思いながらも緊急性が感じられず放置される。
こうした状況を打開するには、企業内で“環境対応は将来の経営を左右する重要なテーマ”として改めて位置付け、“第二領域経営®”の方法論を通じて、日常業務（第一領域）に流されず計画的に進めるのが効果的です。
4. 「第二領域経営®」の概要と環境経営への導入
「第二領域経営®」は、企業が“緊急かつ重要”（第一領域）の仕事を優先しすぎて“緊急ではないが重要”（第二領域）の仕事を後回しにする傾向を変革するマネジメント手法です。実践のポイントは、大きく二つあります。まず、経営トップや幹部が定期的に“第二領域会議”を開催し、そこでは売上やクレーム対応など第一領域を一切扱わないルールを敷くこと。次に、日常業務をマニュアル化・権限委譲してトップが細かいトラブルに呼び出されない体制を整え、トップが“将来の経営に直結するテーマ”に集中できる時間を確保することです。
環境経営はまさに第二領域の代表的テーマです。すぐに売上を伸ばすわけではなく、中長期的な企業価値やリスク回避につながる活動だからです。ここに“第二領域会議”を適用することで、少なくとも週や月に一度は環境方針や施策の進捗を議論し、必要な投資や部門間連携を調整するフローを作れます。トップは第一領域業務から意図的に離れ、“環境改善プロジェクト”“省エネ対策”“グリーン調達の検討”などの課題に腰を据えて取り組むわけです。こうして先延ばしのまま形骸化する危険を減らせるのが、「第二領域経営®」の最大のメリットです。
5. 環境経営を推進する具体的ステップ
では“第二領域会議”を活用しつつ、中小企業が環境経営を形だけでなく実効性あるものにするには、どのような手順を踏めばよいでしょうか。以下は一例です。
5.1 トップのコミットメントと目標設定
まず経営トップが“環境対応は将来の経営に不可欠”という方針を明確化し、社内外に発信します。例えばCO2排出量を5年で30%削減する、製品のリサイクル率を高める、廃棄物削減など具体的な目標を数値で示すと良いでしょう。これを“第二領域会議”の冒頭で発表し、社員に対して“これからは環境対応が最優先課題の一つである”というメッセージを伝えます。
5.2 体制整備と担当者アサイン
環境経営の推進には各部門の連携が不可欠です。そこでプロジェクトチームや環境責任者を正式に任命し、週や月のペースで“第二領域会議”に報告する形を作ります。小規模企業なら経理や総務の担当者が兼務する例もあるでしょうが、可能なら専門のスタッフを育成したり、外部コンサルに一部支援を依頼するなど選択肢を検討します。重要なのは、“普段の業務で手が離せないから無理”という事態を避けるために、マニュアル化や権限委譲を徹底して、担当者が時間を割けるようにすることです。
5.3 現状分析と改善計画
環境対応を行うには、まず現状のエネルギー消費や廃棄物排出、物流やサプライチェーンの環境負荷などを把握しなければなりません。これを“環境アセスメント”として、必要なデータを収集します。エネルギー使用料や水使用量、CO2排出の推定、廃棄物量など、細かいデータを整理し“第二領域会議”で報告・検討します。そこから具体的な削減や改善策を立案し、対象範囲とスケジュール、担当を決めるわけです。
5.4 実行とモニタリング
計画が決まったら実行フェーズに移ります。省エネ設備の導入や、作業フローの見直し、製品パッケージのエコ化など施策は多様です。大切なのはPDCAを回す仕組みで、“第二領域会議”で定期的に実行結果をモニタリングし、効果が出ていない施策は原因を追及して修正し、効果が大きい施策には予算を増やすといった柔軟対応を行うことです。経営トップや幹部が会議で決裁できる形だと行動が加速します。
5.5 社内浸透と外部アピール
環境経営を企業文化として定着させるには、全社員の意識づけが欠かせません。どんな取り組みをしているのか、どの程度成果が出ているのかを社内報やSNSなどで共有し、社員のアイデアも吸い上げていきます。また、外部にも環境対応を積極的に情報発信し、取引先や顧客、地域社会に理解を得ることが、ブランドイメージや競争優位につながる可能性が高いです。
6. 導入時の留意点と失敗を避けるヒント
環境経営を“第二領域経営®”の枠組みで推進する際には、いくつかの落とし穴や注意点があります。最もありがちな失敗は、形骸化です。経営トップや幹部が“第二領域会議”のスケジュールを守らず、結局第一領域の業務に流されて会議がキャンセルされ続けるパターンです。ここを回避するには、トップが“環境対応は最優先課題の一つ”という姿勢を明確に示し、少なくとも月1回は必ず時間を確保するルールを守る必要があります。
また、コスト評価の偏りにも注意が必要です。エコ設備導入や廃棄物処理の改善など、初期投資が必要な施策に対して“リターンが見えない”と尻込みするケースが多々ありますが、長期的に見ればエネルギーコスト削減やリスク回避、顧客評価の向上につながる可能性があり、一面的な見方では判断を誤るリスクが高いです。“第二領域会議”で数年後のシナリオや費用対効果シミュレーションを検討し、全体最適の視点で意思決定することが大切です。
さらに、社内コミュニケーションの不備によって施策がうまくいかないケースもあります。製造部門や物流部門、営業、経理など、部門を越えた協力が必要な場面は多いので、環境対策の目的や具体的な進捗を社内全体で共有し、横断チームで課題を解決できるようにする体制が欠かせません。ここでも“第二領域会議”が部門横断メンバーを集める場として機能すれば、調整コストを大幅に下げられるでしょう。
7. まとめ
中小企業が環境経営に取り組む意義は、単なるイメージ向上だけでなく、サプライチェーンからの要請や市場競争力の確保、コスト削減など多角的なメリットをもたらします。一方で、こうした活動は“今すぐには売上を生まない”ゆえに優先順位が下がりがちで、日常の業務に埋没して先送りされるという構造が起こりやすいのが実情です。そこで、One Step Beyond株式会社が提唱し、商標を所有する「第二領域経営®」を活用すれば、経営トップが“第二領域会議”を定期的に開催し、環境対応を最優先議題として扱う仕組みを構築できます。さらに、第一領域（売上・顧客対応）をマニュアル化・権限委譲することでトップ自身が緊急対応に引きずられず、環境施策を計画的にPDCAサイクルへ乗せられるわけです。
実際には、具体的なステップとして現状アセスメントや省エネ設備導入、廃棄物管理、サプライチェーン全体の環境負荷低減策を“第二領域会議”で検討し、週や月単位での進捗管理を行います。経営トップや担当チームがこうした仕組みを回していけば、ただの“コストセンター”に見られがちな環境経営が企業全体の持続的成長を支えるコア施策へと進化する可能性が高まります。もちろん形骸化のリスクや投資対効果評価の難しさはあるため、定期的なレビューと社内外の意識づけが重要となるでしょう。
環境経営は今や大企業だけの話ではなく、中小企業にも避けて通れないテーマになりつつあります。“第二領域経営®”を導入し、計画的に環境対応を推進することで、企業の競争力やブランド価値を高め、長期的に見ればリスク削減や信頼獲得につながります。日常業務に流されず、将来の経営を見据えた“第二領域”の視点で環境施策を強化する姿勢こそが、これからの企業に求められる新たなスタンダードとなるでしょう。