令和7年度当初予算および令和6年度補正予算では、中小企業の成長加速や地域経済の活性化に向けて、さまざまな補助金施策が充実・拡充されています。小規模事業者持続化補助金やものづくり補助金、IT導入補助金をはじめとする既存制度に加え、地域振興を狙いとした新規補助金や重点分野への支援強化が図られる方針が打ち出されています。
こうした政策背景のもと、国や自治体は「どの企業に補助金を交付すれば最も地域経済の活性化につながるか」を厳しく見極めるようになってきました。つまり、「地域経済への波及効果」をいかに実現し、かつその効果を数値で説得力ある形にまとめられるかが、補助金申請の成否を分ける大きな要因となっています。
本記事では、地域貢献を裏付けるための効果測定の方法をテーマに、具体的なデータの取り扱いから評価指標の選定、さらには令和7年度当初予算・令和6年度補正予算で示される政策の観点との関連について解説します。補助金申請において「地域経済を盛り上げたい」という想いを数値に落とし込み、審査員を納得させるためのヒントをお伝えいたします。
1.令和7年度・令和6年度補助金施策と“地域経済活性化”の位置づけ
中小企業庁による強化の方針
中小企業庁が公表している令和7年度当初予算および令和6年度補正予算の概況を読むと、「地方創生」「地域経済の底上げ」が政策の大きな柱の一つとして掲げられています。たとえば、新規事業や設備投資を通じて地域の雇用創出に寄与する企業、IT・DX導入によって地域の伝統産業を革新する企業、地場産品を活用して観光需要を生み出す企業などが注目され、補助金の審査でも「地域に対してどんな好影響をもたらすか」が以前にも増して重視される傾向があります。
新設・拡充の補助金と地域波及効果
既存の「ものづくり補助金」「IT導入補助金」「小規模事業者持続化補助金」などに加え、令和6年度補正予算では中堅企業への飛躍を目指す中小企業を対象とした大型補助金や、地域資源を活用した事業転換を支援する枠組みがさらに整備される見込みです。
こうした補助金の公募要項には、「事業の社会的意義や地域への還元効果」を問う設問が設けられている場合が多いです。単に「売上を伸ばす」「利益を確保する」だけではなく、地域住民の生活向上や地域企業との連携を通じて広く波及効果をもたらすビジョンを持っているかどうかが、採択の大きなカギとなるのです。
2.なぜ「地域波及効果」の数値化が求められるのか―政策の狙い
公共投資の“リターン”を可視化する
補助金は、国や自治体が企業に対して行う一種の“投資”です。企業が成長し、結果的に地域経済の活性化や雇用の拡大をもたらすことで、税収増や地域コミュニティの維持・発展につながることを期待しているわけです。ここで重要なのが、「どの企業に補助金を投下することが、最も効率的かつ効果的か」という視点。
このため、申請企業は「当社の事業に補助金を投じてもらえれば、こんなに地域にプラスの影響があります」と明確に示す必要があります。そのプラスの影響が計画書上で曖昧だったり、定量的に示されなかったりすると、ほかにもっとわかりやすい“投資先”があれば、そちらを優先するという判断が下されるかもしれません。
定性的アピールだけでは限界がある
「地域に貢献したい」「地元と一体で事業を育てたい」といった思いは素晴らしいですが、補助金審査は多数の企業が応募する中でスコアリングされます。そこで定性面のアピールだけでは差別化が難しいのが現実です。
一方、数値化された地域波及効果が提示されれば、審査員に対して「どれだけの範囲・規模で地域にメリットが及ぶか」をイメージさせやすくなります。雇用創出人数、地域内仕入れ先の拡大、観光客増加数など、具体的な指標を示すことで審査上の説得力が飛躍的に高まります。
3.効果測定の基本ステップ①:指標設定とデータ収集
(1)指標を設定する前に目的を再確認
「効果測定」を行う際には、いきなりデータを集め始めるのではなく、「どのような地域波及効果を期待しているのか」をまずは明確にすることが肝心です。たとえば、
- 地元の雇用創出が目的なのか
- 地域産業との連携強化が目的なのか
- 観光誘致や地域ブランド向上が目的なのか
- 脱炭素や環境負荷低減を通じた地域住民の生活向上が目的なのか
目的によって優先的に追うべき指標は異なります。自社の事業計画において「どの要素が最も地域に貢献するか」を整理し、それに合った指標を選定しましょう。
(2)測定指標の代表例
- 雇用関連:新規雇用人数、パート・アルバイトも含めた地域住民の就業数、女性・高齢者の雇用拡大率など
- 経済波及:地域内調達比率(仕入先の数・金額)、売上増加分のうち地域内消費に回る割合、地域外からの需要誘致額
- 観光・交流:観光客数の増加、イベント来場者数、地域外からのリピーター数
- 社会的インパクト:CO2排出削減量、地域コミュニティ活動への参加者増加、住民満足度アンケート結果など
定量データだけでなく、必要に応じてアンケートや聞き取り調査など定性データも活用しますが、最終的に数字に落とし込むことが大切です。
(3)データの収集方法
- 自社データ:売上・仕入れ先・従業員数・給与水準など、社内で把握できる数値を集計
- 外部データ:自治体の統計、商工会議所が公開する産業データ、地域観光協会の来訪者統計などを参照
- 独自調査:顧客アンケート、地域イベント参加者数のカウントなど、自社で独自に集めるデータ
重要なのは、「どの期間にどのようにデータを取得し、どう比較・分析するか」の設計を最初に固めておくことです。あとで慌ててデータを集めようとしても、漏れや不備が出てしまいがちです。
4.効果測定の基本ステップ②:経済的指標以外の社会的インパクト評価
多面的な波及効果を捉える
地域経済への波及効果というと、まずは売上や雇用など経済的な効果を想像しがちです。しかし近年、補助金の審査では「地域コミュニティや環境に対するポジティブな影響」をどれほど生み出すかという社会的インパクトも重要視される傾向があります。令和6年度補正予算以降は、脱炭素や地域資源の持続可能性といった視点も強調されており、環境負荷の低減や地域文化の維持など、企業活動の“非財務的”要素への評価が高まっています。
社会的インパクトを示す指標例
- 環境面:CO2排出量削減、廃棄物削減量、再生可能エネルギー導入率など
- コミュニティ活性化:地域イベント開催数、参加者満足度、自治会やNPOとの連携プロジェクト数
- 教育・人材育成:地域の若者の就業支援セミナー開催数、インターンシップ受け入れ人数、職業訓練プログラムでの受講者数など
- 健康・福祉:高齢者雇用率、障がい者雇用率、地域福祉施設との協働実績
こうした指標を適切に選び、定量的に測定できる形で管理することが、今後の補助金申請では重要なアピール材料となるでしょう。
5.地域経済波及効果を示す具体的な指標例
実際に補助金申請で使われる場面を想定し、地域経済波及効果を数値化するための具体的な指標例をもう少し掘り下げてご紹介します。
5-1. 地域内経済循環指標
- 地域内仕入れ率:
自社の原材料・部品調達や業務委託のうち、地域内企業・農家・サービス業者に支払う金額の割合を示します。たとえば、原材料費のうち何割が地元の農産物や製造業者から仕入れているかを測定し、その割合の増加目標を設定することで「地域内経済循環の拡大」をアピールできます。 - 地域内雇用率:
正社員・パート・アルバイト含め、自社に勤務する従業員のうち、地域在住の割合を計測します。採用計画を立てる際に「今後2年間で地域住民を◯名新規採用する」といった形で目標を設定すると、地域雇用拡大をわかりやすく示せます。
5-2. 観光・交流指標
- 観光客誘致数・観光消費額:
地元観光協会や行政が算出している観光客数の統計を参考に、自社イベントや施設利用数などを連動させる形で数値を見積もります。例えば「自社工場見学を新設し、年間◯◯人の訪問を目指す」などのKPIを立てると具体化しやすいでしょう。 - 地域ブランド認知度:
イベント来場者やSNSフォロワー数、メディア掲載回数などを測定し、地域ブランド向上の指標とする方法もあります。補助事業を通じて観光誘客やブランド発信を強化する場合は、こうした定性×定量指標をうまく組み合わせることがポイントです。
5-3. 地域コミュニティ活性化指標
- 共同プロジェクトの数・参加者数:
地元の大学やNPO、他企業との共同開発、イベント、ワークショップなどの開催数や参加人数を指標化します。「年間3回の市民向けワークショップを開催し、延べ参加者数◯◯名を目指す」など具体的に記載すれば、審査員もイメージしやすくなります。 - 地元企業との協働売上:
例えば、地元商店街の活性化を目指す場合、商店街全体の売上向上を自社と連携してどのように達成するか、その増加分を測定する枠組みをあらかじめ設定します。「商店街合同のキャンペーンを実施し、前年同月比◯%の来客増を目指す」などが典型例です。
6.数値根拠を強めるデータの扱い方と注意点
6-1. 信頼性を高めるための工夫
- 引用元の明確化
統計データや業界レポート、学術論文などを用いる場合は、出典をはっきり示しておくことが審査の上で信頼感を高めます。自治体や公的機関が公開している統計であればなおさら客観性が担保されるため効果的です。 - 過去実績との比較
自社がすでに何らかの地域貢献実績を持っているのであれば、数値で示しておくと「今回さらに拡大を狙う」というストーリーに説得力が増します。たとえば「昨年度は地域住民を5名雇用し、そのうち4名が定着している。今年度は新規に2名追加採用を計画し、合計7名とする」など具体的に比較しながら表現するとわかりやすいです。 - 一定の安全率・保守的予測
補助金申請における数値目標は高く設定するほど魅力的ではありますが、過度に楽観的だと「実現性」に疑問が生じます。実際の実施段階でのブレを考慮し、“実現可能性が高い範囲の目標設定”をすることも審査員からの評価に繋がります。
6-2. 注意すべき落とし穴
- データ取得コスト・頻度の見落とし
例えばアンケート調査を年4回行うなどと計画しても、それにかかる労力やコストを考慮しなければ後で破綻する可能性があります。あまりにも頻繁なデータ収集は実務的に大変ですので、無理のない計画を立てましょう。 - 外部環境の変化
観光客数や市場動向などは景気や社会情勢、自然災害などによって大きく変動する可能性があります。数値目標を設定する際にはリスクシナリオも想定し、補助事業期間中に柔軟に修正できる体制を整えておくことが望ましいです。
7.審査で評価されるポイント―申請書への落とし込み方
7-1. 政策目標との関連性を明示する
令和7年度の当初予算や令和6年度補正予算で取り上げられる“地方創生”や“中小企業の地域貢献”という政策目標と、自社の取り組み内容や効果測定指標がどう結びついているのかを、申請書でわかりやすく示す必要があります。例えば、
- 「地域内雇用率を◯%に引き上げる」→ 地域の雇用創出を通じた人口定着効果
- 「地元農家からの仕入れ率を50%へ拡大」→ 農業振興と産業連携を強化し、農家収入の安定に貢献
- 「イベント集客で年間◯万人の観光客誘致」→ 地域商店街や宿泊施設との連携で経済波及効果を拡大
これらをきちんと“数値+政策目的”のセットで記載すると、審査員がメリットを理解しやすくなります。
7-2. ロジックモデルやフレームワークの活用
地域波及効果を示す際に、ロジックモデル(入力→活動→成果→インパクトの流れを図示する方法)や、KPIツリー(大目標を細分化して数値目標をブレイクダウンする方法)を使うのも有効です。
文章だけで訴求するより、ビジュアル化されたモデルで“どうやって地域貢献に繋がるのか”を示すと、審査員に一目で伝わりやすくなります。また、KPIの設定と測定方法が明確に整理されるため、自社内でも進捗管理がしやすくなるメリットがあります。
7-3. 計画の整合性・一貫性をチェック
事業計画書の他の部分(売上目標、資金繰り計画、マーケティング戦略)と、地域貢献の数値目標が矛盾をきたしていないかを最終的に確認しましょう。
- 売上目標を◯倍にする計画なのに雇用がほとんど増えない、というのは不自然に映ります。
- 地域から大幅な仕入れ拡大を謳っているのに、調達コスト削減を同時に大きく見込んでいると整合性に疑問が出ます。
全体の整合性が取れた計画こそが“説得力ある申請書”として仕上がります。
8.今後の補助金制度動向と効果測定の重要性
8-1. 地域活性化に資する事業への重点配分
令和7年度当初予算・令和6年度補正予算を概観すると、地域経済の自立的成長や持続可能な地域づくりがキーワードとして掲げられています。国としても、単発の成功ではなく長期的に地元経済を支える仕組みを作る企業を積極的に支援しようという流れです。
そのためには、企業が「この投資や事業が、何年後にどれだけ地域に貢献するのか」を明確にし、効果測定の仕組みまで含めて示すことが望まれます。単なる“口約束”ではなく、測定指標と計測体制を持つ企業ほど信頼度が増すのです。
8-2. 事後フォロー(報告書)にもデータが必要
補助金を受け取った後、事業完了報告書や成果報告書を提出するケースが一般的です。その際、地域波及効果についても「どのように数値が動いたか」「どれほどのインパクトがあったか」を報告する制度が増えています。
もし事前の計画段階で指標設定をおろそかにしていると、報告時にデータ不足で苦労する、あるいは評価が下がるリスクがあります。逆に事前にきちんと効果測定のフレームを作っておけば、報告書の作成もスムーズに行え、次回以降の補助金申請で「過去の成功事例」として強力な武器になります。
9.まとめ:地域経済活性化を“見える化”する取り組みを
令和7年度当初予算・令和6年度補正予算で用意される中小企業向け補助金は、地域活性化を大きなテーマとして掲げています。そこで求められるのは、「企業の成長」と「地域経済の発展」が両立し、その成果が目に見える形で示されることです。
- 地域波及効果を定量化する指標を設定し、データ収集の手法をきちんと固めること
- 経済的な成果(売上・雇用)だけでなく、社会的インパクト(環境・コミュニティ)も合わせて評価すること
- 申請書でのアピールは数値とストーリーの両面から行い、かつ全体整合性を保つこと
これらを意識するだけでも、補助金申請の説得力は格段に高まります。さらに、そのプロセスで設定した目標や指標は、企業が事業を進める上での指針やKPIとしても役立つはずです。
One Step Beyond株式会社では、こうした効果測定のノウハウや地域波及効果の数値化に関しても、補助金申請支援の一環としてサポートしております。地域経済活性化に向けた取り組みを、データに基づいた“見える化”で強化したい方は、ぜひお気軽にご相談ください。貴社の地域貢献の可能性を、より明確に、そして強力にアピールするお手伝いをいたします。