1. はじめに
企業が変化の激しい時代を生き抜くためには、経営者や管理職だけでなく、組織のあらゆる階層において次世代リーダーを育成し、彼らが新しい価値を創造できる体制を築く必要があります。しかし、多くの企業では日常業務の「緊急かつ重要」な課題に追われ、若手や中堅社員を育てる“余裕”がないと感じたり、リーダー候補に対して体系的な学習や挑戦機会を提供できないまま放置してしまうケースが少なくありません。結果として、人材が十分に成長せず、組織全体が保守的になってイノベーションが停滞するリスクが高まってしまいます。
こうした状況を打破する手法の一つとして、One Step Beyond株式会社が提唱し、商標を所有する「第二領域経営®」があります。「第二領域経営®」は、企業が日常の売上確保やクレーム対応など“緊急かつ重要”な第一領域の仕事に忙殺されるあまり、“緊急度は低いが将来的に極めて重要”な仕事(第二領域)が後回しになりがちな構造を是正するフレームワークです。研究開発や新規事業の検討、人材育成や組織改革など、今すぐに利益を生まないが長期的な競争力を決定づける領域に計画的な時間とリソースを割り当てることで、将来を見据えた変革を止めない仕組みを作るわけです。
本稿では、この「第二領域経営®」の考え方を用いて、いかに次世代リーダーの育成を加速させるかを考察します。なぜ若手や中堅がリーダーシップを磨く機会を得にくいのか、その背景を整理したうえで、「第二領域経営®」が提供するマネジメント上の枠組みを活かして、どのように人材育成を“後回しにしない”体制を作れるのかを検討します。社内の成長意欲を高め、若い世代が自分たちのアイデアやリーダーシップを発揮できる場を設計することは、中長期的に見て企業のイノベーションや新規事業の創出、組織の活性化につながるはずです。
2. なぜ次世代リーダー育成が後回しになるのか
多くの企業では「人材育成は重要だ」と認識していても、実際には目先の顧客対応やトラブル処理、日々の生産管理などにリソースを割かれ、若手や中堅の育成プログラムやOJTが形骸化している実態が見受けられます。とりわけ中小企業やオーナー企業では、経営トップや幹部が第一領域の仕事に没頭しているため、将来を担うリーダーを育てるという“緊急度は低いが重要”なタスクは後手に回りがちです。結果として、せっかく有望な若手が入社しても成長の機会を与えられず、離職してしまうケースや、長く勤めていても“現場の都合”で経験できる業務が限定されるケースが多発するわけです。
また、トップダウン式の組織文化が強い企業では、若手が「自分の意見を言っても受け入れられない」と感じてしまい、リーダーシップを発揮する土壌が育たないまま年次だけ重ねる事態も起こり得ます。これは現場のマネージャー層も含めて“今のやり方がいちばん楽”という心理が働き、組織内で新しい挑戦や学習が進まなくなる悪循環につながります。こうした構造を放置すると、将来的に経営陣が高齢化し、後継者不在のまま企業が衰退してしまうリスクも高まるため、早期に改善が必要です。
さらに、経営者自身が「自分が全てをコントロールしなければならない」という意識を捨てきれず、若手に責任ある仕事を与えられないパターンも散見されます。結果として、社員は“指示待ち”姿勢が染み付き、実際にリーダーとしての視野や判断力を培う機会が得られないまま歳を重ねるのです。こうした個人や組織の行動様式を変革し、「将来に向けて人材育成を実行する」という姿勢に移行することが、次世代リーダーの育成を後回しにしないうえで欠かせません。
3. 「第二領域経営®」が果たす役割
「第二領域経営®」は、まさにこの“日々の業務と将来を創る仕事”を両立させるマネジメント手法です。その核心的な要素として、経営トップと幹部が定期的に“第二領域会議”を設定し、その時間には第一領域(売上報告やクレーム対応)の話題を扱わず、人材育成や新事業検討、組織改革など“緊急ではないが重要な領域”に集中する仕組みがあります。さらに、第一領域は可能な限りマニュアル化や権限委譲を進め、トップや幹部が緊急対応に引きずられすぎないようにするのです。
この枠組みを人材育成に応用すれば、以下のような効果が期待できます。
- 後回しを防ぐ計画的な育成プログラム
毎週や隔週の“第二領域会議”で、若手・中堅への育成計画を取り上げ、どのような研修やOJT、リーダーシップ経験を与えるかを議論・合意します。日常業務の「忙しいから無理」という言い訳を排し、経営トップが優先度の高さを明示することで、育成プロジェクトが形骸化しにくくなります。 - 権限委譲を通じたリーダーシップ養成
権限委譲が進めば、第一領域の細かなトラブル処理や顧客対応を若手マネージャーに任せる機会を作りやすくなり、その過程で自主的に判断する場が増えます。トップが“第二領域会議”で若手の進捗報告を聞き、困ったときだけアドバイスを与える形なら、若手リーダーが実践で力をつけやすいです。 - 明確な評価とフィードバックの文化
人材育成の成果をしっかり評価し、フィードバックを与えるには、定期的なレビューが必要ですが、多忙の中だと対話の時間を確保できません。“第二領域会議”を使い、若手がリーダーとして取り組んだタスクやプロジェクトを発表し、経営トップや幹部からフィードバックをもらう流れを作れば、学習が加速しやすくなります。
4. 次世代リーダー育成を進める具体的ステップ
では、「第二領域経営®」を活用して、実際にどのように次世代リーダーの育成を進めていけばいいか、例示的なステップを考えてみます。
4.1 人材育成の目標とスキル要件を明確化
最初に、企業として“どのようなリーダー像”を求めているのかを具体化します。たとえば「海外展開に対応できる英語力・コミュニケーション力を持つ」「DX時代に合ったデジタルリテラシーとマネジメントスキルを兼ね備える」「社内改革を推進するビジョンを示せる」など、会社が目指す方向性によってリーダーに必要な資質やスキルは異なるでしょう。この段階で社内合意を形成し、若手・中堅に対しても明確な到達イメージを示すことが大切です。
“第二領域会議”で上記の要件を議論し、経営トップが正式に「当社の次世代リーダー像はこれである」と発表し、そこに向けた育成計画の策定を指示する流れが考えられます。ポイントは、単に抽象的なリーダーシップ論を語るのでなく、具体的な行動指標や成果指標を設定することです。例えば「新規プロジェクトを半年間で完遂し、売上○%アップまたは顧客満足度向上を達成する」など明確にするのが理想です。
4.2 育成プログラムやOJTの設計
リーダーシップやマネジメントは座学だけでは身につかず、実践の場が重要です。そこで、若手・中堅に対して一定期間プロジェクトリーダーを任せる、他部署とのジョブローテーションで広範な視野を養う、外部研修やビジネスコンテストへ参加させるなど、多面的な施策を組み合わせます。ここで「第二領域会議」が活きてきます。毎週や月次で育成プログラムの進捗を報告し、必要ならばリソースや予算を追加し、幹部の協力体制を整備するわけです。日常業務ばかりを優先する風潮があると、こうした取り組みが継続できませんが、定例的にレビューを行えば後回しを防げます。
4.3 メンター・コーチング体制の活用
若手が新しい挑戦をする際、ミスや不安はつきものです。そこで、ベテラン幹部や外部のコーチ、OBなどをメンターとして配置し、定期的に面談して助言を与える仕組みを導入すると効果的です。これも“第二領域会議”で誰をメンターにし、何を目標とするかなどを正式に決定することで、「忙しくて時間が取れない」という言い訳を減らし、マッチングを形骸化させないようにするわけです。定期的な報告や面談が設定されれば、若手は実践の中で生じる疑問点をすぐに相談でき、学習スピードが上がります。
4.4 成果評価とフィードバック
リーダーシップを育成するには、成功・失敗を問わず挑戦の結果に対して具体的なフィードバックを与えることが不可欠です。例えば若手がプロジェクトリーダーを務めたなら、“第二領域会議”でその成果や課題を発表してもらい、経営トップや幹部がコメントや評価を与える流れを作ります。その場で改善点や新たな学びを共有し、次の挑戦につなげるサイクルを回すのです。こうした仕掛けがないと、“やってみたけれど評価されない”“何が良くて何が悪かったのか分からない”という状態になり、若手の成長意欲が削がれます。
4.5 組織文化やインセンティブの見直し
リーダーシップ育成を推進するには、組織文化や評価制度を見直すことも重要です。トップダウンで指示待ちが当たり前の文化が根付いている場合は、社員が自発的に意見を言っても採用されない風土があるかもしれません。そこで“第二領域会議”で社内アンケート結果や社員の声を議論し、フラットなコミュニケーションや失敗を許容する風土づくり、挑戦した人を評価するインセンティブ制度を導入するといった改革を進めるわけです。これは時間のかかるプロセスですが、経営トップが目指す方向を明確に示し、権限委譲を行いながらPDCAを回せば、少しずつ変化を生み出せます。
6. よくある課題と対策
上記のステップを実行するうえで、よく見られる課題や失敗パターンを確認し、あらかじめ対策を考えておくと導入がスムーズになります。
まず、「時間不足」が典型です。日常業務(第一領域)が忙しく、若手をOJTに出している余裕がない、幹部も会議に出る時間がないなどといった事態が起こると、リーダー育成は先送りされ続けます。ここで権限委譲や標準化が必須となり、現場マニュアルや手続き整備で普段の業務を誰でも回せるようにし、経営トップやキーパーソンが第二領域に時間を割けるようにするのが鍵です。
次に、「トップや管理職の意識改革不足」も問題です。若手に責任ある仕事を任せることに不安や抵抗を感じ、“結局自分が指示出さなければ”という思い込みが強いケースがあります。ここでは“第二領域会議”で経営トップが“若手をリーダーとして育てる”方針を明示し、担当幹部もそれを支持する姿勢を示すなど、組織ぐるみで挑戦を後押しする空気を作る必要があります。
また、「評価基準や報酬体系が変わらない」という課題も生じやすいです。いくらリーダーシップを育てようとしても、評価制度が従来通り「売上数字だけ」で測るとか、失敗を厳しく罰する形なら、社員が積極的に新しいことへ挑戦する動機づけが弱くなります。ここでは目標管理制度(MBO)や人事評価の中に“リーダーシップ”“チャレンジ姿勢”“組織貢献”などの項目を盛り込み、定量・定性両面で評価する枠組みを“第二領域会議”で合意するのが有効です。
7. まとめ
中小企業が激しい競争や市場変化の中で生き残り、さらに発展していくには、経営トップや現役幹部だけでなく、若手・中堅がリーダーシップを発揮して新しい価値やイノベーションを生み出す仕組みが欠かせません。しかし多くの場合、日々の売上確保やクレーム対応といった“緊急かつ重要”な業務に追われて、人材育成という“緊急度は低いが重要”な取り組みが後回しにされ、次世代リーダーが育たないまま時間が経ってしまうのが実情です。
このような現状を変えるために、One Step Beyond株式会社が提唱し、商標を所有する「第二領域経営®」が大きな力を発揮します。具体的には、経営トップが週や月の定例会議でリーダー育成を最優先テーマとして扱い、権限委譲や標準化によって第一領域の業務を現場に任せやすくすることで、若手・中堅に責任ある仕事を与え、成長機会を作れる体制を確立するわけです。定期的なレビューで進捗や成果を検証し、必要に応じて研修やメンター制度を導入すれば、社員のモチベーションも高まり、組織全体の学習速度が上がります。
重要なのは、“育成のための取り組み”を後回しにしない習慣を会社として作ることです。リーダーシップは座学だけでは身につかず、業務の中で試行錯誤とフィードバックを繰り返す過程が欠かせません。そこで時間がかかるからこそ“今すぐに売上を生まない”と敬遠されやすいのですが、「第二領域経営®」のもとで経営トップが“これは将来のために必須だ”と明言し、週次・月次会議で計画を持続的に進めれば、必ずや企業内に挑戦と学習の風土が芽生えるでしょう。その結果、生まれるのは若手・中堅がリーダーとして活躍できる舞台だけでなく、組織全体が新たなビジネス機会を捉えられる柔軟性やイノベーション力と言えます。
次世代リーダーの育成は一朝一夕では実現しませんが、「第二領域経営®」を取り入れて“緊急ではないが重要”な領域に経営リソースを注ぎ、社員の成長支援を中長期的な目標として続けることが、企業にとって最大の財産となるはずです。