海外でのeコマース展開:決済システムと配送網の整備 海外でのeコマース展開:決済システムと配送網の整備

海外でのeコマース展開:決済システムと配送網の整備

海外でのeコマース展開:決済システムと配送網の整備

1. はじめに

デジタル技術の進歩とコロナ禍を契機としたオンラインショッピングの普及により、国境を越えたeコマース取引は急速な成長を遂げています。2023年の世界のクロスボーダーEC市場規模は前年比15%増の2.1兆ドルに達し、2025年には3兆ドルを超えると予測されています。

特にアジア太平洋地域では、中間層の拡大とスマートフォンの普及により、今後も年率20%以上の成長が見込まれています。インドネシア、ベトナム、フィリピンなどの新興市場では、モバイルコマースを中心に爆発的な成長を遂げており、日本企業にとって極めて魅力的な市場が形成されつつあります。

しかしながら、日本の中小企業による越境EC展開の現状は必ずしも順調とは言えません。海外EC展開を試みた日本企業の約35%が、技術的・運用的な課題により、展開を断念または縮小せざるを得なかったというデータがあります。また、展開に成功した企業でも、約45%が当初想定していた以上のコストと時間を要したと報告しています。

特に課題として浮かび上がってくるのが、決済システムの構築と物流網の整備です。例えば、東南アジア市場では、国によって主要な決済手段が大きく異なり、また物流インフラの整備状況にも地域差があります。中国市場では、独自の決済エコシステムへの対応が必須であり、さらに厳格な規制環境への適応も求められます。

本稿では、これらの課題を克服し、限られた経営資源の中で効果的な海外EC展開を実現するための具体的な方法について解説します。特に、多くの企業が直面する決済システムと配送網の整備に焦点を当て、実践的なアプローチを提案していきます。

2. 基本戦略の策定

2.1 市場分析と進出戦略

効果的なEC展開を実現するためには、まず綿密な市場分析が不可欠です。市場の選定にあたっては、単純な市場規模や成長率だけでなく、より包括的な視点での分析が必要となります。

例えば、東南アジア市場を見てみましょう。この地域のeコマース市場は2,500億ドル規模で、年間25%という高い成長率を示しています。しかし、この数字だけで市場の魅力度を判断するのは適切ではありません。実際、スマートフォン普及率75%、オンライン決済普及率65%という数字は、デジタル化が急速に進んでいることを示す一方で、まだ発展の余地が大きいことも示唆しています。

特に注目すべきは消費者の行動パターンです。東南アジアの消費者は、モバイルファーストの傾向が強く、ソーシャルコマースの利用率も高いという特徴があります。これは、PCベースのeコマースが主流だった日本市場とは異なるアプローチが必要となることを意味します。

一方、中国市場は全く異なる特性を持っています。2.8兆ドルという巨大な市場規模に加え、スマートフォン普及率95%、オンライン決済普及率90%という成熟した市場環境を有しています。しかし、この成熟度の高さは、参入障壁の高さにも直結します。WeChat PayやAlipayによる決済が85%以上を占める市場では、これらのプラットフォームへの対応が事業成功の鍵となります。

欧米市場については、1.5兆ドルという大きな市場規模を持ちながら、年間成長率は12%とアジア市場と比べて緩やかです。しかし、この市場では消費者のプライバシー意識が非常に高く、また環境への配慮も重要な購買判断基準となっています。これらの要素は、システム設計やマーケティング戦略に大きな影響を与えることとなります。

2.2 リスク評価

市場分析と並んで重要なのが、包括的なリスク評価です。海外EC展開におけるリスクは、大きく決済関連リスクと物流関連リスクに分類できますが、これらは市場によって性質も深刻度も大きく異なります。

決済関連リスクの中で特に注意が必要なのが、不正利用とチャージバックの問題です。例えば、クレジットカード決済が主流の欧米市場では、不正利用による被害が深刻な問題となっています。一方、デジタルウォレットが主流の中国市場では、プラットフォーム側の堅牢な本人認証システムにより、この種のリスクは比較的低く抑えられています。

物流関連リスクについては、配送インフラの整備状況が市場によって大きく異なることに注意が必要です。東南アジアでは、主要都市部では近代的な物流網が整備されている一方で、地方部では配送品質の確保が課題となることがあります。これは在庫配置や配送パートナーの選定に大きな影響を与える要素となります。

3. 決済システムの構築

3.1 地域別決済手段の選定

効果的な決済システムの構築において最も重要なのは、各市場の決済習慣を深く理解し、それに適応したシステムを構築することです。この点で、グローバル展開を目指す日本企業が陥りがちな誤りは、日本市場での経験をそのまま海外市場に適用しようとすることです。

例えば、東南アジア市場では、GrabPayやOVOといったモバイルウォレットが決済の65%を占めています。これは、銀行口座保有率が比較的低い一方で、スマートフォンの普及が急速に進んだという地域特性を反映しています。このような市場では、クレジットカード決済のみを提供するのでは、潜在顧客の大半を取りこぼすことになりかねません。

特に注目すべきは、決済手段の選択が単なる技術的な問題ではなく、消費者の信頼を獲得する手段としても重要だという点です。現地で広く普及している決済手段を提供することは、その市場でビジネスを行う上での信頼性の証となります。

中国市場においては、WeChat PayとAlipayという2大決済プラットフォームへの対応が事実上の参入要件となっています。これらのプラットフォームは単なる決済手段以上の存在で、消費者のライフスタイルに深く組み込まれています。例えば、WeChat Payを介したソーシャルコマース機能は、購買行動の重要な一部となっています。

このような状況を踏まえ、決済システムの構築は段階的に進めることが賢明です。まず市場シェアの高い決済手段から対応を始め、順次対応範囲を広げていく方法が、リスクとコストを適切に管理する上で効果的です。

3.2 セキュリティ対策

決済システムのセキュリティは、事業の継続性を左右する重要な要素です。特に海外展開においては、各市場固有の規制要件や消費者の期待水準に応えるセキュリティ対策が求められます。

セキュリティ対策は、技術的対策と運用的対策の両面から考える必要があります。技術面では、SSL/TLS暗号化やPCI DSS準拠といった基本的要件に加え、不正検知システムの導入が重要です。特に、機械学習を活用した不正検知システムは、新たな形態の不正取引にも柔軟に対応できる点で有効です。

運用面では、定期的なセキュリティ監査と従業員教育が重要な柱となります。例えば、欧州市場ではGDPRへの対応が必須ですが、これは単なる技術的対応だけでなく、従業員の個人情報保護に対する意識向上も含めた総合的な取り組みが必要となります。

3.3 運用体制の整備

効果的な運用体制の構築には、日常的な取引管理と緊急時対応の両面での準備が必要です。特に海外展開においては、時差やLanguage Barrierも考慮に入れた体制作りが重要です。

例えば、24時間体制での監視が必要な場合、すべてを自社で賄おうとするのではなく、現地のセキュリティ監視サービスと連携するなど、効率的な体制を検討する必要があります。また、決済に関する問い合わせ対応では、現地語でのサポート体制が不可欠となります。

4. 物流網の整備

4.1 配送システムの構築

物流網の整備は、eコマースビジネスの成功を左右する重要な要素です。特に海外展開においては、各市場の物流事情に応じた戦略的なアプローチが必要となります。

例えば、東南アジア市場では、都市部と地方部で物流インフラの整備状況に大きな差があります。バンコクやジャカルタといった大都市では、当日配送やタイムスロット指定配送といった高度なサービスが可能です。一方、地方部では基本的な配送品質の確保が課題となることもあります。

このような状況に対応するため、段階的なアプローチが有効です。まず主要都市部での展開を確実に成功させ、そこでの経験とデータを基に地方部への展開を進めていく方法です。これにより、リスクを最小限に抑えながら、市場カバレッジを拡大することが可能となります。

4.2 在庫管理システム

効率的な在庫管理は、配送リードタイムの短縮とコスト削減の両面で重要です。特に海外展開においては、輸送距離が長くなる分、適切な在庫配置がより重要となります。

例えば、中国市場では消費者の即時配送への期待が非常に高く、これに応えるためには現地での在庫保持が必須となります。しかし、在庫を持つことはコストやリスクを伴うため、需要予測の精度向上が重要な課題となります。このため、AIを活用した需要予測システムの導入を検討する企業も増えています。

5. コスト最適化戦略

5.1 投資の優先順位付け

海外EC展開における投資は、限られた経営資源を最大限に活用するため、戦略的な優先順位付けが不可欠です。ここで重要なのは、「必要最小限の投資で最大の効果を得る」という視点です。

投資の第一優先は、事業の根幹となる決済システムと物流基盤の整備です。例えば、決済システムにおいては、市場シェアの高い上位2-3の決済手段への対応を優先し、その他の決済手段は段階的に追加していく approach が効果的です。これにより、初期投資を抑えながらも、市場の大部分をカバーすることが可能となります。

物流面では、まず主要都市での確実な配送体制の確立を優先し、その後地方都市への展開を図るという段階的アプローチが有効です。このアプローチにより、初期の運用で得られた知見を活かしながら、効率的な展開が可能となります。

また、投資判断においては、固定費と変動費のバランスにも注意を払う必要があります。例えば、物流センターの自社運営は固定費が高くなりますが、取扱量が増えれば単位当たりのコストは低下します。一方、3PLの利用は初期投資を抑えられますが、取扱量に応じて費用が増加します。このトレードオフは、事業規模や成長見通しに応じて慎重に判断する必要があります。

5.2 外部リソースの活用

効率的な海外EC展開において、すべての機能を自社で構築・運営することは必ずしも最適ではありません。特に中小企業にとって、外部リソースの戦略的活用は、迅速な市場参入と効率的な運営を実現する上で重要な選択肢となります。

決済分野では、決済代行サービスの活用が有効な選択肢となります。これにより、複数の決済手段への対応や、不正検知、セキュリティ対策といった専門的な機能を、比較的少ない初期投資で実現することができます。特に、取引量が安定していない立ち上げ期においては、固定費を抑制できるという利点もあります。

物流面では、現地の3PLサービスやフルフィルメントサービスの活用が効果的です。これらのサービスは、現地の商習慣や規制に精通しており、スムーズな運営を実現できます。また、繁忙期の対応や地域的な拡大も、柔軟に行うことが可能です。

5.3 段階的展開計画

海外EC展開において、全市場を一度にカバーしようとするのではなく、段階的な展開を計画することが重要です。これにより、リスクを管理しながら、各段階で得られた知見を次の展開に活かすことが可能となります。

例えば、東南アジア市場への展開を考える場合、まずシンガポールやマレーシアといった比較的インフラの整った市場から開始し、そこでの経験を基にインドネシアやベトナムといった新興市場への展開を図るという方法が考えられます。

また、各市場内でも、主要都市から段階的に展開エリアを拡大していく方法が効果的です。これにより、オペレーションの最適化やローカライズの課題を、管理可能な規模で解決していくことができます。

6. One Step Beyond株式会社のサポート

6.1 コンサルティングサービス

海外EC展開において、市場調査から戦略立案、実行支援まで、包括的なサポートを提供することが重要です。特に、各市場特有の商習慣や規制環境、消費者行動の理解は、成功への重要な要素となります。

例えば、市場調査においては、表面的な市場規模や成長率だけでなく、決済習慣や配送品質への要求度、返品率といった実務的な要素まで、詳細な分析が必要です。また、競合分析では、現地企業だけでなく、他の越境EC事業者の動向も重要な参考情報となります。

6.2 システム導入支援

決済システムや物流システムの導入には、技術的な知識だけでなく、運用面での知見も重要です。特に、複数の外部サービスを統合する場合、それぞれのインターフェースの違いや、データフォーマットの違いを適切に処理する必要があります。

システム設計においては、将来の拡張性も考慮に入れる必要があります。例えば、新しい決済手段の追加や、配送エリアの拡大といった変更に、柔軟に対応できる設計が重要です。

6.3 運用サポート

海外EC事業の運営において、継続的なパフォーマンス管理と改善活動は不可欠です。特に、複数の市場で展開する場合、市場ごとの特性を考慮しながら、全体最適を図る必要があります。

パフォーマンス管理では、売上や利益といった基本的な指標に加え、決済成功率、配送リードタイム、顧客満足度といった運用品質の指標も重要です。これらの指標を総合的に分析することで、改善すべき点を特定し、効果的な対策を講じることができます。

7. おわりに

海外でのEC展開は、適切な準備と段階的なアプローチにより、中小企業でも十分に実現可能です。特に重要なのは、完璧なシステムを目指すのではなく、市場の特性に合わせた実践的なソリューションを構築することです。

決済システムと物流網の整備は、海外EC展開の成否を左右する重要な要素ですが、必ずしもすべてを自社で構築する必要はありません。外部サービスを効果的に活用しながら、自社の強みを活かせる分野に経営資源を集中することで、効率的な展開が可能となります。

One Step Beyond株式会社は、豊富な経験と専門知識を活かし、お客様の状況に応じた最適なEC展開戦略の策定から実施までを、トータルでサポートしてまいります。限られた経営資源を最大限に活用し、効果的な海外展開を実現するため、ぜひ当社のサービスをご活用ください。

詳細は当社Webサイトをご覧ください: https://www.onestepbeyond.co.jp/contact

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