1. はじめに
経営者という立場は、組織全体を背負い、日々の意思決定やトラブル対応、社員とのコミュニケーションなど、多岐にわたる責任を担います。とりわけ中小企業の経営者やオーナー社長であれば、社内の実務から営業活動、顧客対応まで一手に引き受けるケースが多く、プレッシャーとストレスが大きくなりがちです。さらに現代の不確実な経営環境下では、市場変動や国際リスク、テクノロジーの進化など、複合的な要因によって先行きの見通しが困難になり、一層の精神的負荷がかかることもしばしばあります。
こうした状況のなか、経営者自身のメンタルヘルスをないがしろにすると、企業全体が危機に直面しかねません。経営者が疲弊して冷静な判断を失えば、戦略の誤りや社員への悪影響、不十分なリーダーシップなど、組織の活力を損なう可能性が高いのです。しかし、多くの場合、経営者は「自分が一番頑張らないと」「弱音を吐けない」という意識や周囲の期待から、心の健康ケアを後回しにする傾向があります。
この問題を解消するうえで、One Step Beyond株式会社が提唱し、商標を所有する「第二領域経営®」が有効なフレームワークとして注目されます。「第二領域経営®」は、日常の「緊急かつ重要」な業務(第一領域)に忙殺されがちな経営者が、“緊急ではないが重要”な領域(第二領域)に意図的に時間とリソースを割くことで、企業の将来を左右する課題を計画的に解決し、同時に経営者自身の精神的負担を軽減できるという考え方です。本稿では、「経営者のメンタルヘルス」をテーマに、この「第二領域経営®」がどのような形でアプローチを提供するのかを考察します。
まず、経営者におけるメンタルヘルスの重要性と、その背景にあるプレッシャー構造を整理します。次に、「第二領域経営®」が示す基本原則を踏まえ、具体的にどうすれば経営者が日常業務の束縛から解放され、自分の心の健康を保ちつつ、組織運営をスムーズに行えるかを見ていきます。加えて、導入上の障壁や実務的なポイントについても触れ、持続可能な企業成長と経営者の精神的安定を両立するためのヒントを提示します。
2. 経営者のメンタルヘルスが重視される背景
経営者という立場は、会社の業績や存亡に直接責任を負うだけでなく、社員の生活や顧客との関係、取引先との信用など、多面にわたるステークホルダーとの関係を担っています。中小企業では特に、経営者が現場業務まで兼任している例が多く、日々のトラブル対応に追われつつ、戦略立案や資金繰り、採用、営業、時には経理処理までを行う負荷は相当なものです。加えて、家族経営の側面が強い場合、ビジネス上のプレッシャーと家庭内の人間関係が複雑に絡み合い、逃げ場が失われることも少なくありません。
こうした経営者特有の立場がもたらすストレスは、大きく分けて以下の要因があると言えます。第一に、不確実な経営環境下で売上や利益を確保し続けなければならないプレッシャーです。第二に、人材不足や社員育成、離職などのマネジメント上の課題が常態化していること。第三に、銀行融資や取引先とのコミュニケーション、家族や親族とのしがらみなど、一つのミスが取り返しのつかない結果を招くリスクへの恐怖。これらが複合的に作用し、経営者の精神を長期にわたって追い詰めることが多いです。
その一方で、経営者は「自分こそが会社を引っ張る主役だ」という意識から、精神的な不調を認めることや休養を取ることを「恥ずかしい」「甘え」と感じてしまう傾向も見られます。また、周囲の人も「社長を支えるのが当たり前」という認識が強く、経営者が相談相手を得にくい環境が形成されがちです。さらに、専門家に頼ることに抵抗があったり、社内で話せる人間が少ないため、孤独を深めるケースが後を絶ちません。このようにメンタルヘルス問題が深刻化しても、気づかれないまま深刻な状態に陥るリスクがあるのです。
3. 「第二領域経営®」の基本概念とメンタルヘルス
「第二領域経営®」は、経営者や管理職が、緊急性のある第一領域の業務に忙殺されず、“緊急ではないが重要”な領域に計画的に時間を確保するための手法を提供します。この考え方をメンタルヘルスに応用する場合、経営者が健康に経営を続けるための自己ケアや組織体制づくりを、会社として「第二領域」の仕事として捉えるわけです。具体的には、以下のような視点で考えることができます。
まず、経営者のメンタルヘルス自体が企業にとって“緊急ではないが極めて重要”なテーマです。すぐに数字に表れずとも、経営者が無理を続けて倒れたり、判断力を失って誤った意思決定をした場合、企業が深刻な経営危機に陥る可能性があります。こうしたリスクを踏まえ、経営者自らが定期的に心身の健康状態を点検し、必要ならカウンセリングやリフレッシュ休暇をとるなどの仕組みを“経営課題”として位置づけるのです。これは従来、「個人の自己管理」として片付けられがちな要素を、会社全体の制度や文化と結び付けて捉える点に新鮮さがあります。
また、「第二領域経営®」では、週次や月次の定例会議で中長期視点の課題を扱う仕組みが推奨されます。ここに“経営者を含む幹部のメンタルヘルス状態確認”や“組織の働き方改善”といった議題を含め、スタッフや補佐役が状況を共有し、経営者の負担が過度になっていないかを客観的に見守る形を作れれば、早期に兆候を察知できるわけです。経営者自身も“忙しい”を言い訳にせず、この会議には参加し、メンタル面に関してオープンに議論してみることが「第二領域経営®」のマインドと合致します。
さらに重要なのが、権限委譲や業務マニュアル化といった仕組みづくりです。緊急対応や日常オペレーションを経営者が一手に抱えない仕掛けを作ることで、メンタル負荷を軽減しつつ、経営者が未来を創る仕事に集中できます。経営者が焦って現場対応に走らなくても済むように、チームリーダーや中間管理職を育成し、第一領域の業務を標準化・分業化すれば、経営者の負担だけでなく、社員のキャリア成長にもつながる好循環が生まれるのです。
4. 経営者のメンタルヘルスに焦点を当てる具体的アクション
「第二領域経営®」を踏まえ、実際に経営者のメンタルヘルスを守り、持続可能な経営を可能にするためには、どんなアクションが考えられるでしょうか。以下にいくつかの実践的ヒントを示します。
4-1. 定期的な“メンタルチェックイン”の仕組みづくり
経営者が自分自身の心身状態を客観的に振り返る時間を確保するために、週に一度あるいは月に一度の“メンタルチェックイン”をスケジュールに組み込む方法があります。これは「第二領域会議」と同じような発想で、経営者が他の業務アポイントを一切入れず、自己分析やコンサルタント・カウンセラーとの面談を行う時間をブロックするのです。そこでは、現在抱えているストレス要因や疲労度、最近の睡眠・生活習慣などを振り返り、問題があればすぐに対応策を検討します。外部のメンタル専門家を“顧問”のように置く企業もあり、経営者が気軽に相談できる場を整備するのも有効です。
4-2. コミュニケーション・サポート体制の強化
経営者が孤独を感じてしまうのは、悩みや課題を社内の誰にも話せず、常に「自分だけが責任を負っている」という意識に陥るからです。そこで、取締役会や顧問・外部コンサルタントとの定期セッション、あるいは信頼できる同業の経営者との勉強会など、“社外のコミュニティ”を活用し、悩みを共有する機会を持つことが推奨されます。社内でも幹部が気軽に経営者へフィードバックしやすい文化を作り、双方向のコミュニケーションを円滑化すれば、経営者が抱え込まずに済むでしょう。「第二領域会議」においても、経営者の負担状況について一部時間を割いて確認・議論する枠を設ける企業があります。
4-3. 権限委譲と業務標準化
「第二領域経営®」の要となる仕組み化と権限委譲は、経営者のストレスを軽減する直接的効果があります。クレーム処理や決裁などの第一領域業務を、現場リーダーや管理職に任せられる体制を整えれば、経営者が緊急対応に追われにくくなるわけです。具体的にはマニュアルの作成や教育研修、権限の範囲を明確にした職務規定などを整備し、経営者が長時間拘束される事態を回避します。そうすることで経営者が週にある程度の時間を確保し、自分の健康管理や将来戦略への集中が可能になります。
4-4. ワークライフバランスの意図的調整
経営者自身が無制限に働く風潮があると、社員もそれに引きずられて長時間労働が当たり前になるケースがあります。経営トップが率先して週末はしっかり休む、家族や趣味の時間を持つ、あるいは勤務時間外の連絡を極力控えるといった姿勢を示すことで、健康的な労働文化を会社全体に醸成できます。これは“第二領域”の一つとして「経営者自身のライフスタイル改革」をプロジェクト化してもよいでしょう。もちろん売上確保や顧客対応とのバランスは必要ですが、社員の健康管理と同様に、経営者の健康が企業の長期的成長に直結するのだと認識すれば、決して贅沢な話ではありません。
4-5. メンタルヘルスを評価・指標化する取り組み
最後に、経営者や管理職のメンタルヘルスを実際に“見える化”する試みがあります。従業員向けのストレスチェック制度などが一般化しつつありますが、経営者自身に関しては、あまりこうした仕組みが整っていないのが実情です。そこで、簡易なセルフアセスメントシートや定期的なアンケートなどを用い、トップも含めた組織全体のストレスレベルや疲労度をモニタリングする方法を検討できます。「第二領域会議」でその結果を確認し、必要に応じて休養を促す、相談窓口の拡充を図るなどの対策を講じるわけです。ここで得られるデータは、長期的に見て企業の健康度を測る指標としても活用できます。
5. 導入時に気をつけたい落とし穴
経営者のメンタルヘルスを守るための「第二領域経営®」アプローチを実践しようとしても、いくつかの落とし穴が考えられます。まず、経営トップが実際には第一領域業務を手放すことを怖がり、結局会議や権限委譲が形骸化するリスクが大きいです。売上や顧客関連の問題が生じると、どうしてもそちらに引きずられる性質があり、経営者自らが“自分が対応しないと会社が回らない”と思い込むケースが後を絶ちません。これを防ぐには、幹部やリーダーとよく話し合い、第一領域対応の手順書や権限範囲を明確に定め、経営者が関与しなくても問題なく進む仕掛けを確立する必要があります。
また、「第二領域」の定例会議において、自分自身のメンタルヘルスや負荷状況を議題にすることを経営者がためらう可能性もあります。プライドや遠慮、社員の目線などが気になるかもしれませんが、それを言い出せない雰囲気だと経営者の状態悪化を誰も察知できなくなる危険があります。一部の企業では、専任のコーチや産業医を招いて定例会議後にショートセッションを行うといった方法を取り入れています。経営者が“弱さ”を見せられる仕組みをつくることで、逆に組織としての連帯感や社員の安心感を高める効果が期待できます。
さらに、短期的な業績低下を恐れてメンタル対策を先送りする傾向が依然として強いのも事実でしょう。休暇やリフレッシュの制度を導入しても、実際は経営トップが忙しすぎて利用できないといった事態が起こりえます。「第二領域経営®」を導入しても、初期段階では制度を形にするだけでは不十分で、トップが自ら実践し、ロールモデルとして“長期的な自己管理”を行う姿を示す必要があります。そこから少しずつ社内に浸透させることで、みんなが“長期視点で働きやすい企業文化”を築けるのです。
6. まとめ
経営者は組織の方向性を決め、人材を活かし、リスクやトラブルをマネジメントする中心的存在ですが、その重責ゆえに精神的ストレスや過重労働による健康被害を抱えやすいというリスクがあります。一方で、トップのメンタル状態が揺らげば、企業の判断や士気に直結し、長期的な視点での事業発展が難しくなる場合が多いのも現実です。そこで、“経営者のメンタルヘルス”を単なる個人の問題ではなく、企業全体の持続的成長に不可欠な要素と捉え、“緊急ではないが極めて重要”なテーマとして位置づけることが重要になります。
このとき役立つのが、One Step Beyond株式会社が提唱し、商標を所有する「第二領域経営®」です。定期的な会議とタスク管理によって経営者が日常の緊急案件に引きずられず、自分自身の健康維持や将来的な組織ビジョンを考える時間を確保する仕組みを作れます。さらに、権限委譲や業務マニュアルの整備によって、経営者が第一領域の火消し役から解放される余地が生まれ、長期視点のイノベーションや新規事業だけでなく、メンタルヘルスケアも計画的に取り組むことが可能となります。
最終的には、経営者が心身ともに安定した状態で判断を行える企業こそが、社員にもポジティブな影響を与え、顧客や社会への価値提供を持続的に行う可能性を高められます。“緊急ではないが重要”なことに対して意図的に時間とリソースを投じる、まさに「第二領域経営®」の思想を実践し、経営者と組織がともに健康的で長期的な発展を遂げる道を歩んではいかがでしょうか。