中小企業向けの補助金申請を検討する上で見落とせないのが「加点要件」です。補助金は公募要領に示された要件を満たすだけでなく、より有利に審査を進めるために“加点”を得られる要素を押さえておくことが大切です。特に令和6年度(2024年度)補正予算・令和7年度(2025年度)当初予算で実施される各種補助金では、賃上げやGX(グリーントランスフォーメーション)対応など、国の政策目標を反映した加点項目が設けられています。
しかし「加点要件って何をどうすればいいの?」「そもそも加点要件を満たさないと不利なの?」と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。本記事では、中小企業庁が所管する代表的な補助金(ものづくり補助金、IT導入補助金、小規模事業者持続化補助金、新事業進出補助金、中小企業成長加速化補助金、省力化補助金など)の加点要件を、最新情報を交えながら解説します。加点要件を上手に活用することで採択率が上がる可能性がありますので、ぜひ最後までご覧ください。
1.なぜ「加点要件」が存在するのか
加点要件の背景
補助金には、「必須要件」と「加点要件」があります。必須要件は「賃上げ計画の提出」「公募要領に定める資格(中小企業基本法の範囲内であること等)」など、クリアしなければ申請資格自体がないものです。一方で加点要件は、満たせば審査上プラス評価を得られる項目と定義されます。これらは毎年度の国の政策目標や社会情勢を反映しており、「より望ましい取り組み」を行う企業を優先採択する狙いがあるのです。
例えば、令和6年度補正予算・令和7年度当初予算においては、賃上げ実現やGX・DX対応が大きなテーマとなっています。そこで補助金の採択審査でも、「賃金引上げに積極的に取り組む計画があるか」「CO₂排出削減に貢献する設備投資か」「デジタル技術を活用した革新性があるか」などの加点項目が設けられています。つまり、企業がこうした政策目標に合致した取り組みを行う計画を示せば、他の応募案件よりも優先度が高まりやすいというわけです。
加点要件を知るメリット
加点要件を熟知していれば、限られた申請書の字数内でどこに重点を置いて書くかが戦略的に決められます。また、実際に事業を進める際も、加点要件に沿って取り組みを計画することで、国の補助金だけでなく自治体の助成や金融機関の優遇など、追加的な支援を受けられる場合があります。逆に、加点要件を知らずに「本来取れるはずの加点」を逃してしまうと、せっかくの投資計画が惜しくも不採択になる可能性も考えられます。したがって、最新の加点要件を把握し、自社の計画に取り込むことは補助金申請の成功確率を上げる重要なポイントだといえます。
2.代表的補助金の加点要件とその内容
ここからは、令和6年度補正予算・令和7年度当初予算で実施される主要補助金における加点要件を紹介します。年度や公募回によって多少の変更があるため、最新の公募要領を必ず確認してください。
2.1 ものづくり補助金
加点要件の例
- 賃上げ表明・実行
- 一定以上の従業員給与アップを計画し、完了後も実行報告を行う見込み。
- 「付加価値額を年率3%以上アップさせ、それを元に賃上げを行う」など数値目標を定める。
- 一定以上の従業員給与アップを計画し、完了後も実行報告を行う見込み。
- GX(環境対応)関連投資
- CO₂削減や再生可能エネルギー利用に資する設備導入。
- 生産プロセスの省エネ化、自社工場のエネルギー効率化などを計画的に実施する計画がある。
- CO₂削減や再生可能エネルギー利用に資する設備導入。
- 被災地や特定地域支援
- 震災・豪雨災害などで被害を受けた地域に本社や主要事業所がある場合。
- 復興支援に該当する事業を展開する場合など。
- 震災・豪雨災害などで被害を受けた地域に本社や主要事業所がある場合。
- 認定支援機関と共同での計画策定
- 中小企業診断士や商工会議所など“認定経営革新等支援機関”と共同でビジネスプランを策定している。
- ものづくり補助金では申請に際し、原則認定支援機関の確認書が必要だが、それに加え早期の伴走支援体制を組んでいるとアピールできる場合がある。
- 中小企業診断士や商工会議所など“認定経営革新等支援機関”と共同でビジネスプランを策定している。
対応策・ポイント
- 「賃上げ」はほぼ必須に近い大きな加点要素。自社の売上や付加価値がどのくらい伸びれば何%賃上げできるか、具体的なシミュレーションを計画書に落とし込む。
- GX項目はCO₂削減量やエネルギー使用量削減見込みを示すと説得力が高まる。機器メーカーの性能データなどを活用しよう。
- 認定支援機関との連携を早期から行い、計画全体をブラッシュアップしておくと採択後のフォローも得やすい。
2.2 IT導入補助金
加点要件の例
- 賃上げ目標の明確化
- ものづくり補助金と同様、従業員給与アップにコミットし、IT導入による生産性向上が賃上げ原資につながるシナリオを示す。
- ものづくり補助金と同様、従業員給与アップにコミットし、IT導入による生産性向上が賃上げ原資につながるシナリオを示す。
- 先端ITツール活用
- AI、RPA、IoTなど高度なデジタル技術を活用し、大幅な効率化や新サービス創出につながる場合。
- サプライチェーン全体を通じてデジタル連携を行う計画なども評価されやすい。
- AI、RPA、IoTなど高度なデジタル技術を活用し、大幅な効率化や新サービス創出につながる場合。
- 特定地域・業種支援
- 期間や公募回によっては、インバウンド需要回復に向けた観光関連業を優先するといった「特定分野加点」が設けられることがある。
- 期間や公募回によっては、インバウンド需要回復に向けた観光関連業を優先するといった「特定分野加点」が設けられることがある。
- 最低賃金上昇対応
- 地域最低賃金より30円以上高い賃金水準を目指す、あるいは一定期間内に段階的に賃金を上げる計画。
- 地域最低賃金より30円以上高い賃金水準を目指す、あるいは一定期間内に段階的に賃金を上げる計画。
対応策・ポイント
- IT導入補助金では、導入するツールが登録されたITベンダー・サービスである必要があるため、ツール選定段階で加点につながる要素を整理しておく。
- 賃金改善加点を狙う場合、実際にいつまでにどれくらい上げるかをエビデンス付きで示す。IT導入によるコスト削減額や売上増加額との関連性がポイント。
- 先端IT加点を狙うなら、AIやクラウド連携など「高付加価値」の部分を強調し、どれだけ事業効率やサービス品質が向上するかを具体化する。
2.3 小規模事業者持続化補助金
必須要件と加点要件
- 商工会・商工会議所との連携は必須要件
小規模事業者持続化補助金では、「経営計画書(様式2)」と「あわせて商工会・商工会議所が作成する『事業支援計画書(様式3)』」が必要とされており、対象事業者は最寄りの商工会・商工会議所の支援を受けることが申請の前提となっています。単独での申請は認められていないため、この点は「必須要件」と言えます。
加点要件の例
- 事業再編・事業転換
- コロナ禍後の需要変化に対応し、新市場や新たな顧客層への販路拡大を図る取り組み。
- コロナ禍後の需要変化に対応し、新市場や新たな顧客層への販路拡大を図る取り組み。
- 賃上げ・最低賃金アップへの対応
- IT導入や販路開拓を通じて売上を増やし、その成果を賃金に還元する計画がある場合。
- IT導入や販路開拓を通じて売上を増やし、その成果を賃金に還元する計画がある場合。
- 被災地支援・地域経済への貢献
- 災害復興地域に所在する事業者や、自治体が指定する重点地域の活性化に資する事業。
- 災害復興地域に所在する事業者や、自治体が指定する重点地域の活性化に資する事業。
- インボイス制度対応(公募回によっては)
- 軽減税率やインボイスに対応するためのシステム導入や研修を計画する場合、加点がつくことがある。
- 軽減税率やインボイスに対応するためのシステム導入や研修を計画する場合、加点がつくことがある。
対応策・ポイント
- 小規模事業者(従業員数5名以下の事業所など)が対象となり、商工会・商工会議所の支援を必ず受ける必要があります。申請書の作成段階から連携し、なぜこの取り組みが販路拡大につながり、どのように賃上げを実現するかを論理的に示しましょう。
- 持続化補助金は公募回が複数あり、その都度加点要件が微調整される場合があるため、最新情報の確認が必須です。
- 地域密着型ビジネスの場合、被災地支援や地域課題解決に貢献できると加点対象となる可能性が高いです。
2.4 新事業進出補助金
加点要件の例
- 完全な新分野への進出
- 既存事業と全く異なる市場や業種へ参入する場合は、審査でプラス評価される。
- 付加価値額年平均+4%以上を目指す明確な計画があると加点対象になりやすい。
- 既存事業と全く異なる市場や業種へ参入する場合は、審査でプラス評価される。
- 賃上げ要件
- 持続的な給与増加を前提とした成長戦略が盛り込まれているか。
- 持続的な給与増加を前提とした成長戦略が盛り込まれているか。
- 地域課題解決型ビジネス
- 過疎化や高齢化、観光再生など地域特有の課題に対して新規事業で取り組む場合の加点。
- 過疎化や高齢化、観光再生など地域特有の課題に対して新規事業で取り組む場合の加点。
- 産学連携・スタートアップ連携
- 大学の研究成果を活用する、あるいはスタートアップと協業して革新的な技術・サービスを生み出す計画。
- 大学の研究成果を活用する、あるいはスタートアップと協業して革新的な技術・サービスを生み出す計画。
対応策・ポイント
- 新事業であることを審査員に確実に伝えるために、「既存事業との差異」「ターゲット顧客」「革新性」を明確化。
- 地域課題解決や社会課題への貢献を示す場合は、実際のデータやアンケート結果などを引用し、どのくらいのインパクトが期待できるかを示す。
- 賃上げ+新市場進出による収益増加のシナリオを数値で結びつけると説得力アップ。
2.5 中小企業成長加速化補助金
この補助金では、売上高100億円超を目指す「100億円宣言」が必須要件として定められています(単なる加点要件ではない)。ここでは「100億円宣言」以外の加点要素を中心に紹介します。
加点要件の例(「100億円宣言」以外での評価要素)
- 大規模賃上げ
- 年率5%以上の賃上げ計画や、雇用拡大を伴う中堅化戦略を示すと大きなプラス評価。
- 企業が積極的に人材投資を行い、高水準の給与を実現することが見込まれるかがポイント。
- 年率5%以上の賃上げ計画や、雇用拡大を伴う中堅化戦略を示すと大きなプラス評価。
- GX対応・輸出拡大等
- 脱炭素関連の大型投資や、海外市場展開による日本全体の国際競争力強化につながる事業。
- 生産設備の省エネ化やCO₂排出削減効果を示す具体的データがあると評価が高まる。
- 脱炭素関連の大型投資や、海外市場展開による日本全体の国際競争力強化につながる事業。
- サプライチェーン強靱化
- 国内生産回帰や重要部品の内製化など、供給リスクを低減する取り組みも加点要素となり得る。
- 地域の関連企業との連携や産学連携などもプラス材料。
- 国内生産回帰や重要部品の内製化など、供給リスクを低減する取り組みも加点要素となり得る。
対応策・ポイント
- この補助金は補助上限が最大5億円と非常に大規模であり、応募条件として「売上高100億円超を目指す100億円宣言」が必須要件となっています。加点要件はさらに評価を高めるためのプラス要素と捉え、賃上げ率の高さやGXの取組など、国家的に重要な政策分野を後押しする内容をアピールするとよいでしょう。
- 企業トップのコミットメントが重視されるため、計画書では経営者自らの長期的なビジョンと実行体制を明確に記述する。大きな投資ほど資金繰りや体制構築が厳しく問われるため、金融機関の協力状況や具体的な予算措置も丁寧に説明しましょう。
2.6 中小企業省力化投資促進補助金
加点要件の例
- 雇用確保・賃上げ
- 省力化によるコスト削減分を従業員給与アップや研修費用に回す計画があると加点。
- 省力化によるコスト削減分を従業員給与アップや研修費用に回す計画があると加点。
- GX+DXの同時推進
- 省力化設備導入と同時に生産プロセスをデジタル最適化し、エネルギー使用量を削減する場合など。
- 省力化設備導入と同時に生産プロセスをデジタル最適化し、エネルギー使用量を削減する場合など。
- 災害対応・レジリエンス
- 災害時に人員を現場に集めずに工場を稼働させるシステム導入など、事業継続力を高める取り組み。
- 災害時に人員を現場に集めずに工場を稼働させるシステム導入など、事業継続力を高める取り組み。
- 地域連携
- 地元の関連企業・団体と一体となって省力化システムを共有し、地域産業全体の効率化を目指す事例など。
- 地元の関連企業・団体と一体となって省力化システムを共有し、地域産業全体の効率化を目指す事例など。
対応策・ポイント
- 省力化投資=人員削減というネガティブな印象を与えないよう、省力化で生まれた余力を新サービス開発や賃上げに回すというポジティブなストーリーを示す。
- DXやIoT技術を活用すると加点要素が増えやすい。ロボット導入だけでなく、稼働状況の見える化やデータ解析に取り組むとアピール度が高まる。
- 大型投資の場合は金額の根拠をしっかり説明。複数ベンダーからの見積比較や費用対効果のシミュレーションを行うことで信頼度が上がる。
3.加点要件を満たすための具体的ステップ
3.1 自社の経営戦略と関連付ける
加点要件はあくまで“審査上のプラス評価”ですが、政策的に望ましい取り組み=企業の中長期的成長に資する内容でもあります。単に「加点が取れるからやる」のではなく、自社の経営計画や課題とどう結びつくかをしっかり考えると、より説得力が増します。例えば賃上げ加点を狙うなら、売上増や生産性向上がどのように従業員給与アップにつながるかを数値で示し、経営陣のコミットメントを明確化しましょう。
3.2 認定支援機関や専門家と連携する
加点要件には「認定支援機関と共同策定」が盛り込まれる場合が多いです。経営相談に強い商工会議所・商工会、中小企業診断士や税理士などと早期に協力体制を構築すると、計画書の完成度が高まり不備や見落としが減るため、結果的に加点要件の活用もしやすくなります。専門家は政策動向にも詳しいため、最新の加点情報をタイムリーに共有してもらえる場合もあります。
3.3 必要書類やエビデンスをそろえる
加点要件によっては、具体的な証拠書類や定量データを要求される場合があります。たとえばCO₂削減効果を示すデータ、最低賃金アップ後の給与テーブル、被災地所在を証明する公的書類など。こうした裏付けがないと、加点されない可能性も。公募要領をよく読み、必要に応じてメーカーや地方自治体、社内の総務・経理部門との連携で書類を準備しましょう。
3.4 スケジュール管理と締切前の最終チェック
補助金申請は通常1~2ヶ月程度の公募期間が設けられますが、加点要件の準備には時間を要することが多いです。たとえば賃上げ計画を議論するには給与規定や社内合意が必要ですし、GX対応設備の省エネ計算には技術的な計算やメーカーデータが必要です。公募開始前から加点要件の対策に着手し、締切直前になって慌てないよう早め早めの準備を心がけましょう。
4.加点要件活用の注意点
4.1 過度な無理をしない
加点を取るために、企業の実力以上の無理な賃上げ計画や投資を掲げるのはリスクです。採択後に要件が果たせず、不採択扱い(または補助金返還など)になる可能性も否定できません。あくまで実現可能な目標を設定し、経営に無理のない範囲で加点要件を満たすことが大切です。
4.2 計画書全体との整合性
加点項目だけを強調して、肝心の事業全体の整合性が取れないと審査員は違和感を持つでしょう。たとえばCO₂削減をアピールしているのに、投資効果として電力消費が減る理由やデータが示されていないなど。一貫性がなければかえってマイナス印象を与えるので、加点要件は全体のロジックと繋げて説明してください。
4.3 年度や公募回ごとの変更に注意
加点要件は毎年・毎公募回で細かい変更が行われます。過去に実績があっても、最新公募の要件と違う場合があります。特に政策トレンド(例:コロナ禍対応、ウクライナ情勢、GX緊急対策等)の動向によって加点項目が新設・削除されることが多いです。必ず申請する年度・回次の公募要領を最終確認し、公式の説明会などがあれば参加して最新情報を入手しましょう。
5.One Step Beyondのサポートとまとめ
加点要件は補助金採択の“キーポイント”です。しかし、これらを満たすためには企業自身の努力や社内合意のプロセス、追加書類の準備などが必要となり、一朝一夕では進みません。また、それぞれの補助金ごとに要件や評価基準が細かく異なるため、「どの要件をどうアピールすればよいか」という戦略が不可欠です。
こうした悩みに対して、One Step Beyond株式会社では以下のようなサポートを提供しています。
- 補助金選定・加点要件診断
企業の事業内容や投資計画、経営目標を伺い、適した補助金と獲得可能な加点要件を一緒に洗い出します。 - 申請書作成支援
公募要領に沿った加点要件の説明方法、必要書類の揃え方、裏付けデータの提示など、実務面でのアドバイスを行い、審査員が評価しやすい書類を完成させます。 - 採択後のフォローアップ
賃上げやGX対策など、申請時に掲げた目標を実現するサポートも提供。補助金受給後の報告業務や事業計画の修正対応など、アフターケアも充実しています。
補助金は一度採択されれば大きな財政的後押しとなり、企業の成長スピードを加速させる原動力になり得ます。その一方で、申請段階から交付決定後の手続きまでハードルは高く、要件を知らずに損をするケースも少なくありません。特に「加点要件」の理解は採択確率を左右する重大ポイントですので、ぜひ本記事を参考にしながら自社に最適な対応策を講じてみてください。必要に応じて専門家や支援機関の力を借り、戦略的な申請を目指しましょう!
参考資料(本文中にリンクは挿入していません)
- 中小企業庁「令和6年度補正予算・令和7年度当初予算 中小企業支援策」
- 中小企業庁「ものづくり補助金 公募要領(2024~2025年版)」
- 中小企業庁「IT導入補助金 2025 事業概要」
- 中小企業庁「小規模事業者持続化補助金 公募要領」
- 中小企業庁「新事業進出補助金 公募要領」
- 中小企業庁「中小企業成長加速化補助金 公募要領」
- 中小企業庁「中小企業省力化投資促進補助金 概要」
- 中小企業庁「省エネ投資促進事業費補助金(GX対応)公募資料」