スリランカでの契約書作成の注意点(進出後の運営・管理編その5) スリランカでの契約書作成の注意点(進出後の運営・管理編その5)

スリランカでの契約書作成の注意点(進出後の運営・管理編その5)

スリランカでの契約書作成の注意点(進出後の運営・管理編その5)

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■目次

  1. スリランカでの契約が重要となる背景と基本的な法制度
  2. 契約書作成の前提:言語・法域・ビジネス慣行の相違点
  3. 契約の種類と盛り込むべき主要条項
  4. スリランカ流の交渉スタイルと合意形成プロセス
  5. 契約締結後のリスク管理と紛争解決手段
  6. One Step Beyond株式会社による実務サポート
  7. まとめと次回予告

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1. スリランカでの契約が重要となる背景と基本的な法制度

1.1 改めて見直される契約の重要性

スリランカでは、近年の政治的・経済的変動により外資誘致への関心が高まり、海外企業との取引が拡大しています。それに伴って、契約書の取り交わしが以前にも増して重視されるようになっています。日本国内であれば口頭合意や慣習的な取引関係で済ませていたケースが、海外ビジネスでは契約書を厳密に作成しなかったがために、後々トラブルに発展してしまう事例も少なくありません。特にスリランカ特有の商慣行や法制度が絡むことで、契約の不備や曖昧さがリスクを増大させる要因となるのです。
商取引からライセンス契約、雇用契約、合弁事業の設立など、さまざまな局面で契約が発生しますが、どのような形式であっても「双方の権利義務」を明確化する作業は欠かせません。曖昧なまま取り交わした合意事項が後に争点となり、紛争が長期化したり、ビジネスの信用を損ねたりするリスクを回避するためにも、スリランカの実務や法律を踏まえたうえで、適切に契約書を作成することが極めて重要なのです。

1.2 スリランカの基本的な法制度と影響

スリランカの法制度は、イギリス統治時代の英米法(コモン・ロー)を基盤としつつ、国内独自の法改正が折り重なった複雑な構造をとっています。商取引や契約に関する規定は、英国法を参照しながら、スリランカ独自の商法や民事法が適用される場合もあるため、すべてを日本的な感覚で捉えるのは危険です。また、地域によっては風習法的な要素が残っていたり、宗教や慣習上の取り決めがビジネス上の習慣として浸透しているケースもあるため、契約成立の根拠や履行手段に予期せぬ縛りが生じる可能性もあります。
さらに、政府や行政機関による規制が予告なしに強化・変更されることもあり、外国企業としては突然契約条件を見直さざるを得なくなるリスクも存在します。たとえば、外貨管理や輸入規制、投資誘致に関する特別法令などが発動されると、支払い条件や製品の流通手段が変わり、既存の契約書を大幅に改訂しなければならなくなるケースも考えられます。こうした背景を踏まえ、十分にスリランカの法律や行政リスクを踏まえた契約書作成が求められるのです。

2. 契約書作成の前提:言語・法域・ビジネス慣行の相違点

2.1 契約書の言語選択と翻訳精度

スリランカで契約を結ぶ場合、多くの企業が英語で契約書を作成するのが一般的です。シンハラ語やタミル語も公用語として使用されていますが、国際ビジネスとしては英語が幅広く浸透しているため、海外企業同士(または海外企業とスリランカ企業)の取引では英語が標準といえます。ただし、契約相手によっては、ローカル言語での補足説明や、二か国語表記を求められる場合もあるため、あらかじめ相手企業の事情を確認しておくべきです。
翻訳精度には特に注意が必要です。仮に二か国語表記の契約書を作成するときは、「どちらの言語が優先されるか」「解釈に相違があった場合の扱いはどうなるか」を明確に定めておかなければなりません。翻訳ミスや表現の曖昧さを理由に、契約の一部が無効と見なされるリスクもゼロではありません。翻訳をプロに任せるとしても、法的な文言に精通した翻訳者や、現地の法律事務所にダブルチェックを依頼するなど、万全の対策を講じることが大切です。

2.2 違いを生むビジネス慣行の把握

日本企業がスリランカで契約を結ぶ際、しばしば見落としがちなのがビジネス慣行の違いです。日本では細部にわたる契約条項が厳密に定められ、両社が合意に至ったうえで署名・押印する手続きが主流ですが、スリランカでは場合によっては合意事項の一部を口頭や覚書(Memorandum)で済ませるといった柔軟な文化も残っています。
たとえば、契約を結んだ後でも「追加で合意していないはずの費用が請求される」「契約で定めた納期を守らない」といったトラブルが発生した際、「スリランカ流の慣行として追加請求は当たり前」と主張されてしまう場合があります。こうした食い違いを避けるには、契約書の中で費用負担や業務範囲などを明確に規定しておく必要があります。日本企業側が「これくらいなら書かなくても理解してくれるだろう」と思う事項でも、現地の視点ではまったく違う解釈がされることは珍しくありません。

3. 契約の種類と盛り込むべき主要条項

3.1 販売代理・ディストリビューター契約

スリランカで製品やサービスを流通させる際、多くの企業が販売代理店やディストリビューターと契約を結びます。この場合、契約書に明記すべき重要な条項として、契約地域(Territory)製品範囲(Products)販売目標(Sales Target)マーケティング支援競合製品の取り扱い制限(Non-Compete) などが挙げられます。
また、販売代理店契約とディストリビューター契約では、代理店が単に仲介手数料を得る形か、ディストリビューターが一括仕入れのうえ再販する形かで、契約上の立場やリスク配分が異なります。価格設定権や在庫リスク、返品規定などについて、どちらの契約形態を採用するかを踏まえたうえで詳細を詰めることが肝要です。売掛金の管理や支払い条件も慎重に検討しないと、最終的に想定外の損失を被る場合があります。

3.2 合弁事業(Joint Venture)契約

スリランカ企業と合弁会社を設立する場合は、資本構成出資額経営権の分担取締役会の構成利益配分や剰余金処分合弁期間と終了条件知的財産権の扱い などを明確にする必要があります。とりわけ経営の意思決定プロセスについては、合弁パートナー間で議決権や優先事項をどう設定するか、紛争時の解決策をどう規定するかが将来の安定した運営を左右します。
スリランカでは、外国企業の投資にあたり、特定セクターで出資上限が定められている場合や、免税措置が受けられる特区(BOIプロジェクト等)が存在する場合もあるため、契約書の前に投資許可や行政手続きを十分に把握し、それに応じた条項を組み込む必要があります。実際の出資スケジュールや資金送金方法も、為替規制や資金移動に関する法令の変更を見据えて柔軟に規定しておくことが望ましいでしょう。

3.3 技術ライセンス・秘密保持契約

日本企業が持つ技術やノウハウをスリランカのパートナー企業に提供するケースでは、技術ライセンス契約秘密保持契約(NDA) が重要な役割を果たします。技術提供の範囲や期間、ロイヤルティーや使用料の計算方法、改良発明が生じた場合の権利帰属など、事前に細かく定義しておかなければ、後々の紛争リスクが高まるのは言うまでもありません。
スリランカでは、日本ほど厳密な知的財産保護が確立していない領域もあり、ノウハウや商標が流出したり模倣されたりする可能性がゼロとはいえません。そのため、秘密保持契約を結ぶだけでなく、ライセンス契約に違反した場合のペナルティー条項や、権利侵害時にどの司法管轄で裁判を行うかなどを明示しておくと安心です。現地の法的手段だけでなく、仲裁機関を活用する方法や、日本側での差止請求を含む対応策を契約書に盛り込んでおくことが推奨されます。

3.4 雇用契約・駐在員派遣契約

スリランカ現地法人での人材採用、あるいは日本からの駐在員派遣など人事面での契約においても、雇用契約書駐在員派遣契約の作成が欠かせません。特に現地スタッフとの雇用契約では、給与や福利厚生、社会保障制度(EPF/ETFなど)への対応、試用期間や解雇条件などを明確に定める必要があります。スリランカの労働法は従業員保護の観点が強く、企業側に不利に働くこともあるため、契約書で企業リスクを適切にコントロールしつつ、違法にならないよう要注意です。
一方、駐在員派遣契約では、派遣期間や報酬、保険の取り扱い、海外勤務手当、帰国時の処遇などを取り決めます。スリランカ政府のビザ・労働許可証の要件に合致するよう、勤務形態や在留資格を整備しなければならない点も考慮が必要です。派遣社員の立場が現地法人の従業員となるのか、それとも日本本社と雇用契約を維持するのかによって、適用される法律や手続きが変わるため、事前に専門家の助言を得ながら契約書を作成するのが理想的です。

4. スリランカ流の交渉スタイルと合意形成プロセス

4.1 交渉開始から署名までの流れ

スリランカで契約書を作成する際、多くの場合は口頭合意やメールでのやり取りから始まり、ある程度の内容が固まってから正式なドラフトを作成します。この時点で両者が英語版ドラフトを確認し、弁護士や専門家のレビューを受けながら条項を調整していくのが一般的な流れです。
ただし、スリランカ企業の中には慎重な審査プロセスを経ずに大筋合意を成立させる場合もあり、「ドラフトを一度にすべて確認するのではなく、要所要所を修正しながら最終版を詰める」というスタイルがとられることもあります。日本企業側は、初期段階で重要な項目(支払い条件、責任範囲、紛争解決方法など)を簡潔にまとめたTerm Sheetを共有し、合意に時間をかけすぎない工夫をするとスムーズに進みやすいでしょう。

4.2 現地企業との駆け引きと注意点

スリランカの企業との契約交渉では、当初合意したと思っていた条件が後から変わるケースが珍しくありません。たとえば、価格設定や納期、委託範囲をめぐって再交渉が入る場合が多々あるのです。これは必ずしも悪意ではなく、「ローカル流の柔軟な対応」という考え方が根底にあるため、日本企業はこの点を事前に想定しながら交渉を行う必要があります。
また、スリランカではビジネスにおいて上層部の決定権が絶対的であることが少なくなく、中間管理職との話し合いが進んでいても、最終的にオーナーや取締役が「白紙に戻す」といった事態が起きる可能性があります。交渉の初期段階から、どのレベルの決裁者が意思決定を行うのか、トップとコミュニケーションをとる手段はあるのかを確認しておくことで、無用の時間浪費を回避できるでしょう。

5. 契約締結後のリスク管理と紛争解決手段

5.1 契約の更新・変更手続きとモニタリング

契約書を締結してビジネスがスタートした後でも、外的環境や経営方針の変化によって、条件を見直さなければならない場面が出てきます。スリランカでは法改正や通貨変動が起因となって、契約の再交渉を余儀なくされることがあり、企業としては契約期間や更新手続きについて明確に規定しておくことが望ましいでしょう。また、契約履行状況のモニタリングも重要な作業です。定期的に売上実績や納入状況、費用精算などをチェックし、契約相手が合意内容を遵守しているかを確認しておかないと、いつの間にか不正確な運用が浸透してしまうリスクがあります。

5.2 紛争解決の選択肢:裁判・仲裁・調停

スリランカで契約トラブルが発生し、話し合いで解決しきれない場合、最後の手段として裁判に訴える方法があります。ただし、現地裁判所の手続きは時間がかかることも多く、英語での対応が可能とはいえ、法的知識や翻訳の手間など負担が大きいのが現状です。そのため、契約書に準拠法と裁判管轄を明記しつつ、可能であれば仲裁(Arbitration)を利用する旨の仲裁条項を盛り込んでおくことが推奨されます。仲裁機関としては、スリランカ商事仲裁センターや、シンガポール国際仲裁センター(SIAC)を指定する方法も考えられます。
紛争が深刻化する前に、調停(Mediation)を活用する方法も有効です。スリランカでは商事調停に対応している機関もあり、当事者同士の話し合いを促進する第三者が入ることで、迅速かつ低コストで合意に達する可能性が高まります。日本企業としては、契約相手との長期的な関係を重視する場合が多いので、激しい対立に至る前に調停などの方法を検討することが大きなメリットにつながるでしょう。

6. One Step Beyond株式会社による実務サポート

6.1 契約ドラフト作成・レビュー支援

スリランカに進出する日本企業にとって、契約書作成は大きな負荷がかかる作業です。相手先企業との交渉が長引いたり、現地の法律専門家への依頼が遅れると、事業開始時期や計画にも支障が出かねません。One Step Beyond株式会社では、これまでの多数の実績と現地パートナーの弁護士ネットワークを活かし、企業が作成する契約書のドラフトレビューや、必要に応じたリーガル面でのアドバイスを総合的にサポートします。
具体的には、企業の求める契約形態に応じて、過去の事例を参考にしたひな型や条項リストを提案し、英語文言を含めた修正案を提示することで、契約交渉をスムーズに進めるための基盤を提供しています。また、現地弁護士との連携により、スリランカ法固有のリスクを洗い出し、最適な予防策を盛り込んだ契約書づくりを支援いたします。

6.2 紛争対応と長期リスクマネジメント

万が一、契約トラブルや法的紛争に発展しそうな兆候があった場合も、One Step Beyond株式会社がお客様とともにリスク分析を行い、解決策を模索します。紛争解決のオプション(仲裁・調停・裁判)についてのメリットとデメリットを整理し、最適な戦略を立てられるようサポートを実施します。企業としては、紛争による事業停止や信用失墜を避けることが最優先となるため、当事者間交渉のサポートや第三者機関の紹介など、早期解決を目指すための具体的な行動案を用意することが可能です。
また、スリランカ事業を長期的に見据えている企業に対しては、定期的に契約ポートフォリオを見直し、法改正や為替リスクなどの外部要因に対応するリスクマネジメント計画を提案しています。スリランカは今後さらなる経済発展が期待される半面、政治的変動やインフラ整備の進度によってビジネス環境が大きく変わる可能性があるため、日常的なモニタリングと契約書のアップデートが欠かせません。One Step Beyond株式会社は、こうした将来的なニーズに合わせた伴走型のコンサルティングを提供しています。

7. まとめと次回予告

7.1 スリランカ契約実務のポイント

スリランカでの契約書作成においては、日本国内と同じ感覚で進めると想定外のリスクを抱えることになりかねません。法体系の特徴や行政の動向、言語・文化的慣行、商取引の実務慣習など、複数の要素が絡み合うなかで、契約条項を緻密に定めていくことが求められます。とりわけ以下の点がポイントとなります。

  • 契約書の言語・優先順位を明確にする:二か国語表記の場合、どちらが正本か規定する
  • 主要条項の徹底的な確認:納期・価格・成果物・責任範囲・支払条件・更新手続きなどの詳細化
  • スリランカ独自のビジネス慣行への配慮:契約後の追加交渉や口頭合意のリスクを想定する
  • 紛争解決手段の明文化:準拠法、裁判管轄、仲裁や調停の利用を事前に合意しておく
  • 長期的なリスクモニタリング:法改正や為替リスクへの対応、契約書の定期的見直し

これらを踏まえたうえで、スリランカにおけるビジネスチャンスを確実にものにするためには、専門家のサポートを受けながら着実に契約実務を遂行することが賢明といえます。

7.2 次回:「スリランカ市場における競争分析の進め方」

次回の「進出後の運営・管理編その6」では、スリランカ市場における競争分析の進め方を取り上げます。市場規模の見極め、主要競合の把握や差別化戦略の設計などを通じて、いかに現地でのビジネスを効率よく展開できるか、具体的なステップや注意点を解説していく予定です。契約書の整備と同様に、競合環境の理解は成功の大きなカギを握る要素ですので、ぜひ続けてご覧ください。

スリランカ進出のご相談はOne Step Beyond株式会社へ

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【参考資料リスト】
・スリランカ商工会議所関連資料
・日本貿易振興機構(JETRO)スリランカ実務ガイド
・スリランカ投資委員会(BOI)ガイドライン
・在スリランカ日本国大使館情報
・シンガポール国際仲裁センター(SIAC)資料
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