海外進出10ステップ:ステップ6法人設立と各種登録 ⑧「駐在員事務所 vs 現地法人:メリット・デメリット比較」 海外進出10ステップ:ステップ6法人設立と各種登録 ⑧「駐在員事務所 vs 現地法人:メリット・デメリット比較」

海外進出10ステップ:ステップ6法人設立と各種登録 ⑧「駐在員事務所 vs 現地法人:メリット・デメリット比較」

海外進出10ステップ:ステップ6法人設立と各種登録 ⑧「駐在員事務所 vs 現地法人:メリット・デメリット比較」

1. はじめに

海外進出の際、必ずしもすぐに現地法人を設立しなければならないわけではありません。企業が進出初期段階で選択肢に入れることが多いのが「駐在員事務所(Representative Office)」です。実際、現地法人を作るには多額の資本金や煩雑な手続きが必要なケースがある一方、駐在員事務所なら費用や手間を抑えて初期調査や市場テストが可能となる場合があります。しかし当然ながら駐在員事務所には営業活動に制限がかかることが多く、現地法人ほどのビジネス展開はしにくいというデメリットも存在します。

本稿では「海外進出10ステップ」のステップ6「法人設立と各種登録」の第8回として、「駐在員事務所 vs 現地法人:メリット・デメリット比較」をテーマに取り上げます。まずは両者の特徴を整理し、それぞれにどのような利点・欠点があるかを文章での解説を中心にまとめていきます。進出初期にリスクを最小化したい企業にとっては駐在員事務所が有力な選択肢となる一方、大きな商機を捉えたい企業や本格的な営業活動を行いたい企業では現地法人の設立が不可欠となるケースが多いため、自社のニーズやリソースを踏まえた検討が重要です。

また、こうした選択を「今すぐには売上を生まないが将来の事業を大きく左右する」分野として認識し、One Step Beyond株式会社が提唱し、商標を所有する「第二領域経営®」を活用して計画的に進める方法にも触れていきます。週や月の“第二領域会議”を設定し、そこでは第一領域(売上やクレーム対応)に時間を奪われることなく、駐在員事務所と現地法人の比較検討を最優先議題として扱えば、後回しにしがちな海外拠点選択をスムーズに決定できるでしょう。次回(ステップ6法人設立と各種登録 ⑨「法人設立の外部委託 vs 自社対応:コストと品質の観点から」)では、設立手続きを外部委託すべきか自社対応すべきかの視点を取り上げる予定です。


2. 駐在員事務所とは何か

2.1 基本的な位置づけ

駐在員事務所(Representative Office)とは、現地での市場調査や情報収集、連絡業務などに特化した拠点形態の一つです。多くの国では駐在員事務所として登録すると、いわゆる「営業活動(商取引や契約締結、売上計上など)」が禁止または制限されることが一般的です。つまり、あくまで「連絡窓口」「調査活動」「広報」程度の機能しか認められないケースが多いわけです。

2.2 利点

  1. 設立費用・手間が抑えられる
    一般に、駐在員事務所の開設手続きは法人設立に比べて簡易な場合が多く、法定資本金などの要件が基本的にないか、緩やかである国が多い。
  2. リスクを低減しつつ市場を探れる
    本格的に投資額を投下せずとも、現地担当を置いて現地市場をリサーチできるため、進出初期段階のリスクが最小化される。
  3. 税務上の負担が軽減される可能性
    駐在員事務所は実質的に「営業活動をしない」という前提があるため、法人としての納税義務が限定的である場合がある。もっとも、国によっては一定の課税が生じるケースもあるため要注意。

2.3 デメリット

  1. 営業活動ができない
    もっとも大きな制約はここにあり、契約締結や現地顧客への販売などが法律で禁じられる、あるいは厳しい制限が課される国が多い。事実上、事務所の業務範囲は調査や情報収集に限定され、売上を創出できない。
  2. 認知・信頼面で不利
    現地法人に比べて正式な法人格を持たないため、取引先や行政機関に対して「本格的に進出する意思がない」と見られることがある。大手取引先との交渉では信用面で不利になりやすい。
  3. 従業員の雇用や現地銀行口座などが制限
    駐在員事務所でも現地スタッフを採用可能な国はあるが、法律面で条件が厳しい場合や、銀行口座の開設・資金管理が制限される場合があり、事業推進に支障が出ることがある。

3. 現地法人とは何か

3.1 一般的な位置づけ

現地法人(子会社)は、外国企業が現地の会社法に基づいて設立した、独立した法人格を持つ会社です。資本金を投入して登記を行い、取締役(董事)などの役員を置き、現地で正式に営業活動や取引を行えるのが大きな特徴となります。

3.2 利点

  1. 本格的な営業が可能
    駐在員事務所とは異なり、契約締結や売上計上、現地での法人名義による取引が認められるため、事業拡大がスムーズ。
  2. 信用力の向上
    現地法人として実体を持つため、銀行口座や金融取引なども行いやすく、取引先から「長期的に根を下ろしてビジネスする意思がある企業」と見なされやすい。公共事業や大規模案件への入札資格にも差が出る場合がある。
  3. 資金・人材の柔軟運用
    資本金やローンを本社から投入し、現地で必要な設備投資や雇用を拡大できる。中長期の視点で人的リソースを配置し、現地採用も容易となる。

3.3 デメリット

  1. 設立コストと手続きの煩雑さ
    国や地域によって最低資本金規定や外資規制があり、書類準備や官庁とのやり取りに多大な時間と費用がかかる。
  2. 納税義務や監査要件
    現地法人として税務申告や会計監査が要求されるため、コストと専門知識が必要。適切に対応しないと違反リスクが生じる。
  3. 解散・撤退の負担
    事業が上手くいかず撤退を決めた場合でも、法人解散手続きが煩雑で時間を要する国が多く、追加的な費用がかかるリスクがある。

4. 駐在員事務所 vs 現地法人:メリット・デメリット総まとめ

以下のように、駐在員事務所と現地法人には一長一短がある。自社の戦略やリソースを踏まえ、どちらが適切かを判断する際には、まず以下の観点で比較するのが有効だろう。

4.1 進出初期のリスクとコスト

  • 駐在員事務所
    • 設立コスト:比較的低い
    • 手続きの難易度:法人化より容易
    • 営業活動:原則不可
    • 撤退時リスク:簡易にクローズ可能な国が多い
  • 現地法人
    • 設立コスト:資本金や書類、専門家費用で高め
    • 手続きの難易度:煩雑になりがち
    • 営業活動:自由
    • 撤退時リスク:法人解散手続きが複雑

4.2 ビジネス拡大の可能性

  • 駐在員事務所
    • 信用力:限定的(単なる調査拠点と見なされる)
    • 顧客との契約:不可または制限
    • 資金調達:現地金融機関を利用しにくい
  • 現地法人
    • 信用力:高め(正規法人として認知)
    • 顧客との契約:自由
    • 資金調達:現地銀行や投資家と取引可能

4.3 税務・労務・コンプライアンス面

  • 駆在員事務所
    • 税務義務:基本的に売上活動がないため、納税対象が限定される場合も
    • 労務:ローカルスタッフの採用が制限されることが多い
    • コンプライアンス:簡易だが営業活動不可
  • 現地法人
    • 税務義務:法人税・VAT・社会保険などフルに適用
    • 労務:自由に雇用拡大可能
    • コンプライアンス:継続的な会計報告など手間がかかる

5. “第二領域経営®”を活かした効果的な選択プロセス

前述のように、駐在員事務所と現地法人のどちらを選ぶかは、企業のビジネスモデルや資金力、短期か長期かという投資スタンスなど多角的に判断すべきです。そこで役立つのが、One Step Beyond株式会社が提唱し、商標を所有する「第二領域経営®」というマネジメント手法です。日常の売上やクレーム対応に追われるなか、“今すぐには収益をもたらさないが将来的に極めて重要”な意思決定を後回しにせず、以下のような仕組みで計画的に進められます。

5.1 定期的な第二領域会議の開催

  • 週や月単位の“第二領域会議”を設け、そこでは第一領域(売上・顧客対応)を扱わないルールを徹底し、海外拠点設計(駐在員事務所か現地法人か)を最優先議題とする。
  • 必要なデータ(資金見込み、業界慣習、法的リスクなど)を担当者が準備し、会議で経営トップと幹部が議論できる状態を整える。

5.2 第一領域の権限委譲

  • マニュアル化や標準化を進め、現場リーダーが顧客対応やトラブル処理をこなせるようにしておく。そうすることでトップが“火消し”に呼び戻されず、拠点選択の議論に集中できる時間を確保できる。

5.3 比較検討とPDCA

  • “第二領域会議”で駐在員事務所と現地法人のメリット・デメリットを洗い出し、自社の事業計画やリソースと照らし合わせながら複数回の会議で最終結論を練る。外部コンサルの意見や他社事例も参考にし、PDCAを回しながら結論に近づける。
  • 途中で市場環境や社内事情が変化した場合でも、定例会議で随時報告し、戦略を調整する流れを作れるため、意思決定を前に進めやすい。

6. まとめ

海外進出を検討する際、現地法人をいきなり設立するか、それともまずは駐在員事務所を立ち上げて市場調査やネットワークづくりに専念するかは大きな分岐点となります。駐在員事務所はコストとリスクを抑えて現地の実情を把握するうえで有効ですが、営業行為が制限されるため収益化は期待できません。一方、現地法人は営業活動が自由で取引先の信用も得やすい代わりに、設立手続きや税務・監査などコストと負担が大きいです。
企業がどちらの形態を選ぶかは、短期か中長期かの投資スタンスや予算、目指す事業規模、リスク許容度など多面的に判断すべきテーマです。ここで、「第二領域経営®」というフレームワークを活用し、経営トップや幹部が日常業務(第一領域)から離れた“第二領域会議”でこの課題を優先議題とすれば、後回しで適当な判断に陥るリスクが大幅に減少します。実際に駐在員事務所か現地法人かを決める際には、外部コンサルの意見や現地の法規制情報を参照しながら、複数回にわたってディスカッションし、結論に合意するPDCAサイクルを回すのが賢明です。

次回(ステップ6法人設立と各種登録 ⑨「法人設立の外部委託 vs 自社対応:コストと品質の観点から」)では、法人設立や諸手続きを外部プロフェッショナルに委託すべきか、それとも社内リソースで対応すべきかを考察します。コストや品質、リスク管理の観点からどちらが最適解になりやすいかについて具体的に解説しますので、今回の内容と合わせてご覧いただくことで、自社の最適な海外進出ロードマップをより明確に描けるはずです。

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