海外進出10ステップ:ステップ6法人設立と各種登録 ⑨「法人設立の外部委託 vs 自社対応:コストと品質の観点から」 海外進出10ステップ:ステップ6法人設立と各種登録 ⑨「法人設立の外部委託 vs 自社対応:コストと品質の観点から」

海外進出10ステップ:ステップ6法人設立と各種登録 ⑨「法人設立の外部委託 vs 自社対応:コストと品質の観点から」

海外進出10ステップ:ステップ6法人設立と各種登録 ⑨「法人設立の外部委託 vs 自社対応:コストと品質の観点から」

1. はじめに

海外進出を検討する企業にとって、現地法人の設立手続きは大きな課題です。国や地域によって提出書類や審査機関が多岐にわたることもあり、相応の時間と労力がかかります。実際の作業を進めるにあたり、すべてを自社で対応するのか、それとも外部の専門家やコンサルタントに委託するのか、事前に選択を迫られる場面が少なくありません。
「自社対応ならコストを抑えられるが手間がかかりすぎるのでは」「外部委託なら手間は省けるが費用が高額で、情報漏れのリスクもあるのでは」―― こうした悩みは中小企業だけでなく、海外進出を図る多くの企業に共通するものです。本稿では、「海外進出10ステップ」のステップ6「法人設立と各種登録」の第9回として、「法人設立の外部委託 vs 自社対応:コストと品質の観点から」をテーマに掲げます。まず、外部委託と自社対応の基本的なメリット・デメリットを整理したうえで、それぞれが抱えるリスクや注意点を文章での解説を中心に示します。
さらに、こうした意思決定を「今すぐに売上に直結しないが、将来の展開を大きく左右する」領域と捉え、日常の第一領域(売上や顧客対応)に忙殺されずに計画的に進めるためには、One Step Beyond株式会社が提唱し、商標を所有する「第二領域経営®」を活用するのが有効です。経営トップや幹部が“第二領域会議”を定期的に設け、そこで法人設立の方式や予算、責任分担を集中して協議すれば、後回しになりがちな手続きをスムーズに進めやすくなります。
なお、次回(ステップ6法人設立と各種登録 ⑩「海外法人の会計年度:本社との調整と現地規制への対応」)では、法人設立後に企業が直面する会計年度の設定や本社とのずれ、現地の会計監査要件などを取り上げ、最適な会計期を設定するためのポイントを考察する予定です。


2. 外部委託と自社対応:基本的な選択肢

法人設立の手続きをめぐっては、大きく分けると以下の二つのアプローチがあります。

  1. 外部専門家やコンサルタントに委託する
    国によっては、現地の法律事務所、会計・税務コンサル、あるいは設立代行を専門とする企業が存在し、それらに登記手続きや投資許可取得などをほぼ一括して任せることが可能です。
  2. 自社の担当チームで対応する
    会社法や外資規制、投資委員会(例えば中国の投資庁、タイのBOIなど)の審査を自社の社員が調べて、書類作成や官庁との折衝を直接行う形です。特にリソースが豊富で、複雑な海外手続きに精通した人材が社内にいる場合は選択肢となります。

どちらが適切かは企業規模や業種、内部リソース、コスト許容度などにより異なるため、一概に「これが正解」とは言い切れません。以下でそれぞれの利点・欠点を整理します。


3. 外部委託のメリット・デメリット

3.1 メリット

  1. 手続きのスピードアップ
    現地の法律や規制に精通したプロが対応することで、書類不備や差し戻しを最小限に抑えられます。官庁への申請フォーマットも熟知しており、並行処理などで時間短縮が期待できます。
  2. リスク回避と正確性
    自社にないノウハウを提供してくれるため、投資許可や外資規制、最低資本金要件などを見落とすリスクが減ります。多くの設立支援実績を持つコンサルなら最新運用に適切に対応できるでしょう。
  3. 本業リソースの解放
    自社の社員が煩雑な書類作成や調査に追われず済むため、海外進出の戦略やマーケティング、営業計画など本業のコア領域に集中できます。管理部門の人手が限られている中小企業には大きなメリットです。

3.2 デメリット

  1. 費用がかさむ可能性
    一括代行を依頼すると、当然ながらコンサル手数料や報酬が発生します。業種や国によって金額はまちまちですが、数十万円から数百万円規模になることもあり、小規模企業には大きな負担となり得ます。
  2. コミュニケーションロス
    外部委託すると“何をどう進めているか”がブラックボックス化するリスクがあります。こまめな進捗報告を受けられる体制を構築しないと、後から「想定外の追加費用」や「手続きの遅れ」が判明する可能性があります。
  3. ノウハウの社内蓄積が少ない
    すべて外部に丸投げしてしまうと、将来的に増資や追加拠点設立などを検討するときに再び同様の費用と時間をかける必要があります。社内に海外設立の知見が残らないため、自律的な海外展開力が育ちにくい面があるでしょう。

4. 自社対応のメリット・デメリット

4.1 メリット

  1. コストの節約
    外部コンサルを使わずに書類作成や役所対応を自社スタッフが行えば、直接的な手数料を支払わずに済むため、出費を抑えられます。規制が比較的シンプルな国なら十分対応可能です。
  2. 社内ノウハウの蓄積
    社員が自分たちで規制や手続きを学び、実務をこなすことで、次回以降の海外拠点設立や運営にも活かせる経験知識が得られます。これにより海外展開力が強化され、中長期的に見て大きな財産になる可能性があります。
  3. 柔軟なスケジュール管理
    外部プロに依頼して連絡待ちになるより、自社で手続きを進めるほうが場合によっては融通が利くことがあります。緊急で書類に訂正が必要なときなども、すぐにリソースを投下すれば対応可能です。

4.2 デメリット

  1. 手間と時間がかかる
    慣れない海外の法規制を自力でリサーチし、書類作成や当局対応を行うのは膨大な工数を要します。特に担当が兼務の場合、日常業務に追われてなかなか進まないリスクが高いです。
  2. 書類不備や差し戻しリスク
    国によって複雑な外資規制や投資委員会審査があり、素人判断で進めると不備が多発しがち。結果的にスケジュール遅延や余分なコストが発生し、外部委託より高くつく例もあります。
  3. 判断ミスによる法的リスク
    規制を見落として違反扱いとなる場合や、最低資本金や取締役要件を誤解して許認可が下りないなど、経営上の大きなリスクを伴う可能性があります。専門家の監修なしでは不確実性が高いでしょう。

5. コストと品質の両面を踏まえた意思決定

外部委託と自社対応のどちらを選ぶかは、単に“コストがかからない方がいい”という次元ではなく、“どの程度の品質とスピードを求めるか”によっても左右されます。以下のように両面で検討すると、意思決定が整理しやすいです。

5.1 コスト面の考慮

  • 短期コスト vs 長期コスト
    外部委託での手数料は確かに一時的に大きな支出となるが、不備や遅延による機会損失や後からの追加修正コストを考えるとトータルで得する場合もある。
  • 規制の複雑度
    業種規制や外資比率規定が複雑な国ほど、素人が独学で対応すると差し戻しリスクが高く、時間がかかるため、外部委託のコストを上回る損失が生じやすい。
  • 社内人件費や機会コスト
    自社対応なら表面的な外注費は抑えられるが、社員が通常業務を割かれることで商談や売上機会を逸する影響もあるため、実質コストを見積もる必要がある。

5.2 品質・スピード面の考慮

  • 専門知識の有無
    自社に海外設立に長けたスタッフがいれば、ある程度スムーズに進められるが、そうでなければ初めての国で法律を理解するだけでも時間がかかり、品質を担保しにくい。
  • 対応速度
    外部コンサルは多くの場合、役所とのやり取りや書類作成に慣れており、まとめて並行処理できるためスピードアップが期待できる。ただし、依頼先によっては担当が多忙で対応が遅れがちになるリスクもある。
  • 責任所在とリスク
    委託契約で不備があった場合の責任分担を明確にできるなら安心だが、自社対応でトラブルが起きた場合はすべて自社でカバーするリスクもある。保険や保証がどうなっているか確認が必要。

6. “第二領域経営®”の活用による円滑な決定プロセス

このように、外部委託と自社対応のメリット・デメリットを俯瞰すると、どちらを選ぶかは企業の内部リソース状況、コスト許容度、事業規模、リスク許容度など多角的に考察すべきテーマです。ここで有用となるのが、One Step Beyond株式会社が提唱し、商標を所有する「第二領域経営®」というフレームワークです。法人設立における大きな意思決定は、“今すぐ売上に直結しないが将来的なリスクやコストを左右する”典型的な「第二領域」の仕事と言えます。

6.1 “第二領域会議”で最優先議題化

経営トップや幹部が週や月の“第二領域会議”で“法人設立対応の方式決定”を最優先の議題とし、第一領域(売上管理やクレーム対応)を扱わないルールを徹底すれば、後回しになりがちな比較検討を計画的に進められます。担当者が外部委託の見積もりや自社対応シミュレーションを用意し、会議で報告して意思決定する流れを作るわけです。

6.2 マニュアル化と権限委譲

また、トップが“火消し”対応に取られないように第一領域業務をマニュアル化し、日常対応を現場リーダーに委譲する仕組みが大切です。これにより、トップや幹部が“第二領域会議”でじっくり比較材料を検討し、外部コンサルとの契約条件や自社対応のリソース配分を決められます。

6.3 PDCAで随時修正

外部委託契約を結んだものの想定より費用が増えた、あるいは自社対応を進める中で思いのほか手続きが複雑だったという場合、PDCAサイクルで都度“第二領域会議”に報告し、戦略変更を速やかに合意するのが望ましい。外部追加発注やコンサル切り替えを含め、柔軟にアクションできる体制を保つわけです。


7. 次回予告:ステップ6法人設立と各種登録 ⑩「海外法人の会計年度:本社との調整と現地規制への対応」

今回は“海外進出10ステップ”ステップ6法人設立と各種登録の第9回として、「法人設立の外部委託 vs 自社対応:コストと品質の観点から」を取り上げました。国や業種による規制の多様性を踏まえ、外部委託のメリット(時間短縮・専門知識活用)とデメリット(費用・コミュニケーションロス)、自社対応のメリット(コスト節約・ノウハウ蓄積)とデメリット(工数・リスク)を比較し、自社に最適な方法を選ぶ必要があると述べました。
次回はステップ6の第10回「海外法人の会計年度:本社との調整と現地規制への対応」をテーマに、実際に法人を立ち上げた後に意外と見落とされがちな会計年度(Fiscal Year)の設定や変更、現地の会計監査要件などについて詳しく取り上げます。日本本社の決算期と合わせるべきか、それとも現地法令に従うべきかという難問について、メリット・デメリットを解説しますので、今回の内容とあわせてご確認いただければ、より総合的な法人運営の視点が得られるはずです。


8. まとめ

海外法人設立には多くの書類や手続きが伴い、誰がどのように進めるか(外部委託か自社対応か)は企業にとって大きな選択です。一般的に、外部委託は設立支援の専門家やコンサルタントのノウハウを活かすことで手続き時間を短縮し、差し戻しを最小化できる強みがある一方、費用が高くコミュニケーションロスのリスクがあり、社内にノウハウが蓄積されにくいというデメリットもあります。逆に自社対応ならコストを抑えつつノウハウを獲得できるが、リソース不足で遅れたり、規制を誤解してトラブルを招くリスクが高いという問題があります。
結局は自社のリソース(人材・時間・資金)、業界の複雑さ、リスク許容度に基づいて総合的に判断するしかありませんが、時間と労力を考えれば「外部委託すれば丸ごと安心」というわけでもないし、「自社対応が一番コストが安い」とも限らないのが難しいところです。さらに、この意思決定は“今すぐ売上を生むわけではないが長期的に事業を左右する”典型的な「第二領域」タスクなため、One Step Beyond株式会社が提唱し、商標を所有する「第二領域経営®」を用いて経営トップや幹部が日常の“火消し”から離れた場で計画的に進めることが効果的です。週や月の定例会議で外部委託の見積りや自社対応プランを比較し、PDCAを通じて状況に応じた修正を加えれば、法人設立をスムーズに終わらせやすくなるはずです。
次回(ステップ6法人設立と各種登録 ⑩「海外法人の会計年度:本社との調整と現地規制への対応」)では、法人設立後に必要となる会計年度の設定や調整にスポットを当て、各国の規制や日本本社との連結決算との兼ね合いなどを詳しく解説します。法人形態や設立方式を決定した後に訪れる会計管理の問題をクリアするためにも、合わせてご参照いただければ幸いです。

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