ステップ4資金調達⑩「投資家との交渉術:海外進出資金を有利な条件で調達するコツ」 ステップ4資金調達⑩「投資家との交渉術:海外進出資金を有利な条件で調達するコツ」

ステップ4資金調達⑩「投資家との交渉術:海外進出資金を有利な条件で調達するコツ」

ステップ4資金調達⑩「投資家との交渉術:海外進出資金を有利な条件で調達するコツ」

1. はじめに

海外進出を目指す企業にとって、資金調達は常に最大の課題の一つです。これまで「海外進出10ステップ」シリーズのステップ4では、政府系金融機関の融資やベンチャーキャピタルの活用、クラウドファンディングなどさまざまな資金調達手法を紹介してきました。しかし、最終的に企業が資金を得るためには、投資家や金融機関との「交渉」というプロセスを避けては通れません。とりわけベンチャーキャピタルや事業会社による出資など、エクイティ(株式)を含む資金調達の場面では、経営者の交渉力や事業計画の説得力が調達条件に大きく影響します。

本稿では、投資家との交渉に焦点を当て、海外進出に必要な資金をできるだけ有利な条件で確保するためのコツを解説します。投資家と企業との間には、経験値や情報量の差が存在する場合が多く、経営者側が正しい準備をしないまま交渉に臨んでしまうと、後になって不利な条件で事業を進めざるを得なくなる可能性があります。ここで大切なのは、事前に想定されるリスクやシナリオを丁寧に整理したうえで、自社の事業価値を適切にアピールしながら相手との共同のゴールを模索するという姿勢です。

本記事では、まず投資家との交渉が海外進出時にどれほど重要かを再認識し、そのうえで投資家が重視するポイントや事業計画の作り方など、実践的なステップを段階的に紹介します。そして交渉の進め方と留意点をまとめ、最後に日本企業が陥りがちなミスやリスク管理の方法にも言及します。次回の「海外進出10ステップ」シリーズでは、現地パートナーの選定に関するテーマを取り上げる予定ですので、そちらもあわせてお読みいただくことで、海外展開の全体像をさらに深く理解していただけるでしょう。

2. なぜ投資家との交渉が海外進出において重要なのか

海外展開のためには、製造拠点の新設や現地法人の設立、マーケティング費用など多額の資金が必要になります。もちろん、銀行借入や政府補助金といった方法も考えられますが、海外事業のリスクとリターンを踏まえると、エクイティ(株式)の形で投資家から資金を調達するケースが少なくありません。ベンチャーキャピタル(VC)や事業会社(CVC)、プライベートエクイティファンドなど、複数の選択肢が考えられますが、そこでは投資家との交渉が不可欠となります。

交渉では、投資家がどのような視点で事業を評価し、どの程度のリスクを許容できるかを踏まえ、自社の成長可能性や事業価値をアピールすることがポイントです。さらに、投資家からの資金を受け入れる以上、その条件(バリュエーションや株式比率、取締役会の構成、将来のエグジット戦略など)によっては、企業の経営権や意思決定のスピードに大きな影響が生じるおそれがあります。資金を得るだけでなく、企業の主体性やビジョンを維持しつつ、投資家の期待に応えられるバランスを探ることが大切です。

とりわけ海外進出時には、政治リスクや為替リスク、現地の法規制など、不確実性が高まるため、投資家の要求水準も厳しくなる傾向があります。ここで効果的に交渉を進められれば、過剰な制約や株式希薄化を回避しつつ、海外事業の立ち上げに必要なリソースを整えられるでしょう。

3. 投資家が重視するポイントと事業計画の作り方

投資家との交渉を円滑に進めるには、相手が「何を見ているか」を知っておくことが欠かせません。一般的に、投資家は以下のような項目を厳しくチェックします。

まず一つ目が海外市場の魅力と自社計画の合致度です。投資家は、その海外市場の規模や成長性、競合の状況をしっかりと把握し、参入余地があるかを見極めようとします。経営者側は、市場調査に基づいてターゲット顧客層や価格帯、販売チャンネルを詳細に示し、そこでどのように勝ち筋を作るか論理的に説明する必要があります。

二つ目に、経営チームの力量や経験が挙げられます。海外経験者がいるか、現地パートナーや専門家がサポートする体制を持っているかなど、人材面の要素が投資判断を左右する場合が多いです。投資家から見ると、どれだけ優れたビジネスプランがあっても、実行できる人材がいなければリスクが高いとみなされるからです。

三つ目に、資金繰りや財務面の戦略です。海外投資は設備費やマーケティングコストが大きくなりがちで、売上がすぐに立ち上がる保証はありません。そこで、何年後に黒字化をめざすか、キャッシュフローをどう確保するかを綿密に示し、投資家が納得できるシナリオを提示することが求められます。

最後に、エグジットプランや投資リターンについての説明です。投資家は株式売却や上場などによるリターンを狙う場合が多いため、例えば「5年後に売上○○億円、利益率○○%を達成し、M&AかIPOを視野に入れる」といった出口戦略の見通しをある程度具体化することが重要です。こうした材料が整っていれば、投資家はリスクとリターンを計算しやすくなり、交渉を前向きに進めやすくなります。

4. 交渉を有利に進める実践ステップ

投資家との交渉を有利に進めるための流れを、以下のステップで整理してみます。

はじめに、万全の準備をすることが大切です。具体的には、事業計画書や財務モデルのほか、市場調査レポートや競合分析資料を用意し、さらに海外進出先の法規制や政治リスクの情報を収集しておきます。投資家からの質問や懸念に対して、即座にデータや根拠を示せるようにしておけば、交渉の主導権を握りやすくなります。

次に、投資家との初回の打ち合わせで、「事業の全体像」と「海外進出の狙い」をコンパクトに伝えることが重要です。あまりにも詳細を詰め込みすぎると冗長になるため、最初の印象で核心を理解してもらえるように要点を押さえます。そして、相手が興味を示したら、デューデリジェンス(DD)で必要となる詳細資料を整備し、経営者やキーマンが直接説明する機会を設けるとよいでしょう。

デューデリジェンス後、投資家はタームシート(基本合意書)を提示してくる場合が多いです。ここには、投資額、株式比率、役員派遣、将来のエグジット方法などが盛り込まれます。ここからが本格的な交渉段階であり、企業側としては譲れないポイント(経営権の確保、優先株の条件など)を明確にしつつ、譲歩できる部分(投資家の議決権や取締役会構成など)をすり合わせる必要があります。

交渉では、「相手が求めるリスク・リターンを満たしながら、自社の自由度をなるべく保つ」というスタンスが求められます。株式の希薄化をどこまで許容するか、追加出資や将来のラウンド(シリーズB、Cなど)での調整が必要かといった観点も検討対象となります。特に海外事業の場合、想定外のコストやリスクが後から出てくる可能性が高いため、一定の余裕を持った資金使途計画を示せると、投資家にも安心感を与えられます。

最終的に契約に合意し、出資が実行された後も、投資家との定期的な情報交換や意思決定プロセスをどうするかが大切です。投資家が持つ海外ネットワークやノウハウを活用すれば、現地での販路開拓や人材採用などをサポートしてもらえる可能性がありますが、一方で経営の意思決定が遅くなるリスクもあります。契約書の段階でこれらを明確に定義しておくことで、後のトラブルを回避できるでしょう。

5. 日本企業が陥りがちなミスとリスク管理

海外進出の資金調達に関して投資家と交渉する際、日本企業に多い失敗事例として、以下の点が挙げられます。

まず、情報開示の不足や曖昧さが大きな問題です。海外市場のリスクや法規制について十分に調べずに「将来性が高い」とだけ強調すると、投資家から見て信頼度が下がり、結果的に厳しい条項をのまざるを得なくなる場合があります。あるいは、初回面談では好感触だったのに、後から追加情報を求められて返答に時間がかかり、その間に投資家が離れてしまうケースもあるので注意が必要です。

次に、契約段階で専門家に相談せず、自社だけで決めてしまうリスクがあります。エクイティ投資の契約書には、優先株式の配当条件や将来的な株式買い戻し義務などが書かれる場合があり、細かな条項まで理解しないまま合意すると、経営者が意図しない形で経営権や利益を失う恐れがあります。できれば経験豊富な弁護士やFA(ファイナンシャルアドバイザー)の力を借りるのが望ましいでしょう。

また、投資家とのコミュニケーションが不足していると、投資実行後に意見の相違や役員会での対立が表面化するリスクもあります。海外事業における日々の進捗や課題を共有せず、投資家が突然の報告でネガティブな状況を知らされると、関係が急激に悪化する可能性があるので、定期的な進捗報告や透明性の高い情報開示が肝要です。

6. まとめ

海外進出の成功は、製品やサービスの競争力だけでなく、資金調達の戦略と投資家との交渉術にも大きく左右されます。投資家が企業を見る視点を理解し、自社の海外事業計画を具体的かつ論理的に示すことができれば、交渉を有利に進めることが可能です。逆に安易に条件を受け入れてしまうと、将来の経営判断に制約がかかり、リターンを投資家に吸い上げられる形になりかねません。

本記事で示したように、投資家との交渉では、事業計画や財務モデルの精緻化、経営チームの信頼性、資金使途とリスクの明確化などが鍵を握ります。これらを丁寧に準備しつつ、投資家が求めるリスク・リターンのバランスに配慮して条件交渉を進めることで、企業と投資家双方が納得できる着地点を探すことができるでしょう。

次回からの「海外進出10ステップ」シリーズでは、現地パートナーの選定に焦点を当て ます。ステップ5の1回目は「理想の現地パートナー10の条件:チェックリスト付き」をテーマに解説します。海外進出でいくら投資を得ても、現地のパートナーが不適切だと事業が思うように立ち上がらないというのはよくある失敗パターンです。資金調達とパートナー選定をセットで考えることで、海外展開をより安定的かつ効果的に実行できるはずです。

「投資家との交渉術:海外進出資金を有利な条件で調達するコツ」をしっかり実践しつつ、次回はパートナー選びにも目を向けてみてください。海外展開を成功させるための総合的な視点が、きっと得られることでしょう。

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