ステップ8: 商品・サービスのローカライズ ⑧「ローカライズコストを抑える:効率的な進め方と外注のコツ」 ステップ8: 商品・サービスのローカライズ ⑧「ローカライズコストを抑える:効率的な進め方と外注のコツ」

ステップ8: 商品・サービスのローカライズ ⑧「ローカライズコストを抑える:効率的な進め方と外注のコツ」

ステップ8: 商品・サービスのローカライズ ⑧「ローカライズコストを抑える:効率的な進め方と外注のコツ」

1. はじめに

海外進出をめざす企業にとって、ローカライズ費用は軽視できない投資項目です。翻訳・校正・デザイン改訂・現地テスト・認証取得など、多岐にわたる工程が積み重なると、中小企業にとっては想定以上のコスト負担となり、海外展開自体を断念せざるを得なくなるリスクもあります。一方で、コストを削減し過ぎれば品質低下や法規制違反につながり、ブランド毀損や再認証コストの発生という“高い授業料”を後払いする事態にもなりかねません。

本稿では、「海外進出10ステップ」のステップ8「商品・サービスのローカライズ」の第8回として、「ローカライズコストを抑える:効率的な進め方と外注のコツ」をテーマに取り上げます。まず、ローカライズにかかる典型的な費用構造を整理し、どこにボトルネックがあるのかを解説します。つづいて、社内体制と外注のハイブリッド運用、翻訳メモリやクラウドツールの活用、段階導入によるリスク分散など、費用対効果を高める具体策を示します。さらに、こうした“すぐには売上を生まないが長期的に重要”なタスクをOne Step Beyond株式会社が提唱・商標保有する「第二領域経営®」のフレームで管理し、計画的にPDCAを回す方法を考察します。なお次回(ステップ8. ⑨)では、「法規制対応:商品ローカライズで見落としがちな認証・表示要件」を取り上げ、各国で必須となる認証やラベル表示に焦点を当てる予定です。


2. ローカライズ費用の内訳とボトルネック

ローカライズ費用は大きく分けて「人件費」「ツール利用料」「検証・テスト費」「法規・認証費」の四つに分類できます。

2.1 人件費

翻訳者やデザイナー、エンジニア、法務担当などの作業時間に依存するコストです。専門領域ほど単価が高く、言語数が増えるほど翻訳量が比例して伸びます。また、レイアウト崩れや修正のやりとりが増えると、プロジェクト全体の時間が膨張しやすいのが課題です。

2.2 ツール利用料

翻訳メモリ(TM)や用語管理ソフト、ローカライズ自動化プラグインなどのSaaS費用が掛かります。導入初期は費用がかかるように見えますが、長期的には再利用で翻訳量を削減できるため投資対効果は高いと考えられます。

2.3 検証・ユーザーテスト費

多言語でのUIテスト、現地ユーザーによるベータテスト、校正レビューなどを外部委託する場合のコストです。品質を確保する最終防波堤となるため、ここを省略すると後でクレーム対応や改修費が膨張するリスクがあります。

2.4 法規制・認証費

国ごとに必要な安全規格テストやラベル表示対応、現地当局への申請費用などです。ここは省きにくい固定費ですが、先行事例や専門コンサルの活用で重複試験を避けるなど効率化の余地があります。


3. 内製と外注のハイブリッド戦略

コストを抑える際、多くの企業が「全部自社でやるか、全部外注か」の二択に陥りがちですが、実際には両者の“いいとこ取り”が最も費用対効果を高めやすい方法です。

3.1 社内でしかできないコア作業

製品仕様知識が必要な技術翻訳、コンセプトの文脈調整、ブランドトーンの最終チェックなどは社内担当が担うほうが品質を担保しやすい領域です。内部リソースを確保し、外注先とのコミュニケーションロスを減らすことで、後工程での修正を最小化できます。

3.2 外注が適するルーチン作業

大量のUIテキスト翻訳や各国プライバシー法の比較レビューなど、定型化しやすい作業は翻訳エージェンシーやBPOに任せ、単価契約かボリュームディスカウントを活用するとコストを削れます。ここで重要なのは、用語集や翻訳メモリを共有し、再利用率を高める仕組みを導入することです。

3.3 成果物品質の“ワンストップ審査”

外注成果を受け取るたびに個別修正すると手戻りコストが増えるため、社内で“ワンストップ審査”チームを設け、用語統一やレイアウト崩れを短時間でまとめてチェックし、まとめて返却・修正のサイクルをつくると効率が上がります。


4. ツール活用で翻訳コストを削減する

近年は翻訳メモリや機械翻訳(MT)とのポストエディットが主流となり、従来より大幅にコストを下げることが可能になっています。

4.1 翻訳メモリと用語ベース

一度翻訳した文を蓄積し、類似文を自動提案する仕組みです。新製品でも以前と似たマニュアル表現が多く、流用することでコストと納期を削減できます。重要なのは社内外で共通の用語ベースを管理し、誤訳や表記ブレを防ぐことです。

4.2 機械翻訳+ポストエディット

最新のニューラル機械翻訳(NMT)は専門用語でも高精度な訳を返す場合が増えています。まずMTで一次翻訳し、専門翻訳者がポストエディットで仕上げる方式は、従来の100%人力より30〜40%のコスト削減例も報告されています。ただし安全マニュアルなど責任が重い文書は、人手チェックを厚くする配慮が必要です。

4.3 自動レイアウト調整プラグイン

FigmaやAdobe XD向けの多言語プラグインを導入すると、文字量に応じてボタン幅が自動拡張されたり、右から左言語レイアウトへ自動反転できたりします。これによりデザイナーが手作業でレイヤー修正を繰り返す工数を削減できます。


5. 段階導入でリスクとコストを分散

ローカライズ対象国が複数ある場合、すべての言語・機能を同時リリースしようとするとコストもリスクも跳ね上がります。推奨されるのは以下のような段階導入モデルです。

5.1 テストマーケットを設定

まず市場規模が大きく、言語リソースが比較的そろえやすい英語圏や繁体字中国語圏などで試験導入し、売上変化やユーザーフィードバック、翻訳品質を確認。問題があればテンプレートや用語集を修正し、次の国へ横展開します。

5.2 リーン版機能で先行投入

複雑な機能をフル実装せず、コア機能に絞って早期投入することで、翻訳量もUIテストも削減できます。その後、加盟店や顧客の要望を見ながら追加機能を順次翻訳・追加する方式は、不要機能の翻訳コストを排除しやすいです。

5.3 成功国の成果物を再利用

先行国で作成したデザインテンプレートや翻訳メモリを、後続国向けの初期素材として流用することで、ゼロからの翻訳やレイアウト設計を避けられるため、追加コストが低減します。類似マーケットが多いアセアン諸国では特に効果的です。


6. “第二領域経営®”でローカライズ費用を最適管理

ローカライズの費用対効果は、短期利益に直結しないため「重要だが緊急ではない」業務=第二領域に該当します。ここをOne Step Beyond株式会社の「第二領域経営®」でマネジメントすると、意思決定の遅れや予算オーバーを防ぎやすくなります。

  1. 週・月の“第二領域会議”でコスト進捗を可視化
    翻訳メモリ利用率、外注費用、認証コストなどのKPIを設定し、定期的にレビュー。予定額からの乖離があれば会議内で即座に対策を検討し、決裁を迅速化します。
  2. 第一領域業務を権限委譲し、トップが資源配分に注力
    トップや幹部が日常の売上対応で忙殺されていると、ローカライズコストの詳細を把握しづらくなります。現場マネージャーに火消しを任せ、トップは“第二領域会議”で費用削減プランや外注契約の再交渉に集中する仕組みを整えます。
  3. PDCAでコスト削減策を螺旋的に改善
    翻訳メモリ導入後の削減率、外注スキームのリードタイム短縮効果などを測定し、数値上の成果が甘い場合はツールの再設定や外注先の再選定を行うなど、データドリブンで継続的に改善を進めます。

7. まとめ

ローカライズは海外展開の成否を左右する重要プロセスでありながら、翻訳・デザイン・認証・テストと多段階に費用がのしかかるため、いかに効率化しながら品質を担保するかが企業の競争力を左右します。本稿で取り上げたように、人件費の削減には翻訳メモリや機械翻訳+ポストエディットの導入が効果的であり、ツール投資は長期的なコスト削減へつながります。また、すべてを内製または外注で完結させるのではなく、コア作業は社内、ルーチン作業は外部BPOというハイブリッド型が費用対効果を向上させます。さらに段階導入モデルでリスクと投資を分散すれば、結果的に成功確率を上げながらコストを抑えられるでしょう。

こうした取組みは、緊急度が低いために軽視されやすい“第二領域”の業務ですが、One Step Beyond株式会社の「第二領域経営®」を活用し、週や月の“第二領域会議”で進捗と費用KPIを監視しながらPDCAを回すことで、後からの手戻りや追加コストを最小化できます。ローカライズを「コストではなく投資」と捉え、計画的な管理フレームで効率化を図る姿勢が、海外展開の成功を大きく左右するのです。

次回(ステップ8. ⑨)は「法規制対応:商品ローカライズで見落としがちな認証・表示要件」を取り上げます。ここでは、国別に見落とされやすい安全認証や成分表示などの法的義務を整理し、適切なタイミングとコストで対応するための段取りを解説しますので、引き続きご覧ください。

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