スリランカにおける人材採用とチームビルディング(進出後の運営・管理編その2) スリランカにおける人材採用とチームビルディング(進出後の運営・管理編その2)

スリランカにおける人材採用とチームビルディング(進出後の運営・管理編その2)

スリランカにおける人材採用とチームビルディング(進出後の運営・管理編その2)

目次

  1. スリランカの労働市場の全体像
  2. 現地採用チャネルの活用
  3. 雇用法制度と雇用契約のポイント
  4. 現地スタッフの働き方と価値観の理解
  5. 定着率向上のための施策と職場文化づくり
  6. 管理職層の登用と育成
  7. 日本人駐在員と現地スタッフの協働
  8. One Step Beyond株式会社による採用支援と人事制度整備サポート
  9. まとめと次回予告

スリランカに進出した日本企業が現地で事業を軌道に乗せるためには、優秀な人材の採用とチームビルディングが不可欠です。本記事(進出後の運営・管理編その2)では、スリランカ現地における人材採用から組織マネジメント、人材育成までのポイントを網羅的に解説します。人口動態や労働市場の特徴から始め、効果的な採用チャネルの活用法、雇用法制の基本、現地スタッフの働き方の特徴、そして従業員の定着と職場文化づくりまでを詳しく見ていきます。また、日本人駐在員とローカルスタッフの役割分担や協働のポイント、最後にOne Step Beyond株式会社が提供する採用支援サービスについても触れ、スリランカで強いチームを築くための実践的知見を提供します。

1. スリランカの労働市場の全体像

まずはスリランカの労働市場全体の特徴を押さえておきましょう。同国は約2,200万人の人口を有しており、日本の約1/6の規模です。南アジアの中でも比較的高い教育水準と識字率を誇り、労働力人口には優秀な人材が多く含まれます。若年層の割合は総人口の中でそれほど極端に高くはありませんが、平均年齢が30代前半と比較的若く活力のある労働力を形成しています。近年の経済成長に伴い、ITやサービス業といった新興分野での雇用も拡大してきました。もっとも、2022年の経済危機時には生活苦から海外へ働きに出る労働者が過去最多(約31万人)に達したとの報告もあり】、国内の優秀な人材をつなぎとめる工夫が企業には求められます。

1.1 人口構成と若年層の割合

スリランカの人口ピラミッドは、急激な若年化こそ見られないものの、20代~30代の働き盛り世代が厚みを持つ安定した形となっています。長期的な出生率低下と平均寿命の延びにより、総人口に占める若年層(例えば15~24歳)の比率は徐々に低下していますが、一方で労働力人口の絶対数は緩やかに増加傾向にあります。つまり、経済成長を支える十分な働き手が確保できる状況にあります。また、内戦終結(2009年)後に教育環境や雇用機会が改善したこともあり、地方出身の若者が都市部で就職するケースも増えています。もっとも近年は前述のように優秀な若手人材が海外へ流出する動きも見られるため、企業側は魅力的なキャリア機会や処遇を提示して、将来を担う人材を社内に引き留める努力が必要となるでしょう。

1.2 英語力と教育水準

スリランカは南アジア随一と言われる高い教育水準を持っています。成人の識字率は約92~93%に達し、地方部も含め国民の大半が基本的な読み書き能力を有します。初等・中等教育の就学率も高く、理数系を含む幅広い教養を身につけた人材が多いことが特徴です。一部の国立大学(ペラデニア大学やモラトゥワ大学など)や私立大学からは毎年優秀な卒業生が輩出されており、特にITエンジニアや会計士、医療分野の専門職人材は国際的な評価も高い傾向にあります。さらに、スリランカでは英語がシンハラ語・タミル語と並ぶ公用語(連結語)として位置付けられており、ビジネスや高等教育の場で広く使用されています。教育課程で英語が必修とされていることから、都市部の大卒人材を中心に英語で業務遂行が可能な層が厚く存在します。こうした英語運用能力の高さは、日本企業にとって現地スタッフと本社・顧客との円滑なコミュニケーションを図る上で大きな利点となるでしょう。ただし、英語力には個人差もありますので、必要に応じて社内でビジネス英語研修を実施するなど、さらなる語学力向上を支援する取り組みも効果的です。

2. 現地採用チャネルの活用

続いて、スリランカで優秀な人材を採用するためのチャネルについて説明します。現地では日本のような新卒一括採用よりも、必要なポジションを適宜募集する中途採用が主流です。企業は即戦力となる人材を得るために、多様な採用経路を組み合わせて候補者を集めます。具体的にはオンラインの求人サイトや求人媒体、信頼できる人材紹介会社の利用、さらに大学との連携によるインターンや新卒採用などが挙げられます。それぞれのチャネルの特徴を理解し、ポジションに応じて適切に使い分けることが重要です。

2.1 求人媒体・オンラインプラットフォーム

スリランカではオンライン求人サイトが主要な採用手段として確立しています。代表的なサイトに「TopJobs」や「XpressJobs」などがあり、これらのプラットフォームには日系企業を含む多数の求人情報が掲載されています。職種や業種ごとに検索・応募が可能で、特に都市部の若者や中堅クラスの人材は日常的にこれらのサイトをチェックしています。企業側もアカウント登録して求人広告を出すことで、多数の応募者を募ることができます。また、近年ではLinkedInなど国際的なビジネスSNSを通じた採用活動も増えており、管理職クラスや専門職の採用ではソーシャルメディアでのスカウトが効果を発揮することもあります。オンライン媒体を活用する際は、求人票に求めるスキルや業務内容を明確に記載し、応募者に自社の魅力(研修制度や福利厚生など)を伝える工夫が大切です。応募のハードルを下げるために応募方法を簡潔にし、問い合わせ対応をスピーディーに行うことも、優秀な候補者を逃さないポイントとなります。

2.2 人材紹介会社とヘッドハンティング

即戦力となる人材や専門知識を持つ人材を探す場合、現地の人材紹介会社(リクルートメントエージェンシー)を利用することも有効です。コロンボには多くの人材紹介会社やヘッドハンターが存在し、IT業界や財務分野など職種に特化したエージェントも見受けられます。彼らは企業の求める人材要件をヒアリングした上で、自社のデータベースやネットワークから適した候補者を推薦してくれます。特に中間管理職以上のエグゼクティブ層の採用では、機密性確保のためにもヘッドハンター経由が望ましいケースがあります。紹介会社を利用する際は、手数料(採用人材の年収の一定割合が一般的)や契約条件を事前に確認しましょう。信頼できる紹介会社をパートナーに持つことで、企業文化にマッチした優秀な人材を効率的に採用できる可能性が高まります。

2.3 大学との連携と新卒採用

現地の大学や高等教育機関との連携も、将来の人材確保に有益なチャネルです。スリランカには国立大学や私立大学、専門学校が点在しており、ITエンジニアや会計士、マーケティング人材など多彩な分野の若者が学んでいます。優秀な学生にインターンシップの機会を提供したり、卒業前から内定を出すことで、自社に引きつけることができます。例えば大学の就職課と連絡を取り、キャリアフェア(就職説明会)に参加したり、産学連携プロジェクトを通じて学生と接点を持つと良いでしょう。また、日本語教育に力を入れている大学もあるため、日本語ができる人材を発掘するチャンスもあります。新卒採用は中途と比べ即戦力度は劣るものの、自社のカラーに染めやすく将来の幹部候補を育てる観点で重要です。若い世代にとっての魅力的な職場であることをアピールし、長期的に成長できるキャリアパスを示すことで、意欲ある学生を惹きつけましょう。

3. 雇用法制度と雇用契約のポイント

人材を採用するにあたって、現地の労働法制や雇用契約の基本を理解しておくことは極めて重要です。スリランカの労働関連法はイギリス統治時代の名残もありつつ、独自の改正や制度が組み合わさった複雑な体系となっています。代表的な法律として、商工業分野の労働条件を定める「ショップ及びオフィス従業員法」や、解雇時の補償を定めた「労働者退職(雇用終了)法(通称TEWA法)」などが挙げられます。現地で雇用契約を結ぶ際には、こうした法律の規定を踏まえて契約内容を整備しなければなりません。また、日本とは異なる慣習(例えば女性の深夜勤務制限や毎月の満月祭日〈ポーヤデー〉など)にも配慮が必要です。本節では、労働時間や賃金といった基本条件、契約書に盛り込むべき事項、さらに解雇・退職時の注意点を概説します。

3.1 労働時間・休日と法定福利

スリランカにおける法定労働時間は、原則1日8時間・週44~45時間程度とされています。週5日勤務の場合には1日9時間まで延長可能ですが、それでも週合計はおおむね45時間が上限です。6日勤務制の場合は1日あたりもう少し短く設定されます。これを超える時間外労働には割増賃金(通常賃金の1.5倍以上)を支払う義務があります。また、法定の休日・休暇制度も整備されており、毎月満月の日(ポーヤデー)を含む多くの祝祭日や年次有給休暇の最低日数が法律で保障されています。企業は従業員に対し最低限これらの休日を与える必要があります。加えて、社会保障制度として従業員積立年金基金(EPF)従業員信託基金(ETF)への加入が企業義務となっています。EPFでは一般的に企業が給与の12%、従業員が8%を拠出し、ETFでは企業がさらに給与の3%を拠出します。この制度により従業員は将来の年金資金を積み立てることができます。雇用する際は、これらの社会保険への登録手続きを怠らないよう注意しましょう。

3.2 雇用契約書に含むべき事項

現地スタッフを雇用する際には、雇用契約書(労働契約)を取り交わすことが一般的です。契約書には職務内容や勤務地、試用期間、給与額と支払方法、勤務時間と休日、有給休暇日数、福利厚生、守秘義務や競業避止条項(必要な場合)など主要な労働条件を明記します。スリランカでは法律上、口頭合意のみでも労働関係は成立し得ますが、後々のトラブル防止や双方の認識一致のため、書面で詳細を定めておくことが肝要です。特に試用期間(Probation)の長さや本採用への切り替え条件は事前に定めておくべきです。一般的に試用期間は3~6ヶ月程度とする企業が多く見られます。また、給与については基本給のほか各種手当(通勤手当、食事手当等)や業績連動ボーナスの有無も契約書に明記します。スリランカの労働者は手当や超過勤務手当を重視する傾向もありますので、契約書上で透明性をもって示しましょう。さらに、勤務規則(就業規則)を別途作成し、従業員に周知しておくことも望ましいです。就業中のルール(勤務態度、遅刻早退の扱い、懲戒処分の手続きなど)を定めた就業規則は、会社の統制と従業員の安心感双方に資するものとなります。

3.3 解雇・退職時の留意点

スリランカの労働法は従業員の解雇に関して非常に慎重な手続きを要求しています。特に20名以上を雇用する企業では、労働者の解雇には事前に政府当局(労働委員会など)の承認を得る必要があるとされ、無断・不当な解雇は法律で禁止されています。これは長年の労働者保護の思想に基づくもので、企業側は注意が必要です。日本企業として現地で人員整理を行う場合も、Termination of Employment of Workmen Act(TEWA法)に則った適切な手順を踏まなければなりません。具体的には、解雇する正当な理由(勤務成績不良、規律違反、業績悪化に伴う人員削減など)を客観的に示し、可能であれば労使間での合意退職や退職金支払いによる円満解決を図ることが推奨されます。万が一、不当解雇だと従業員に提訴された場合、労働裁判や調停に発展し、時間的・金銭的コストが大きくなる可能性があります。こうしたリスクを避けるためにも、日頃から従業員とのコミュニケーションを密にし、問題発生時には懲戒処分の前段階で是正指導を行うなど早めの対処が大切です。なお、従業員から自主的に退職の申し出があった場合でも、後日トラブルにならないよう退職願を文書で受け取る、未消化の有給休暇清算や積立金の精算を速やかに行うといった手続きを徹底しましょう。

4. 現地スタッフの働き方と価値観の理解

スリランカで日本企業が円滑に組織運営を行うには、現地スタッフの働き方の特徴や価値観を正しく理解することが欠かせません。日本とスリランカでは文化や社会背景が異なるため、ビジネス上の考え方や職場で重視するポイントにも違いが見られます。現地の従業員に長く力を発揮してもらうには、彼らのモチベーションの源泉や大切にする価値を把握し、それに沿ったマネジメントを行うことが重要です。この章では、スリランカの職場文化やコミュニケーションの傾向、そして従業員のキャリア観や職業意識について考えてみましょう。

4.1 職場文化とコミュニケーション

スリランカの多くの職場は、年齢や役職による上下関係を重んじるヒエラルキー文化が根付いています。目上の上司に対しては敬意を示し、指示に従うというスタンスが一般的で、部下が公然と上司に反論するといったことは稀です。従って、日本人駐在員が現地の部下をマネジメントする際も、フランクすぎる接し方よりは一定の威厳と公正さを保ちつつ指導する方がスムーズでしょう。ただし、単に権威的に振る舞えば良いわけではなく、部下の話に耳を傾ける度量や成果をきちんと認めて褒める姿勢が信頼獲得に繋がります。スリランカ人は一般に穏やかで温厚な国民性と言われ、職場でも直接的な対立を避け和を尊ぶ傾向があります。何か問題が起きても表立っては意見を言わず内々に不満を抱える場合もあるため、上司側から定期的に一対一の面談を設けて本音を引き出すことが有用です。コミュニケーション面では、多民族国家である背景からシンハラ語・タミル語・英語が混在する職場もありますが、共通語としての英語がビジネスでは主に用いられます。日本人側も可能な範囲で簡単なシンハラ語の挨拶などを覚えると、親近感を持ってもらいやすくなるでしょう。なお、スリランカの職場では朝の挨拶や雑談の時間(ティータイムを兼ねたブレイクなど)を大切にする雰囲気もありますので、忙しい中でも小まめなコミュニケーションを心がけることがチームの円滑化につながります。

4.2 モチベーションとキャリア意識

現地スタッフの働くモチベーションを考えるとき、まず彼らが重視するのは家族や生活の安定です。スリランカでは家族の結びつきが強く、働き手は家族を養う責任を感じています。そのため給与水準や雇用の安定性は重要な要素です。同時に、多くの人はキャリアアップ志向も持ち合わせています。一つの企業に長く勤めながらも、自身のスキルを磨き昇進していきたいという意欲が見られます。特に若い世代ほどその傾向が顕著です。企業側が現地スタッフの能力開発に投資し、研修やOJTの機会を提供すれば、本人のモチベーション向上に直結するでしょう。また、スリランカ人は自尊心を大切にするため、仕事における称賛や評価がモチベーション維持に効果的です。成果を出した社員に対して社内報で紹介したり、表彰制度を設けるなど、目に見える形で承認することが求心力を高めます。一方で、日本企業特有の暗黙知や長時間労働の文化は現地では受け入れられにくい場合もあります。スリランカの人々はワークライフバランスも重視しており、残業は必要最低限に留めたいと考える人が多数派です。宗教的行事や家族行事を優先する場面もあるでしょう。そうした価値観を尊重しつつ仕事の質や納期遵守を求めるためには、効率的な業務設計と無駄のない指示出しが欠かせません。最終的には、現地スタッフ一人ひとりが「この会社で働いて成長できている」「公正に扱われ、認められている」と感じられる環境を作ることが、長期的なエンゲージメントに繋がります。

5. 定着率向上のための施策と職場文化づくり

優秀な人材を採用した後は、いかに定着率を高めて戦力化するかが重要な課題となります。スリランカでは景気動向や海外就労への関心など様々な要因で人材の流動性が存在しますが、企業努力次第で社員のロイヤルティを向上させることは可能です。本章では、従業員に長く勤めてもらうための具体的施策と、前向きに働ける職場文化の醸成について解説します。

5.1 待遇・福利厚生とキャリア開発

まず基本となるのは、適切な待遇と福利厚生の提供です。同業他社と比べて遜色ない給与水準を維持することはもちろん、昇給やボーナスの仕組みを明確にして将来の期待が持てるようにします。インフレ率が高い時期には、年次昇給とは別に生活補助手当を支給するといった配慮も有効でしょう。また、通勤手段が限られる地域では送迎バスや通勤手当を支給するなど、社員の生活実態に合わせた福利厚生が喜ばれます。医療保険への加入支援や昼食補助、社員旅行の実施なども検討できます。加えて、キャリア開発の機会を与えることも定着率向上に直結します。具体的には、定期的な研修(業務スキル向上研修、語学研修、リーダーシップ研修など)の実施や、ジョブローテーションによる経験の幅拡大、資格取得支援制度といった取り組みです。従業員にとって、自身が成長できる環境がある会社かどうかは、長く勤めるかの判断材料となります。特に意欲的な人材ほど学習意欲が高いため、社内外の研修プログラムを充実させることが重要です。また、昇進のチャンスを公平に与える評価制度も整備しましょう。成果を上げた人がしかるべきタイミングでリーダーやマネージャーに昇格できる仕組みがあれば、社内のモチベーションを維持しやすくなります。

5.2 エンゲージメントと働きがいの醸成

物質的な待遇だけでなく、働きがい(やりがい)や会社への愛着を育むことも職場定着には欠かせません。社員のエンゲージメントを高めるための施策としては、コミュニケーション活性化や公正な人事運営が挙げられます。例えば、経営陣や日本人駐在員が現地スタッフと定期的に懇談する「ティータイムミーティング」やタウンホールミーティングを開催し、会社の方向性を共有したり意見を募ったりする取り組みは有効です。現地スタッフが自分も会社の一員であり意思決定に参与していると感じられれば、帰属意識が高まります。また、社内表彰制度の導入も効果的です。月間MVPやプロジェクト達成賞などを設け、成果を挙げたチームや個人を皆の前で称賛しましょう。表彰そのものがインセンティブになるとともに、「評価される文化」が醸成されます。さらに、オープンな企業文化を築くことも忘れてはなりません。上司が一方的に命令するだけでなく、部下が自由に意見提案できる風通しの良さや、失敗を責めずチャレンジを奨励する姿勢が、人々の創意工夫と会社への信頼感を引き出します。日本企業は品質やサービス水準の高さで評価される一方、組織が硬直的で意思決定に時間がかかると評されることもあります。現地では必要に応じて柔軟に制度や運用を見直し、ローカルの声を反映した職場環境を整える努力が大切です。例えば宗教的配慮として祈祷室を設置したり、伝統行事の際に休暇を取りやすくしたりといった小さな取り組みが、社員の会社に対する好感度を上げるでしょう。

6. 管理職層の登用と育成

事業の拡大に伴い、現地の管理職層をいかに登用し育成するかも大きなテーマとなります。進出当初は日本人駐在員が要職を兼任する場合も多いですが、長期的にはローカルのマネージャーを育て、自律的に現地運営を任せていくことが理想です。ここでは、スリランカ人管理職の育成ポイントと、効果的なリーダーシップ開発の方法について述べます。

6.1 ローカルマネージャーの育成計画

まず、自社内で将来の管理職候補となりうる人材を見極めることから始めます。勤勉で責任感があり、他の社員からの信頼も厚い中堅社員を早い段階から育成トラックに乗せましょう。例えばサブリーダーや係長といった役割を与え、小規模なチームやプロジェクトのマネジメントを経験させます。その過程で判断力や部下指導のスキルを養うのです。日本人駐在員は彼らのメンター役となり、業務の進め方や問題解決のノウハウを伝授します。同時に、定期的に目標設定とフィードバックを行い、管理職として求められる視点(例えば部門全体の最適化や他部署との調整力)を身につけさせます。スリランカ人社員の中には若くしてリーダーシップを発揮する人材も多く、適切な権限委譲によって力を発揮します。思い切って重要な会議に同席させ発言を促す、顧客折衝を任せてみるといった機会を設けると、本人の成長意欲も高まります。また、外部の研修プログラムやMBA取得支援など、社外で視野を広げる機会を提供することも検討に値します。特に管理部門や財務分野など専門知識が求められる役職には、必要に応じて資格取得や海外研修をサポートすることで、高度なスキルを持ったローカル幹部を育てることができます。

6.2 リーダーシップ研修と評価制度

ローカル管理職の質を高めるには、継続的なリーダーシップ研修も不可欠です。単発ではなく定期的に(例えば半年に一度など)管理職研修を実施し、最新のマネジメント知見やケーススタディを共有しましょう。テーマとしては、人事考課の手法、部下の動機づけ方法、コンプライアンスとハラスメント防止、プロジェクトマネジメント手法など多岐にわたります。研修は日本本社の人事担当者や外部講師を招いて行うことも効果的です。研修を通じて、各マネージャーが共通の経営理念や価値観を再確認し、相互のネットワークを築く機会にもなります。また、管理職層に対しては明確な評価指標を設け、公正な処遇を行うことが大切です。具体的なKPI(業績目標達成度、部下育成の成果、部署内の定着率など)を設定し、定量・定性両面から評価します。優秀なマネージャーには昇進や特別賞与で報いる一方、期待水準に達しない場合にはフィードバック面談を実施し改善計画を立てます。このように透明性の高い評価制度を敷くことで、社内に健全な競争意識が生まれ、管理職自身も成長を続けようという意欲を維持できます。日本企業の場合、管理職に対して長期雇用前提の温情的な運用をしがちですが、現地では能力主義・成果主義も適度に取り入れていくことで、組織全体のパフォーマンス向上が期待できます。

7. 日本人駐在員と現地スタッフの協働

日系企業の海外拠点では、日本人駐在員(あるいは出向者)と現地採用のスタッフが協働して業務を進める体制が一般的です。スリランカでも、両者がそれぞれの強みを活かし補完し合うことが、事業成功の鍵となります。しかし、異なる文化や言語を背景に持つ者同士が一緒に働く中で、誤解や摩擦が生じることも少なくありません。本節では、日本人駐在員とローカルスタッフの役割分担の考え方と、協働を円滑にするためのポイントについて述べます。

7.1 役割分担と信頼関係の構築

まず明確にしておきたいのは、駐在員と現地社員の役割分担です。一般的に、日本人駐在員は現地法人の経営管理や本社との連絡調整、品質管理や技術指導など会社の根幹や対外交渉に関わる部分を担います。一方、現地スタッフは日々の営業活動や顧客対応、社内オペレーション、ローカル従業員のマネジメントなどに強みを発揮します。例えば財務・会計面ではローカルスタッフが現地法規に沿って実務処理を担当し、最終チェックや資金計画を駐在員CFOが行う、といった形が考えられます。このようにお互いの専門性を活かしつつ、重複や権限の曖昧さを避けることが重要です。役割の線引きが不明確だと責任のなすり合いや手続きの二重化が起きかねません。着任時に組織図と職務分掌を明文化し、全員に共有しておくと良いでしょう。また、協働の前提となる信頼関係構築にも意識を向ける必要があります。日本人駐在員は専門知識や経験では優れていても、現地事情に通じたローカルスタッフの知見なくしては適切な意思決定ができません。謙虚な姿勢で現地スタッフから学ぶスタンスを示すことが大切です。同時に、現地スタッフに対しては日本企業の価値観(品質第一、納期厳守、顧客重視など)を丁寧に伝え、理解を求めます。互いに尊重し合う姿勢が見えれば、「一緒に会社を良くしていこう」という連帯感が生まれてきます。業務外でも懇親会や社員旅行などカジュアルな場で交流し、人間的な信頼を醸成することも有効です。

7.2 異文化ギャップの橋渡し

協働において避けて通れないのが、異文化ギャップへの対処です。日本人とスリランカ人では物事の進め方や時間感覚、リスクに対する考え方などに違いがあります。例えば、日本人駐在員が「報告・連絡・相談(いわゆるホウレンソウ)」を重視するのに対し、スリランカ人スタッフは自分の判断で物事を進めてしまい、途中経過を十分に共有しないことがあるかもしれません。また、会議の場でも日本人は沈黙を厭わず考える時間を取りますが、スリランカ人にとって沈黙は「理解していない」あるいは「異議がない」と受け取られることが多く、コミュニケーションのスタイルにも差異が見られます。このようなギャップを埋めるには、双方が歩み寄る姿勢を持つことが必要です。駐在員側は、自分たちの常識が通じない可能性を常に念頭に置き、説明や指示はより具体的に行います。曖昧な表現や婉曲な言い回しは誤解の元になるため避け、重要な事項は口頭と文書で二重に伝えると確実です。一方、現地スタッフには日本流の品質基準や納期意識をトレーニングによって教え込みます。例えば5S活動やホウレンソウの研修を実施し、日本式の業務管理手法を体験させるのも良いでしょう。ただし強制ではなく、なぜそれが必要なのか背景から説明することで納得感を得てもらいます。また、言語の壁も軽視できません。英語でのコミュニケーションにおいて、専門用語の多用や早口での説明は理解を阻害します。通訳やバイリンガルスタッフがいれば仲介してもらう、社内用語集を作るなど工夫してください。定期的に異文化理解のワークショップを開き、お互いの文化や習慣について学び合うことも有益です。違いを単に批判するのではなく相互に受け容れ尊重する姿勢が、チーム全体の結束をより強固にするでしょう。

8. One Step Beyond株式会社による採用支援と人事制度整備サポート

以上見てきたように、スリランカでの人材採用から組織マネジメントには多くのポイントがありますが、進出企業がそれらをすべて独力でカバーするのは容易ではありません。そこで心強い味方となるのが、海外進出支援に実績を持つコンサルティング会社の存在です。One Step Beyond株式会社(以下OSB)は、日本企業のスリランカ進出を総合的にサポートしており、人材面でも専門的な支援サービスを提供しています。

具体的には、OSBは現地の優良な人材紹介会社や求人媒体とのネットワークを活かし、人材採用プロセスの支援を行います。企業の求める人材要件の定義づけから、候補者のリストアップ、書類選考や面接日程の調整まで、一連の採用活動を現地事情に精通したスタッフがサポートします。特に初めてスリランカで採用を行う企業にとっては、信頼できる候補者に出会うまでのハードルが高いものですが、OSBの支援により効率良く有望な人材プールにアクセスできるでしょう。また、採用後の人事制度整備についてもOSBは伴走します。就業規則や雇用契約書の現地法規に則った策定、給与体系や評価制度の構築、労務コンプライアンスのチェックなど、企業内の人事・労務体制を整えるためのコンサルティングを提供しています。日本本社の方針とスリランカの慣習とのすり合わせが必要な場合も、OSBが間に立って調整を図ります。さらに必要に応じて、現地での人事業務代行(給与計算のアウトソーシング等)や労務トラブル発生時の専門家紹介など、柔軟な支援も可能です。このように、One Step Beyond株式会社は進出企業がスリランカで円滑に人材マネジメントを行えるよう包括的にバックアップしますので、不安な点があれば早めに相談し、専門家の知見を活用すると良いでしょう。

9. まとめと次回予告

スリランカにおける人材採用とチームビルディングのポイントを網羅的に見てきました。現地の労働市場は教育水準の高さと英語力に支えられた有望な人材が多い反面、経済状況によっては海外流出も起こり得ることから、優秀な人材の確保と定着は企業経営の要といえます。適切な採用チャネルを駆使して自社にフィットする人材を見極め、現地の法制度を遵守しつつ魅力的な労働条件を提示することが第一歩です。その後も、スリランカ特有の文化・価値観を理解したマネジメント、社員の成長機会と働きがいを提供する職場づくりによって、チームの結束と高いパフォーマンスを維持していくことが求められます。また、日本人駐在員とローカルスタッフの協働では、お互いの強みを活かし信頼関係を築くことが重要であり、コミュニケーション不足や文化の違いによる摩擦を丁寧に解消していく姿勢が不可欠です。これらの取り組みには時間と労力がかかりますが、現地で強固なチームが育てば事業成功の確実な礎となるでしょう。本記事の内容を参考に、スリランカ進出後の人材マネジメント戦略を検討していただければ幸いです。

次回(進出後の運営・管理編その3)では、「日本企業が直面しやすいスリランカ特有の課題と対策」をテーマに、為替リスクや物流インフラ、ビジネス慣習の違いなどスリランカビジネスにおける具体的な課題とその解決策を取り上げます。現地で事業を展開する中で浮かび上がる障壁にどう対処すべきか、実例を交えて詳しく解説しますので、ぜひ次回もご覧ください。

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