1. はじめに
グローバル化が進展する現代、企業が海外でビジネスを展開するためには、現地法人の設立や各種登録手続きが避けられない重要ステップとなります。しかし、国によって必要な書類や行政機関との折衝内容、許認可取得の難易度、外資規制の有無などが大きく異なるため、あらかじめ主要国の制度やハードルを把握していないと、想定外の時間やコストが発生して事業開始が大幅に遅れるリスクが高まります。とりわけ中小企業にとっては、国内業務(第一領域)にリソースを取られて海外進出準備が後回しになりがちな構造があるうえ、現地法人の設立は“すぐに売上を生まないが長期的には不可欠”な取り組みでもあるため、どうしても計画的に進める工夫が求められます。
そこで注目されるのが、One Step Beyond株式会社が提唱し、商標を所有する「第二領域経営®」というマネジメント手法です。これは企業が“緊急かつ重要”な日常業務に没頭していると、“緊急ではないが重要”な海外展開や法人設立準備などが後回しになりがちな構造を打破する仕組みを提供します。経営トップや幹部が定期的に「第二領域会議」を設定し、その場では売上やクレーム対応など第一領域を扱わず、海外進出や研究開発、人材育成といった将来を左右するテーマに集中して意思決定を行うのです。加えて、第一領域の業務をマニュアル化・権限委譲し、トップが突発的な火消しに呼び戻されないようにすることで、計画的な海外法人設立準備を可能にします。
今回のステップ6では、法人設立と各種登録をテーマとし、まず第1回として「国別比較:法人設立手続きの難易度ランキング」を取り上げます。特にインドネシアとスリランカは、One Step Beyond株式会社がメインでサポートする国としても注目度が高いため、両国の特徴を含め、各地域の設立難易度を概観していきます。なお、次回(ステップ6法人設立と各種登録 ②「知っておきたい!主要国の会社形態と特徴」)では、今回の比較を踏まえ、実際に設立できる会社形態(LLCや合弁会社など)についてメリット・デメリットを考察します。海外進出を真剣に検討する企業にとって、どの国でどのような形態を選べば最適なのかを判断する一助となれば幸いです。
2. 国ごとに異なる法人設立の難易度
企業が海外で事業活動を正式に行うには、現地法に基づいた法人設立や支店登記、あるいは駐在員事務所の登録など、何らかの形で拠点を確保しなければなりません。しかし国ごとに以下のような要因が大きく異なり、手続きの難易度や所要期間に影響します。
まず、法制度の整備度合いです。先進国や国際ビジネスハブとして知られる地域(例:シンガポール、香港、英国など)ではオンラインで法人登記が可能で、数日以内に手続きを完了できるケースも多く、手軽に会社を作れます。一方、発展途上国や官僚主義の強い国・地域では複数の役所や公証人との折衝が必要だったり、書類が膨大で、完了まで数か月かかることも珍しくありません。
次に、外資規制や投資許可の存在も大きなファクターです。インドやインドネシア、ベトナムなど、多くの新興国では業種によって外資出資比率が制限されていたり、投資委員会の許可が必須であったりします。この場合、事前審査や地元パートナーとの合弁スキームを組むなどの追加手続きが必要となり、難易度が上がります。政治リスクや汚職リスクが高い地域では、賄賂や非公式なロビー活動を求められる場面があり、コンプライアンス上の注意がさらに必要となります。
また、企業が現地に常駐して対応できるか、現地に信頼できるコンサルや法律事務所を確保できるかによって難易度が大きく変わります。特に言語や文化が日本と大きく異なる国では、翻訳や実務サポートが不可欠で、そこにコストを要する場合が多いでしょう。
3. 国別比較:設立難易度の大まかなランキング
以下はあくまで一般的な目安であり、実際は業種や投資額、現地の法改正のタイミングなどで変動する可能性があるため、最終的には専門家や現地当局への確認が必要です。とはいえ、大枠としてイメージを掴むために挙げてみます。
(1)容易〜やや容易とされる国・地域
- シンガポール
官民連携で外資誘致を積極化しており、オンラインの法人登記システムが整備され、数日〜1週間程度で会社を作れるといわれることも多い。英語が公用語であり、手続きマニュアルも充実している。 - 香港
中国本土とは異なる法制度を採用しており、英語対応が可能で、外資に対しても比較的オープンなビジネス環境が特徴。法人設立も短期間で完了しやすい。 - イギリス
欧州でも法人登記のオンライン化が進んでいる国の一つ。会社法が整備され、イングランド・ウェールズなど地域差はあるが、比較的手軽に設立手続きを完了できる。 - アメリカ(デラウェア州など)
州ごとに法律が異なるが、デラウェア州などは企業フレンドリーな環境を整え、世界的に有名な登記地として知られる。法人税制や訴訟リスクなど含め総合評価が必要。
(2)中〜やや難の国・地域
- タイ
基本的に手続き自体は整備されてきているものの、外資規制やBOI(投資委員会)優遇措置の取得など、業種によって追加プロセスが必要。書類はタイ語での提出が要求される場面が多く、専門家の支援が望ましい。 - ベトナム
政府が外資誘致に力を入れており、少しずつ整備は進んでいるが、地域差や業種規制が残り、書類準備が煩雑。現地当局とのやり取りに時間がかかる例があるため、短期で設立完了する国に比べれば難易度がやや高め。
(3)やや難〜難易度が高い国の例
- 中国
外商独資企業(WFOE)を設立する場合でも省や市、業種によって必要書類や審査手順が大きく異なり、時間がかかりがち。規制変更も頻繁で、ローカルパートナーやコンサルのサポートがほぼ必須。 - インド
連邦政府と州政府の二重構造に加え、官僚主義が根強く、煩雑な書類が要求される。外資規制や投資制限が業種別に設定されており、承認プロセスに予想以上の時間を要する場合がある。 - ロシア、中東の一部
政治リスクや経済制裁など外部要因が大きく、また賄賂や汚職問題、複雑な許認可制度が絡む可能性があり、透明性に欠ける場面がある。事前のリスク調査と慎重な契約設計が欠かせない。
(4)インドネシア
- インドネシア
東南アジアで市場規模が大きく成長が見込まれる一方、投資分野や業種によって外資規制リスト(Positive/Negative Investment List)が存在する。法人設立にはBKPM(投資調整庁)への登録や許認可取得が必須となるケースが多い。近年、政府がオンラインシステム(OSS: Online Single Submission)を導入して一括手続き化を図っているが、依然として書類不備や追加書類請求などで時間を要する例も。地方行政とも別途コミュニケーションが必要な場合があり、専門家の支援がほぼ必須といえる。
(5)スリランカ
- スリランカ
近年は政治・経済情勢の変動が大きく、外資企業にとって経済不安やインフレなどのリスクを考慮する必要がある。ただし、観光や農産加工など一部の業種では政府が投資誘致に積極的で、BOI(Board of Investment)からの優遇措置を受ける可能性もある。会社法は英語版も整備されつつあるが、実際の申請や書類準備では官僚的プロセスが残り、地方機関や政府庁舎への訪問を要することも多い。ローカルパートナーか信頼できるコンサルタントの助力がなければ、手続きが長期化するケースもあるとされる。
4. 法人設立難易度が高い国への対処法
前項の例示でわかるように、“難易度が高い”国=“ビジネスができない”わけではなく、進出に伴う官僚手続きやリスクをどれだけコントロールできるかが鍵となります。そこで以下のような対処法が考えられます。
- 権限委譲と“第二領域会議”の活用
経営トップが進出先の行政手続きや書類を把握するためには時間が必要ですが、第一領域(売上対応など)に追われると失敗が増えます。“第二領域経営®”による週や月ごとの定例会議を設定し、法人設立の進捗を最優先のアジェンダとすることで、トップが計画的に意思決定を行い、遅延を最小限に抑えられます。 - 専門コンサル・現地弁護士との連携
手続きの煩雑な国ではローカルの専門家を活用する方が結局は安上がりとなり、非効率を回避できます。コンサルの選定には信頼性や過去実績を確認し、汚職・不正行為に巻き込まれないようデューデリジェンスを怠らないことが重要です。 - 段階的進出でリスクを分散
いきなり大規模に法人設立や投資を行うのではなく、支店や駐在員事務所などで市場テストを行い、行政との折衝やローカル人材採用の感触をつかんでから、本格的な設立に移行する戦略です。投資額やリスクを段階的に増やせるため、手続きでのトラブルが発生しても深刻化を防げる可能性があります。 - ローカルパートナーの活用も検討
ステップ5でも述べたように、外資規制が厳しい国や、官庁対応が難しい地域ではローカル企業や有力者と合弁・提携を組むのが現実的な場合があります。もちろん合弁企業のリスクもあるため、契約や経営権の設計は慎重に行う必要がありますが、法人設立手続きをパートナーにサポートしてもらうメリットは大きいです。
5. 「第二領域経営®」を活かした法人設立手続きの進め方
実際に法人設立準備を進める際には、“第二領域経営®”が提供するフレームワークを活用することで、日常のバタバタに流されず計画的にプロジェクトを進行できます。例えば以下の流れが考えられます。
- 目標とスケジュールの設定
“第二領域会議”で海外法人設立の時期と投資額、おおまかなプロジェクト工程を確認し、誰がどの段階でどの書類を準備・提出するかを分割する。トップはその計画を公式に承認し、社内に告知する。 - 専門家の選定とデューデリジェンス
現地コンサルや法律事務所を候補から選び出し、信頼に足るかどうかデューデリジェンスを行う。可能なら複数のオフィスに見積もりを取り、料金体系やサポート範囲を比較する。この選定状況を“第二領域会議”で報告し、最終決定を行う。 - 第一領域業務の権限委譲と時間確保
海外法人設立担当者や幹部が、顧客対応など緊急業務に呼び戻されないようマニュアルを整備し、現場リーダーへの権限移譲を行う。これにより担当者が海外登記のための会議や現地調査に集中できる。 - ステップごとの進捗報告と修正
法人登記の書類を提出したり、投資許可申請を行うなど重要なマイルストーンが達成されるごとに“第二領域会議”で報告・検証し、トラブルがあれば対応策を話し合う。もし遅延が判明したら早めに追加リソースを投入して解決し、次のステップへ進む。 - 法人登記完了後の各種登録と運営開始
登記完了後も、銀行口座開設や納税者番号取得、社会保険など、続く手続きが国ごとに多い場合がある。ここでも“第二領域会議”で進捗を追い、運営がスムーズに開始できるようフォローアップする。
6. 次回予告:ステップ6法人設立と各種登録 ②「知っておきたい!主要国の会社形態と特徴」
今回のステップ6法人設立と各種登録①では、“国別比較”という観点で法人設立手続きの難易度を大まかに見てきました。設立手続きが比較的容易な国もあれば、外資規制や官僚主義が強い国では大きな苦労を伴うことがわかります。ただし、設立手続きの難易度だけが進出先を決定する要素ではなく、市場ポテンシャルや人件費、インフラなど総合的に考える必要があるのも事実です。次回のステップ6②「知っておきたい!主要国の会社形態と特徴」では、各国で一般的に選択できる会社形態(LLC、LLP、合弁会社、駐在員事務所など)やそれぞれのメリット・デメリットを掘り下げます。今回の難易度ランキングの知識と組み合わせることで、より具体的に“どの国でどの形態が自社にベストか”を検討しやすくなるはずです。
7. まとめ
海外進出において、“どの国へ行くか”と並んで重要なテーマが“どのように法人を設立し、各種登録を進めるか”です。国によってはオンライン化が進みスピーディーに完了する一方、複雑な規制や多重手続きを経なければならない国もあるため、事前調査を怠れば設立が長期化し、ビジネスチャンスを逃すリスクが高まります。中小企業ではとりわけ国内業務にリソースを奪われがちで、海外法人設立に関する準備が先延ばしになる構造が起きやすいのが実情です。
そこを補う方法として、One Step Beyond株式会社が提唱し、商標を所有する「第二領域経営®」が挙げられます。“第二領域会議”を定期的に開催し、第一領域(売上・クレーム対応)を扱わないルールのもと、海外設立プロジェクトの進捗を最優先議題として扱う仕組みを整えれば、経営トップや幹部が計画的に書類や決裁を進め、遅延やトラブルを防げる可能性が高まります。さらに現場リーダーへの権限委譲により、トップが日常業務に呼び戻されず、専門コンサルとのやり取りにも十分な時間を割ける状態を作るのが重要となるでしょう。
今回のステップ6①では、国別の設立難易度を大まかに示しましたが、最終判断では業種・投資形態・外資規制など多角的に評価する必要があります。次回、ステップ6②「知っておきたい!主要国の会社形態と特徴」では、今回の情報をさらに踏まえ、各国で選べる法人形態(LLC、合弁会社、駐在員事務所など)の特徴を深掘りする予定です。法人設立手続きのハードルを踏まえながら、自社の事業計画やリスク許容度に合った形態を検討するための基礎知識として、併せてご確認いただければと思います。