海外進出10ステップ:ステップ5現地パートナーの選定 ⑧「パートナーシップ解消時のリスクマネジメント:事前に準備すべきこと」 海外進出10ステップ:ステップ5現地パートナーの選定 ⑧「パートナーシップ解消時のリスクマネジメント:事前に準備すべきこと」

海外進出10ステップ:ステップ5現地パートナーの選定 ⑧「パートナーシップ解消時のリスクマネジメント:事前に準備すべきこと」

海外進出10ステップ:ステップ5現地パートナーの選定 ⑧「パートナーシップ解消時のリスクマネジメント:事前に準備すべきこと」

1. はじめに

海外進出において、現地パートナーの選定は事業成否を大きく左右すると言っても過言ではありません。これまでのステップ5(現地パートナーの選定)①~⑦では、パートナー候補の評価基準や契約、利益分配モデルなど、良好な協業関係を築くためのポイントを解説してきました。しかし、たとえ最初は順調にスタートしていても、ビジネス環境の変化や経営者同士の対立、あるいは市場戦略の齟齬など、さまざまな理由で「パートナーシップ解消」という事態に至る可能性は常に存在します。とくに異なる文化や法規制が絡む海外での協業では、想定外の問題から関係が悪化し、やむを得ずパートナーとの契約を終了するケースも少なくありません。

このようなときに備えて、事前にリスクマネジメントをしっかり考えておくのが極めて重要です。パートナーシップ解消は協業の失敗を意味する場合もありますが、必ずしもそうとは限りません。事業の成長ステージや戦略の変更により、パートナーとの役割分担が変わって関係を再構築する場合もあれば、出資分の買い取りやノウハウの整理といった形で円満に解消する道もあります。ただし、どのようなシナリオでも、契約時にまったく想定していなかった場合はトラブルが大きくなるリスクが高いのです。

本稿では、ステップ5現地パートナーの選定⑧として、「パートナーシップ解消時のリスクマネジメント:事前に準備すべきこと」をテーマに取り上げます。まず、パートナーシップを解消することになり得る主な理由を整理し、それがどのような問題(財務・法務・オペレーションなど)を引き起こしやすいかを考えます。次に、事前に契約書や内部体制で合意しておくべき項目を挙げ、いざ協業終了の局面が訪れたときに混乱を最小限に抑えるための具体的な対策を紹介します。海外進出の場合は現地の法律や裁判制度、労務問題など日本と異なる要素が絡むため、万全なリスクマネジメントを意識する必要があるでしょう。

なお、次回(ステップ5現地パートナーの選定 ⑨「現地政府とのコネクションを持つパートナーの見つけ方と付き合い方」)では、海外特有の“現地政府との関係”を持つパートナーの功罪や選び方・付き合い方を取り上げる予定です。パートナーシップの始まりから解消まで、海外進出での協業関係を総合的に見渡す上で役立つ観点を補完する形となるでしょう。


2. パートナーシップ解消が生じる主な理由

海外での協業パートナーシップが円滑に機能しなくなる要因はさまざまですが、大きく分けると以下のような理由が挙げられます。

  1. 経営戦略やビジョンの不一致
    当初はお互いの戦略が合致していたものの、市場の変化や経営トップの交代などによって、事業の方向性が食い違ってくるケースがあります。新規投資や製品開発の優先順位をめぐって意見が対立し、合弁会社や代理店契約を続けるメリットが見出せなくなることがあるわけです。
  2. 財務トラブルや損益の大幅な変動
    合弁会社の赤字が続き、増資を迫られる中で「これ以上リスクを取りたくない」と思うパートナーが出てくるかもしれません。逆に、利益が想定以上に出た場合でも、分配比率の不公正感から紛争が生まれる可能性もあります。これまでの記事でも指摘したように、利益分配モデルの不備が原因となることも少なくありません。
  3. コンプライアンスや法規制違反への懸念
    現地パートナーが不正取引を行っていたり、賄賂や労務問題などで法的リスクを抱えていたことが後から発覚する場合があります。日本企業としてはリスク回避のために契約解消を選択することも考えられますが、現地の法律で一方的な解消が難しく揉めることもあるわけです。
  4. トップ同士の対立や人的要因
    経営者間の関係が悪化し、感情的な対立が生じるケースも無視できません。意思決定スタイルやコミュニケーションの不一致が深刻化し、修復が困難になる場合、結果としてパートナーシップ解消に至ることがあります。
  5. 市場環境の大きな変化
    想定していた市場が縮小したり、競合の台頭で事業が成り立たなくなったりする外部要因もあります。そうなれば、互いに合弁や契約を続けるメリットがなくなり、負担を減らすために解消を選ぶというシナリオも考えられます。

いずれの理由にしても、あらかじめパートナーシップ解消時の手続きやリスクマネジメントを考慮していないと、大きな損害や混乱を招きやすいです。例えば企業資産の分割や従業員の帰属、知的財産や機密情報の取り扱いなど、解消局面で揉めやすい項目を事前に契約や社内体制でカバーしておく必要があるでしょう。


3. 解消時のリスクとその影響

パートナーシップを解消する際に直面するリスクは、多岐にわたります。その影響を十分理解しておくことが、リスクマネジメントの第一歩となります。

  1. 財務リスク
    合弁会社の解散や代理店契約の終了に伴い、投資していた資金が回収困難になったり、不動産や設備を売却する際に想定以下の金額しか得られない可能性があります。さらに、借入や保証人の問題で日本本社が負債を引き受けるケースもあり得ます。為替リスクや資金繰りへのダメージが大きい場合、母体の経営が揺らぐ事態に発展するかもしれません。
  2. 法務リスク
    契約解除における違約金や損害賠償が発生するリスクがあります。現地法が日本と異なる場合、解消したくても法的手続きが複雑で時間とコストを要するケースや、現地裁判所が予想外の判決を下す事態も考えられます。知的財産や機密情報を相手側が継続して利用するなど、契約書でカバーしていなかった項目で対立が深まることも多いです。
  3. 業務停止や顧客への影響
    パートナーとの関係が切れた直後、商品供給やサービス提供が止まってしまい、取引先や顧客に混乱が広がることも考えられます。特に現地ローカルの顧客対応をパートナーに委ねていた場合、新たな代替体制を迅速に作るのが難しく、信用失墜を招く危険があります。
  4. 人的リスク
    合弁会社や代理店で働いていた従業員の処遇も問題になります。解消後に失業者が出るため労働争議や社会的批判が起こる可能性があり、現地での評判やCSR(企業の社会的責任)の観点で悪影響が出る恐れがあります。

4. 事前に準備すべき要点:契約と内部体制

こうしたリスクを最小限に抑え、パートナーシップ解消が必須となった場合でも混乱を抑えるために、あらかじめ以下のような項目を契約や社内体制で整備しておくことが有効です。

4.1 契約書での解約条項や違約金規定

パートナーシップ解消を想定し、協業開始時点で解約条項を明記しておくのが基本です。具体的には、どのような事由(重大な契約違反、経営戦略の大幅な変更、合意による終了など)で解消できるのか、その場合の手続きと期間、違約金やペナルティの額、設備や知的財産の扱いなどを契約書に詳細に定めます。解消後の顧客継承や従業員移管、在庫処分、ロイヤルティ支払いなどについても、可能な限り合意しておくと、トラブルが大きくなるのを防げるでしょう。

4.2 資本や出資分の買い取りスキーム

合弁会社の場合、パートナー解消時にどちらかが相手の株式を買い取る形が一般的です。この際の株式評価方法や買収資金の調達先、為替レートの取り扱いなどを取り決めておくと交渉がスムーズです。価格評価は第三者評価を行うのか、合意できなかった場合は仲裁機関を利用するのかなどのルールを明記しておけば、後からの紛糾を抑えられます。小規模な共同出資でも、同様に出資金や設備投資の清算方法をあらかじめ定めておくのが望ましいです。

4.3 知的財産やノウハウの取り扱い

企業が共同で開発した技術や商標、顧客リストなどは協業解消後にどちらが継続して使用できるか、ライセンス形態や期間などを契約で定義します。無制限に相手が使えると困る場合もあれば、一方が開発コストを多く負担しているからこそ報酬やロイヤルティを徴収すべき場合もあるでしょう。この点を曖昧にしておくと、解消後に相手方が独自に競合ビジネスを展開し、日本企業の知的財産を侵害するリスクが起こり得ます。

4.4 社内体制とバックアッププラン

解消後に業務が停止しないよう、社内でのバックアップ体制を用意します。代理店契約の場合は、自社で直接顧客とやり取りできるリソースやシステムを整備しておくか、他の代理店候補をリスト化しておくなどのリスクヘッジが考えられます。合弁会社でも、技術者やキーパーソンが全員現地法人に所属する状態を放置すると、解消後にノウハウが失われる危険があります。ある程度は本社に知識移転しておくとか、代替人員を育成しておくのが有効でしょう。


5. 「第二領域経営®」を活用した解消時リスクマネジメントの運用

“パートナーシップ解消”は事前には緊急度が低く見えるかもしれませんが、いざその局面になると企業存続に関わるほど重大な影響を与える可能性があります。よって、これはまさに“緊急ではないが重要”な領域であり、One Step Beyond株式会社の「第二領域経営®」が示すフレームワークを応用することで、先延ばしを防ぎ、計画的にリスクマネジメントを整備できるわけです。

具体的には、経営トップと幹部が定期的に“第二領域会議”を開催し、その中で“パートナーシップ解消リスク対策”を検討し続ける仕組みを作ります。契約書作成や出資比率の決定時だけでなく、合弁会社や代理店契約が稼働中も四半期や半年ごとにレビューを行い、相手企業との関係がどう進捗しているか、不満やリスク要因はないかを把握し、必要があれば契約見直しやバックアッププランの具体化に乗り出す流れが考えられます。第一領域が忙しい現場では、こうした取り組みが“後でやろう”と放置されやすいので、権限委譲現場マニュアル化でトップが緊急対応に割かれる時間を減らし、この長期的課題(第二領域)に時間を投下できるようにするのが肝要です。

さらに、PDCAサイクルを回し続けることも重要です。例えば毎年の事業計画の策定時に「パートナーとの関係状況をチェックし、リスクレベルを判定し、必要があれば契約条項や出資比率の調整を検討する」というフローを定め、“第二領域会議”で報告・審議するのです。こうすることで、大きな摩擦や経営戦略の不一致が生じる前に、相手企業との話し合いで解消の可能性を検討したり、協業モデルを変える選択肢を探ったりといった柔軟対応が可能になります。


6. 次回予告:ステップ5現地パートナーの選定 ⑨「現地政府とのコネクションを持つパートナーの見つけ方と付き合い方」

パートナーシップ解消が念頭にあるリスクマネジメントを検討した一方で、海外での事業展開には現地政府との関係が大きく影響を及ぼす場合があります。次回のステップ5現地パートナーの選定⑨「現地政府とのコネクションを持つパートナーの見つけ方と付き合い方」では、海外特有の政治的要因や規制に関わる問題を踏まえ、コネクションを持つパートナーと組むメリット・デメリットや、その関係をどうマネジメントすべきかを取り上げます。パートナーの政治力が事業成長に寄与する一方、違法・不透明な慣習への巻き込まれリスクもあるため、事前の契約やリスク対策がより重要になるはずです。ぜひ合わせてご確認いただき、海外進出のパートナー戦略を総合的に把握していただければと思います。


7. まとめ

海外進出で現地パートナーを選定する際、どのように協業を円滑に進めるかが注目されがちですが、“いざ関係を解消する局面にどう備えるか”もまた極めて重大な論点です。利益分配や契約条件が当初とずれてきた場合や、経営戦略の変更、相手側の不正発覚などでパートナーシップを続けるメリットが薄れた時、円満かつスムーズに解消できる体制を事前に整備していれば、大きな混乱や損害を被らずに済む可能性が高まります。具体的には、解約条項や違約金、出資分の評価方法、従業員・顧客・知財の扱いなどを契約書に明記し、最悪のシナリオでも手順に従い精算できる形をとるのが望ましいと言えます。

しかし、こうした“パートナーシップ解消リスク”への対策は、“今すぐ売上を生むわけではないから”と後回しにされがちなのが現状です。そこで注目されるのが、One Step Beyond株式会社が提唱し、商標を所有する「第二領域経営®」です。このフレームワークでは、経営トップや幹部が週や月の定例会議(“第二領域会議”)を活用して、日常の第一領域(売上対応など)に埋没しない形で“緊急ではないが重要”な課題を継続的に審議・実行できます。パートナーとのリスクマネジメントも同様に、この会議に議題として組み込み、定期的にシナリオや条項の見直し、バックアッププランの更新などを行えば、突発的なトラブル発生時にも慌てず対応できる状態を維持しやすくなるわけです。

次回のステップ5現地パートナーの選定⑨では、「現地政府とのコネクションを持つパートナー」に着目し、そのメリット・デメリットや注意点を解説します。政治的な要因がビジネスに大きく影響を与える海外市場では、政府との関係力を持つパートナーが事業成長を牽引する一方、リスク面も大きいため、今回取り上げた“解消リスク”も含めた総合的な戦略が欠かせません。今回の内容と併せて確認することで、海外進出におけるパートナー選定をより深く理解し、最悪のシナリオにも柔軟に備える可能性が広がるはずです。

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