1. はじめに
海外進出を具体化する際、現地法人や拠点をどのように運営していくかという問題の中でも「どんな人材をどう配置するか」は極めて重要なテーマです。多くの企業が抱える典型的な課題として、「本社の駐在員を派遣して管理すべきか、それともコストを抑えるために現地採用を中心とすべきか」という選択があります。一方で、現地人材ならローカルの文化や言語、取引先のネットワークに通じるメリットがある反面、自社の方針や品質基準を浸透させるには時間がかかる場合があります。駐在員を送り込むと、本社文化をスムーズに伝えやすい一方、現地語や文化への適応に苦労するかもしれません。さらにコスト構造も大きく変わってくるため、「どちらが絶対に正解」というわけでもないのが現実です。
そこで本稿では、「海外進出10ステップ」のステップ7「人材の確保と育成」第1回として、「現地採用 vs 駐在員:人材配置の最適解を探る」をテーマに取り上げます。まずは両者の特徴を整理し、企業が直面するメリット・デメリットを体系的に解説します。次に、実際にどのような業務にどちらが向いているのか、組み合わせの最適パターンはどうなるのかを検討し、最終的に企業としてどのように判断すればよいかの視座を示します。
また、こうした人材確保の戦略は“今すぐの売上には直結しないが、現地拠点の中長期的な成否を左右する”領域と言えます。そこで、One Step Beyond株式会社が提唱し、商標を所有する「第二領域経営®」を用いることで、緊急かつ重要な日常業務(第一領域)に追われず、経営トップや幹部が週や月の“第二領域会議”で人材配置の戦略を優先議題として扱えるようになります。これによって、後回しになりがちな海外人事施策を計画的に進められるのが大きなメリットです。次回(ステップ7 ②)では、「海外子会社の組織図:立ち上げ期に必要な職種と人数」を具体的に取り上げる予定です。
2. 現地採用と駐在員、それぞれの基本的特徴
人材配置を考えるうえで、まずは「現地採用」と「駐在員」の違いを整理します。現地採用とは、外国企業の現地法人が直接現地労働市場で採用した人材を指します。一方、駐在員(expatriate)は、本社から派遣する日本人または外国籍社員が、一定期間現地拠点に赴いて業務を行う形態です。両者は、コストや業務適性、文化理解などの面で大きく違いが表れます。
3. 現地採用のメリットとデメリット
メリット
- コストが相対的に低め
多くの国で、日本人駐在員に比べて現地人材の給与水準が低い場合が多いため、人件費を抑えつつ必要スタッフを確保できる可能性があります。現地相場での報酬設定となるため、駐在手当や住宅補助などを大きく負担する必要がないのは大きなメリットです。 - ローカル文化や言語の理解
現地人材であれば、文化や慣習、商習慣、言語に精通していることが期待されるため、顧客とのやり取りや行政手続きがスムーズになります。ローカルネットワークを持っている人材を採用できれば、営業面や調達面でも有利な場合があります。 - 長期的な定着
現地人材が企業の理念やカルチャーを理解し、スキルアップしていけば長期的に会社を支え、リーダーとして成長してくれる可能性があります。駐在員は任期が決まっている場合が多いため、組織の安定性という点では現地採用に強みがあります。
デメリット
- 企業文化や品質意識の共有が難しい
異なる文化的背景を持つ現地人材に対して、本社の方針や品質基準を伝え、実行してもらうには時間や教育が必要です。初期段階では日本式の仕事観やクオリティ要求が浸透しにくいことがあります。 - スキルやマネジメント人材不足
新興国やローカル市場では、専門的スキルやマネジメント経験を持つ人材が限られており、採用競争が激化するケースがあります。思うように優秀層を確保できず、人材不足に陥る可能性も。 - 離職率の高さ
日本企業に就職するモチベーションが限定的で、給与や待遇面で他社に引き抜かれるケースが起きやすい場合もあります。キャリアアップ志向が強い優秀人材ほど、条件が良い外資やローカル大手に転職してしまうリスクが高まります。
4. 駐在員のメリットとデメリット
メリット
- 本社方針の浸透がスムーズ
駐在員は日本本社から送り出された社員であるため、企業のミッション・ビジョン、業務基準などを熟知している。現地拠点でも迷いなく本社方針を展開でき、品質管理やコンプライアンス面で強みを発揮しやすい。 - 連絡体制が円滑
駐在員がいることで、本社との連絡や意思決定が迅速になりがちです。時差を考慮しても、直接報告ラインが構築されていると意思疎通がスムーズになり、緊急時の対応も的確になります。 - 日本語や会社特有のノウハウを共有
技術面や商品知識のノウハウを現地スタッフに伝える際、駐在員が現場で指導するほうが効果的なケースが多いです。特に製造業で高度なノウハウを要する場合、駐在員が現地工場を統括すれば品質管理がしやすくなります。
デメリット
- コストが大幅に高い
駐在員には給与のほかに駐在手当、住宅補助、教育費などのサポートを負担する企業が多いため、人件費は現地採用の何倍にもなることがあります。家族帯同の場合はさらに支出が膨らむでしょう。 - 現地語や文化への適応に時間
日本人が駐在しても、現地の言語を習得し、文化や商習慣を理解するには相応の時間がかかります。コミュニケーションが円滑にならず、社員や顧客との連携に支障をきたすリスクも。 - 任期終了後の引き継ぎ問題
駐在員の任期が終わると、後任への引き継ぎが不十分なまま退任してしまい、現地拠点が混乱に陥ることがあります。駐在員が離任するたびに、情報ロスが発生するリスクを抱えています。
5. どちらを選ぶべきか:検討すべき要素
海外拠点の人材配置を考えるときは、以下の観点を総合的に考慮することが必要となります。
5.1 ビジネスモデルと求めるスキル
- 製造業など品質管理が重要な場合、本社文化を深く理解した駐在員が管理職として現地スタッフをリードするメリットが大きい。
- 一方、小売やサービスで現地の文化や言語、ネットワークがカギとなる場合、最初から現地人材を主軸に据える選択肢も有効。
5.2 事業規模と投資計画
- 大規模投資を伴うプロジェクトであれば、人件費の比重は相対的に小さくなるため、駐在員を複数派遣しても全体コストの一部にとどまるかもしれない。
- 逆に小規模進出で初期費用を最小化したいなら、駐在員派遣コストは大きな負担となり、まずは現地採用が適切という判断もあり得る。
5.3 中長期の経営方針
- 長期的に現地での自主運営を目指すなら、現地採用に力を入れ、幹部候補を育成していくメリットが高い。
- 一方、短期的にノウハウを移転して市場参入を一気に拡大する場合は、駐在員中心の体制が迅速かつ確実にコントロールできるかもしれない。
5.4 外国人就労ビザや労働許可
- 駐在員を多数派遣しようとしても、国によっては外国人の就労枠に上限がある、または1人当たりに厳しい要件を課されることがある。
- 現地採用ならビザ手続きが不要(現地国籍者なら)というメリットが大きいが、採用競争が激化している地域だとすぐには優秀人材を確保できないリスクも考慮すべき。
6. “第二領域経営®”を活かした人材配置の進め方
6.1 第二領域会議で優先議題化
人材配置の問題は“緊急ではないが極めて重要”な第二領域にあたります。ここでOne Step Beyond株式会社が提唱・商標を所有する「第二領域経営®」を導入し、定期的な“第二領域会議”を開催し、駐在員派遣と現地採用の最適バランスを検討する機会を設けることが有効です。日常の売上対応やクレームなどに終始せず、人材戦略に注力できる時間を確保すれば、後手に回らず意思決定を進められます。
6.2 権限委譲でトップが現地人材戦略に集中
トップや幹部が“火消し”対応に呼び戻されないよう、第一領域をマニュアル化・標準化して現場リーダーに権限委譲します。こうすることで、経営者が人材配置モデル(駐在員何名・現地採用何名など)や採用計画、育成方針を戦略的に検討しやすくなります。
6.3 PDCAによる継続的調整
一度決めた“駐在員○人、現地採用○人”という体制も、事業拡大や市場環境の変化で最適解が変わる可能性があります。週や月の“第二領域会議”で現地拠点の状況を報告し合い、必要なら駐在員を追加派遣するとか、逆に任期を短縮するとか、現地採用を増やすなどを柔軟に合意できる仕組みが望ましい。
7. まとめ
海外進出における人材配置、特に「現地採用 vs 駐在員」の選択は、企業が考える成長戦略や初期投資、文化・言語適応など多くの要素が絡むため、一概にどちらが正解とは言い切れません。現地採用はコストを抑えつつローカルのネットワークと文化理解を活用できる一方、品質管理や企業文化浸透には時間がかかります。駐在員派遣は本社文化を即時に現地へ移転でき、管理がしやすい反面、人件費が高く、任期が終わるたびに引き継ぎ問題が生じやすいというデメリットがあります。
この判断を中途半端な検討で済ませてしまうと、後から“現地スタッフを増やしたいがノウハウが不足している”とか“駐在員派遣に予想以上の費用がかかって業績を圧迫している”などのトラブルに直面しがちです。ここで有効なのが、One Step Beyond株式会社が提唱し、商標を所有する「第二領域経営®」です。企業が日常の“緊急かつ重要”業務に追われて人材戦略を後回しにするのを防ぎ、経営トップが週や月の“第二領域会議”で最優先議題として海外拠点の人材配置を検討すれば、計画的かつ柔軟に最適な人材バランスを模索できます。
次回(ステップ7人材の確保と育成 ②「海外子会社の組織図:立ち上げ期に必要な職種と人数」)では、実際に現地拠点の立ち上げに必要な組織図をどう描き、人事配置をどう決めるかを詳細に解説します。今回の駐在員か現地採用かの議論とあわせて把握いただければ、具体的な人材計画をよりクリアに描けるはずです。