海外進出10ステップ:ステップ7人材の確保と育成 ⑩「海外子会社における日本的経営の導入:成功のポイントと注意点」 海外進出10ステップ:ステップ7人材の確保と育成 ⑩「海外子会社における日本的経営の導入:成功のポイントと注意点」

海外進出10ステップ:ステップ7人材の確保と育成 ⑩「海外子会社における日本的経営の導入:成功のポイントと注意点」

1. はじめに

海外進出を果たした企業が、現地子会社をどのように運営していくかという問題には、多くのアプローチが存在します。完全にローカル流に染めることもできますし、逆に日本式の経営手法をそのまま持ち込む方法もあります。実際、海外の工場やオフィスにおいて日本特有の5Sやカイゼン、ホウレンソウ(報連相)などの概念を導入し、生産性や品質を大幅に向上させた事例が散見されます。しかし一方で、「日本的経営が文化的に合わなかった」「トップダウンの指示が理解されず衝突を招いた」という失敗談も聞かれ、どうやら一筋縄ではいかないようです。

本稿では、「海外進出10ステップ」のステップ7「人材の確保と育成」の最終回(第10回)として、「海外子会社における日本的経営の導入:成功のポイントと注意点」をテーマに取り上げます。まず、日本で発展してきた経営手法(5S、カイゼン、QCサークルなど)を海外に持ち込むときに得られるメリットや成功例を文章で解説し、続いて導入を阻む可能性のある文化的ギャップや社員の反発リスクなどの注意点を整理します。さらに、こうした取り組みを一時的なキャンペーンで終わらせず、本当に現地組織に根付かせるためにはどのようなステップが必要かを具体的に考えながら、One Step Beyond株式会社が提唱し、商標を所有する「第二領域経営®」の活用方法も紹介します。なお、次回(ステップ8 商品・サービスのローカライズ ①「ローカライズの基本:翻訳だけじゃない、真の現地化とは」)では、商品の仕様やサービスの提供方法をいかに現地市場に合わせるかというテーマへ移ります。


2. なぜ日本的経営手法を海外で導入しようとするのか

海外に拠点を構えた日本企業が、自国の経営スタイルやノウハウを現地に持ち込もうと考えるのには、いくつかの理由があります。

  1. 品質と生産性の向上
    日本の製造現場では5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)やカイゼン活動が徹底され、高品質・高効率を実現してきた歴史があります。海外工場でもこの方式を導入すれば、無駄が削減され歩留まりが向上する可能性が高いと考えられるのです。
  2. チームワークと現場力の活用
    日本企業が強みとしてきた「現場主導の改善」やQCサークルなどの活動は、社員が自主的に問題を発見し、協力して解決を図るカルチャーを育てます。海外スタッフにもその良さが伝われば、経営陣の指示を待たず、自発的に生産性アップやコスト削減を進めるようになるかもしれません。
  3. 企業文化の一貫性
    多国籍企業として展開していくうえで、本社と海外子会社が全く別の文化・仕組みで運営されると社内の連携や人事異動がスムーズに進まないリスクがあります。日本的経営要素を一定程度共通化できれば、社員が異動しても業務の進め方が共通理解できるため、組織全体の一体感や効率が向上するかもしれません。

3. 日本的経営を導入する際の成功例と効果

実際に日本的経営手法を取り入れて成果を上げた企業事例を見ると、以下のようなメリットが報告されています。これは一例であり、業種や国によって変動はあるものの、一定の参考になるでしょう。

3.1 5S導入による工場効率改善

インドネシアやベトナムの工場で、5S活動を徹底することで在庫や部品の置き場所が明確化され、ロスが減り、作業者の安全性や品質も向上したケースが多々あります。現場のモノ探し時間が削減され、生産リードタイムが短縮されるだけでなく、従業員の意識改革やチームワークの醸成につながるメリットが報告されています。

3.2 カイゼン活動によるコスト削減

いわゆるカイゼン活動(小集団活動)を海外子会社に導入し、各部署が自主的に問題点を洗い出して改善案を実行する流れを作ったところ、年間で数千万〜数億円規模のコスト削減を実現した例があります。社員が「自分たちの仕事を良くするのは自分たちだ」という責任感を持ちやすく、組織の活性化を促す相乗効果も期待できます。

3.3 QCサークルや報連相でコミュニケーション活性

日本式のQCサークルやホウレンソウ(報告・連絡・相談)を外国人スタッフに教えた結果、上司への定期報告やトラブルの早期共有が徹底され、重大不良やクレームが減ったケースも報告されています。これは言語や文化が違っても、きちんと仕組みを決めて定期的にミーティングやサークル活動を行えば異文化メンバーでも機能する可能性があることを示唆しています。むしろ現地社員から「日本企業のコミュニケーションは緻密で助かる」と評価される場面もあるようです。


4. 日本的経営を海外導入する際の注意点

一方で、こうした成功事例がある一方、実際には日本式のやり方が現地文化や労働慣行と衝突し、うまく定着しない事例も数多く存在します。以下では主な注意点を挙げます。

4.1 文化・宗教的背景への配慮不足

インドネシアやマレーシアなどイスラム教徒が多い国では、礼拝時間やラマダンの習慣を考慮しない日本式スケジュールを押し付けると、現地社員が不満やストレスを抱える恐れがあります。また、報連相を通じて密なコミュニケーションを求めるにしても、現地社員が「上司に頻繁に報告するのは失礼」と感じる文化の場合、うまくいかない可能性が高いです。こうした文化的背景を理解し、適宜ローカライズする配慮が必要です。

4.2 強権的なトップダウンの押し付け

「日本のやり方が正しいんだから従ってほしい」という一方的な態度で現地子会社に導入しようとすると、スタッフが「自分たちの意見が無視されている」と感じて拒否感を示すことがあります。本来、カイゼン活動などは下からの意欲を引き出す仕組みなのに、上から押し付けられれば逆効果となってしまうわけです。現場を尊重し、彼らが主体的に参加できる制度設計やステップが欠かせません。

4.3 コミュニケーション不足による誤解

日本的経営は暗黙知や根回し、当たり前とされるルールが多いのが特徴です。しかし海外スタッフにはそれが伝わりにくく、「なぜこうしないといけないのか」「どうすれば評価されるのか」など不透明感が残るとやる気が削がれます。導入時には、なぜ5Sが必要なのか、ホウレンソウをなぜ重視するのかなど、目的とメリットを丁寧に説明し、マニュアルや手順をわかりやすく文書化することが望ましいでしょう。

4.4 日本人駐在員のリーダーシップ不足

日本的経営を進めるには、それを理解し導くリーダーが現地に必要です。ところが、日本から派遣された駐在員が文化適応に苦戦したり、現地スタッフの信頼を得られずに孤立する場合、いくら仕組みを整えても実行が滞ります。日本人リーダー自身が異文化コミュニケーション力や現地言語・文化への理解を深める努力を怠ると、トップの意向がうまく伝わらず「うちの上司は押し付けばかり」となってしまい、失敗につながるリスクが高まります。


5. 成功のための導入ステップ

こうした課題を踏まえ、海外子会社で日本的経営をソフトランディングさせるにはどのようなステップが必要でしょうか。以下はあくまで一例ですが、多くの成功企業の事例を参考にまとめた流れです。

5.1 現地スタッフとの事前対話と賛同形成

まずは導入を決定する前に、現地子会社の管理職やキーパーソンと話し合い、「日本にはこういう方法があって、あなたたちにもメリットがある」という情報提供を行い、意見を聞きます。押し付けではなく、現地スタッフから「試してみたい」「改善したい」という主体性を引き出すことが大切です。ここでトップダウンだけで決めてしまうと、現地側の納得感が得られず形骸化しやすいと言えます。

5.2 パイロットプロジェクトから始める

いきなり子会社全体に導入するのではなく、一部部署や製造ラインで試験的に5Sやカイゼンを実施し、結果がどう改善されたかを可視化します。成功例が出れば周囲にも波及しやすく、スタッフが「実際に成果が出たんだ」と認識して自発的に広めてくれる効果が期待できます。もしパイロットでトラブルが起きれば早期に問題を把握し、ローカライズの方向性を検討する余地が生まれます。

5.3 現地リーダーの育成とメンター制度

導入を円滑に進めるには、現地スタッフの中からリーダーを指名または発掘して、彼らが日本式のノウハウを理解し周囲を指導できるよう育成することが必要です。たとえばリーダー候補を日本本社に招き、現場研修やロールプレイなどを行い、帰国後に社内トレーナーとして活躍してもらう形がよくあります。日本人駐在員が常時リードするのではなく、現地リーダーが主体的に運営を進められる状態になれば、定着しやすくなると言えます。

5.4 評価指標や報酬との連動

5Sやカイゼンを導入しても、従業員が「やっても給料は変わらないし面倒」と感じるなら熱心に取り組まない可能性が高いです。そこで、カイゼン活動で成果を上げたチームにボーナスや表彰制度を用意し、明確なインセンティブを設定する企業が多々あります。一方、あまり金銭的報酬に偏りすぎず、表彰や昇格要件に組み込むなど多面的に評価するとより効果的です。

5.5 継続的フォローとPDCA

日本的経営は一度導入して終わりではなく、継続的に活動を行い、定期的に成果をチェックし、問題があれば修正していくことが本質です。QCサークルの定例会や5S監査などを活用し、社員が自発的に「次に何を改善するか」を議論する場を守っていく運用が大事になります。トップや幹部が興味を失うと下にも伝わるので、経営陣は定期的に活動報告を受け、インプットや励ましを行うと良いでしょう。


6. 「第二領域経営®」を使った計画的導入

日本的経営を海外子会社に根付かせるには時間がかかり、現地スタッフが慣れるまで何度も試行錯誤が必要です。しかもこれは「すぐに売上増につながる」というより、中長期的に見て組織力や品質競争力を上げる取り組みと捉えられます。そこでOne Step Beyond株式会社が提唱し、商標を所有する「第二領域経営®」を活用するメリットが際立ちます。

  1. 週や月の“第二領域会議”で議題化
    日本的経営の導入状況やカイゼン活動の進捗を、売上報告など第一領域の話題とは切り離し、最優先議題として毎回取り上げる。これにより、導入が中途半端にならず、問題点を迅速に把握し改善策を合意できる。
  2. 第一領域の業務をマニュアル化・権限委譲
    経営トップや幹部が日常のクレーム対応や細部の売上管理に追われると、こうした中長期的施策は後回しになりがち。権限委譲を進め、“火消し”に呼び戻されないようにすることで、トップが日本的経営の導入をしっかり支援できる状態を作る。
  3. PDCAサイクルの継続
    例えば5Sの進捗やカイゼン提案数、スタッフの反応などを毎月の会議で報告し合い、足りないリソース(人材や予算)があれば追加投入を検討する。また、現地リーダーとオンライン会議を行い課題を共有するなど、トップダウンではなく双方向の視点で改善を回していく。

7. 次回予告:ステップ8. 商品・サービスのローカライズ ①「ローカライズの基本:翻訳だけじゃない、真の現地化とは」

今回は、「海外子会社における日本的経営の導入:成功のポイントと注意点」をテーマに、5Sやカイゼン、ホウレンソウなど日本特有の経営手法をどう海外で導入し、組織全体のパフォーマンスを上げるかを解説しました。日本的経営には品質向上やチームワーク強化といった大きなメリットがある一方、文化的ギャップやコミュニケーション不足、現地リーダー育成の欠如などによる失敗事例も存在します。そのため、丁寧な説明とローカル人材の巻き込み、そして経営トップが“第二領域経営®”でPDCAを回す意識が不可欠と言えるでしょう。

次回からはステップ8「商品・サービスのローカライズ」に移り、第1回として「ローカライズの基本:翻訳だけじゃない、真の現地化とは」をテーマに取り上げます。海外市場に合わせて製品・サービスをどのようにカスタマイズし、言語面や文化面でのギャップを埋めるかという具体的な課題を詳しく扱いますので、引き続きご期待ください。


8. まとめ

海外子会社で日本的経営を導入することは、多くの企業にとって魅力的な選択肢ですが、闇雲に押し付けると現地文化との衝突が起きたり、スタッフに形ばかりの取り組みと受け止められ形骸化する危険があります。成功のカギは、まず現地スタッフとの対話を重視し、少人数のパイロットプロジェクトから初めて結果を示し、ローカルリーダーを育成しながら段階的に拡大するプロセスにあると言えます。

また、企業としては「すぐに売上を作るわけではないが、中長期の組織力強化に必須」という視点で、One Step Beyond株式会社が提唱し、商標を所有する「第二領域経営®」の枠組みを使い、週や月の定例会議で日本的経営導入の進捗を最優先議題として扱えば、PDCAが滞らず施策が定着しやすいでしょう。次回(ステップ8. ①)では、海外市場への製品・サービスローカライズに焦点を移し、翻訳だけにとどまらない真の現地化とは何かを考察していきます。これまでの人材育成・組織文化づくりの視点とも絡めながら、海外進出での競争力を高めるうえで不可欠なテーマを掘り下げます。

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