ステップ8:商品・サービスのローカライズ ⑨ 「法規制対応:商品ローカライズで見落としがちな認証・表示要件」 ステップ8:商品・サービスのローカライズ ⑨ 「法規制対応:商品ローカライズで見落としがちな認証・表示要件」

ステップ8:商品・サービスのローカライズ ⑨ 「法規制対応:商品ローカライズで見落としがちな認証・表示要件」

ステップ8:商品・サービスのローカライズ ⑨ 「法規制対応:商品ローカライズで見落としがちな認証・表示要件」

1. はじめに

海外市場へ商品やサービスを投入するプロセスの最終段階では、多くの企業が「翻訳も終わったし、現地向けデザインも整えた。これで準備完了だ」と感じがちです。しかし実際には、各国・各地域の認証取得表示要件を適切に満たしていなければ、製品は税関で差し止められ、販売開始どころか倉庫に積み上がったままになるリスクがあります。しかもこの領域は、担当者が理解しづらい法令条文や技術基準、頻繁に改訂される運用ガイドラインが複雑に入り組むため、つい後回しになりがちです。そしていざ輸出直前や現地当局の監査段階で不備が発覚すると、再試験やリラベル、最悪の場合は製品回収という深刻な損失が発生します。

本稿では、「海外進出10ステップ」シリーズのローカライズ工程(ステップ8)の第9回として、法規制対応において特に見落とされやすい認証手続きと表示要件を網羅的に解説します。まず、企業が陥りやすい誤解と実際に起こりやすいトラブルを概観し、その後、欧州・北米・中国・ASEAN を中心に代表的な規格や表示ルールを具体的に説明します。さらに、複雑な法規制に対して費用と時間を最小限に抑えつつ確実に適合させるプロジェクト設計のポイントを取り上げたうえで、One Step Beyond 株式会社が提唱し商標を保有する「第二領域経営®」のフレームワークを活用し、法規制業務を計画的に管理する方法を提示します。読了後には、認証・表示対応を「緊急ではないが重要」な経営課題として再定義し、中長期でリスクを最小化する視点を持っていただけるはずです。


2. 法規制対応の重要性と陥りやすい誤解

企業が商品ローカライズを進める際、「法規制は外部コンサルがやってくれる」「業界標準品だから問題ないだろう」「以前輸出したときに取得済みなので今回も大丈夫」の三つの思い込みが典型的な落とし穴となります。外部コンサルに依頼しても、最終責任は輸出者や輸入者である企業側が負うため、細部を理解せずに任せきりにすると不備を見逃したまま通関で止められるケースが後を絶ちません。また、同一カテゴリーでも製品の電圧や材質、用途が変わると適用される法令が変わる場合があり、「似たような製品だから」という油断が大規模なリワークを招きます。さらに近年は環境関連規制の改訂スピードが速く、EU の RoHS 指令は数年おきに対象物質が追加され、中国の CCC、米国の UL も試験方法やレポート様式が更新されるため、「以前取得したから安心」と考える姿勢が危険なのです。


3. 各地域で要求される主な認証と留意点

3.1 欧州連合(EU)

EU 域内で流通する多くの製品は CE マーキングを取得し、技術文書(Technical Documentation)を整えたうえで「適合宣言書(DoC)」を英語または現地語で保管する義務があります。自己宣言で取得できるカテゴリーもありますが、電気機器、安全玩具、医療機器などは認定機関(Notified Body)による試験が必須となる場合があります。さらに、電子電気製品であれば有害物質制限の RoHS だけでなく、化学物質登録・届出を求める REACH にも留意する必要があります。RoHS は鉛・水銀など10物質の制限含有量を守るだけで良いと誤解されがちですが、型式変更や部品変更ごとに過去の試験レポートが流用できるかを見極めなければなりません。環境関連では WEEE(廃電気電子機器指令)の責任者登録やリサイクル費用前払制度も国ごとに運用差があるため要注意です。

3.2 北米(米国・カナダ)

米国では安全規格 UL、電波関連の FCC、医療・食品領域の FDA が代表的です。UL 認証は州レベルでの強制力はありませんが、大手販売店や政府調達では UL 登録が実質的な参入条件になっています。FCC は無線機器だけでなく Wi‑Fi や Bluetooth を搭載するすべての電子機器が対象で、測定レポートのフォーマット変更が数年ごとに行われます。FDA は化粧品や一般食品サプリメントでも製造施設登録を義務づけるなど、対象範囲が拡大傾向にあり、毎年の更新作業を怠ると輸入が止められます。カナダは英仏併記ラベルが義務づけられるため、パッケージ印刷を日本→米国→カナダと共通化しようとすると、カナダ向けだけ別刷りが必要になり、コストと在庫が複雑化することが多いです。

3.3 中国

中国の CCC(China Compulsory Certification)は対象品目が家電・玩具・IT機器から自動車部品まで拡大しており、近年は新エネルギー車のバッテリーパックも対象に加わりました。証書を取得しても、製品本体へのレーザー刻印またはエンボス加工など、物理的にマークを付ける方式を求められるカテゴリーがあり、ラベル貼付だけで済むと思い込んでいると税関で差し戻されるケースが多数報告されています。さらに、新規輸出企業は「中国代理人」を指定しなければならず、代理人の印鑑漏れや登記事項変更を失念していると、販売後に証明が無効となる危険もあります。

3.4 ASEAN

ASEAN 域内は共通市場を標榜していますが、実態は国別規制の集合体です。例えばマレーシアの SIRIM、台湾(厳密には非 ASEAN)の BSMI、シンガポールの IMDA など、各国が独自の試験所とマークを運用しています。2016 年に発足した ASEAN Cosmetic Directive もラベル表示ガイドラインは共通ながら、漢方素材のローカル名併記を義務づける国と義務付けない国が混在するなど、落とし穴が多いのが特徴です。さらにハラール認証は国営・民間複数スキームが乱立しており、イスラム教徒比率が高いマレーシアやインドネシアでは輸入時にハラール・ロゴの位置やサイズを理由にリラベルを命じられることが珍しくありません。


4. 表示・ラベル要件で起こりやすい違反と対策

製品の表示要件は翻訳チームが担当しがちですが、単なる言語変換の域を超え、フォントサイズ、ピクトグラム、色彩比率、成分・原産地の書式など、レイアウト要素と法規制が細かく絡み合います。たとえば EU の食品表示では、アレルゲンを「ボールド体」で強調する規定があり、フォントサイズが一定以下だと違反と判定されます。日本語フォントを欧文に置き換える際、フォントの太さや行送りが変化し、結果的に強調表記が目立たなくなるトラブルも発生しています。米国の成分表示は descending order(多い順)で記載するルールがあり、海外向けレシピを開示したくない日本企業が意図的に順序を入れ替えると、虚偽表示で訴訟対象となるリスクがあります。

対策としては、まずデザインデータの段階で法規ラベルを“別レイヤー”化し、各国バージョンをリンクで差し替えられるように管理することが有効です。また、クラウド上で版管理を行い、マーケティング部門や法務部門が並行レビューできる仕組みを導入すれば、印刷前に複数部門のチェックを通して誤記・漏れを防げます。さらに、印刷会社任せにせず、校正刷り段階で SKU ごとのフォントサイズとレイアウトを測定ツールで検証する社内ルールを作ると、リラベルや再印刷の損失を劇的に減らせます。


5. コンプライアンス対応を効率化するプロジェクト設計

法規制対応は、製品開発・ローカライズプロジェクトの「末端工程」で検査待ちのように扱われると、認証取得の遅延が発売延期に直結します。そこで最初に“法規制ガントチャート”を作成し、調達・生産・マーケティングと並行して認証プロセスを走らせる必要があります。実務上は次の三段階で進めると効率的です。

  1. 企画段階での規格要件ロードマップ化
    製品仕様書を策定するタイミングで、ターゲット国ごとの必須認証と書類要件を整理し、「断熱材を変えたら防火試験が再実施」「プラ触媒変更で RoHS 再報告」など要素変更に影響する再試験条件を一覧化します。これにより設計変更を検討する際に、追加試験費用をリアルタイムで把握できます。
  2. 並行試験と“マスターサンプル”方式
    複数国で類似の安全試験が必要な場合、共通項目は同一試験レポートを流用できるよう、試験所と交渉してテスト仕様を統一し、一度の試験で複数証書を取得する「マスターサンプル」方式を採用します。これにより試験回数とサンプル数を削減できます。
  3. リリース後のバージョン管理プロセス
    法改正や製品改良でラベルや認証書を更新する際、旧版が市場に混在するとリコール対象の特定が困難になります。ラベル台帳をクラウドで一元管理し、SKU‐LOT 単位で“有効版”を識別できる運用を固めれば、改訂時の再校正範囲を迅速に限定できます。

6. 「第二領域経営®」で中長期にリスクを最小化

認証書の期限切れや法改正の追随漏れは、一見緊急度が低い“第二領域”業務ですが、事後対応は甚大なコストを引き起こします。One Step Beyond 株式会社の「第二領域経営®」では、こうした長期的リスクを“週次・月次の第二領域会議”でモニタリングし、KPI 化することを推奨しています。たとえば以下の指標を設定し、経営幹部と各部門リーダーが定例レビューを行うと、担当者依存を脱しやすくなります。

  • 認証更新予定リストの“期限60 日前対応完了率”
  • ラベル校正の“誤記ゼロ更新連続月数”
  • 法改正アラートの“初動対応日数”
  • 罰則・差し止め件数“ゼロ日数”

さらに、第一領域業務(日々の出荷やトラブル対応)は SOP に落とし込み、現場マネージャーへ権限委譲しておくことで、幹部がリスクマネジメントに集中できる環境を整えます。こうして“緊急ではないが重要”な法規制業務を、組織的に継続改善するサイクルを構築することが、海外市場でのブランド価値を守る最短ルートと言えるでしょう。


7. まとめ

商品・サービスのローカライズを完了させるには、翻訳やデザインを超えて、各国の認証取得・表示要件を満たす法規制対応が不可欠であることを再確認していただけたでしょうか。欧州の CE/RoHS/REACH、米国の UL/FCC、アジアの CCC やハラールなど、似ているようで細部が異なる規格・運用が待ち受けています。これらを後手で処理すると、通関差し止めや販売禁止、罰金、納期遅延に伴う信用失墜といった、金銭だけでは回収し切れない損失が発生します。だからこそ、企画フェーズから規格ロードマップを作成し、試験を並行化し、ドキュメントやラベルの版数を一元管理する仕組みを整え、常に法改正をウォッチする体制を維持する必要があります。

そして、その体制を機能させ続ける鍵が、「第二領域経営®」の視点です。売上やトラブル対応といった“第一領域”の背後で、長期リスクを管理し続ける“第二領域”を経営レベルで定例化することで、担当者任せにせず、組織として法規制対応を継続的にアップデートできます。海外展開で成功している企業の多くは、KPI として「違反ゼロ」「改訂追随率100%」を掲げ、経営トップが数値管理を行っています。読者の皆さまも、自社のローカライズ計画書に「法規制KPI」の章を追加し、“緊急ではないが重要”な作業を日々可視化するところから着手してみてはいかがでしょうか。

海外進出のご相談はOne Step Beyond株式会社へ


次回予告

ステップ8:商品・サービスのローカライズ ⑩
「グローバル化とローカライズのバランス:統一ブランドの維持と現地適応」

次回は、国ごとに調整を深めるほどブランド一貫性が失われるジレンマをどう乗り越えるかを、多国籍企業の成功・失敗ケースに学びながら解説します。統一ブランドを守りつつ、現地顧客の心をつかむローカライズ戦略にご期待ください。

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