海外進出10ステップ:ステップ7人材の確保と育成 ⑦「現地スタッフのモチベーション管理:金銭以外のインセンティブ」 海外進出10ステップ:ステップ7人材の確保と育成 ⑦「現地スタッフのモチベーション管理:金銭以外のインセンティブ」

海外進出10ステップ:ステップ7人材の確保と育成 ⑦「現地スタッフのモチベーション管理:金銭以外のインセンティブ」

海外進出10ステップ:ステップ7人材の確保と育成 ⑦「現地スタッフのモチベーション管理:金銭以外のインセンティブ」

1. はじめに

海外子会社や拠点を運営する際、現地スタッフのモチベーションをいかに高め、長期的に維持するかは極めて重要な課題です。日本企業は給与やボーナスなど金銭的な報酬を用意していても、想定ほど成果が上がらなかったり、離職率の高さに悩んだりする事例が少なくありません。現地人材のやる気を高める要因は必ずしも給与だけに限られず、むしろキャリアアップ機会や家族への配慮、組織のビジョン共感など多面的な要素が絡み合うため、金銭以外のインセンティブを上手に設計できるかが鍵となるのです。

本稿では、「海外進出10ステップ」のステップ7「人材の確保と育成」の第7回として、「現地スタッフのモチベーション管理:金銭以外のインセンティブ」をテーマに取り上げます。まずはなぜ金銭だけでモチベーションを維持するのが難しいのかを整理し、続いて現地スタッフが重視する可能性のある非金銭的要素を文章中心に解説していきます。さらに、それらの施策をどのように導入し、PDCAを回して成果を最大化するかを検討しながら、One Step Beyond株式会社が提唱し、商標を所有する「第二領域経営®」を活用するメリットについても触れます。なお、次回(ステップ7 ⑧「本社と海外子会社の人事交流:グローバル人材育成の秘訣」)では、本社と海外子会社の間で人事異動や研修交流を行い、グローバル人材を育てる方法を具体的に取り上げる予定です。


2. なぜ金銭報酬だけでは足りないのか

海外拠点で働くスタッフ、とりわけインドネシアやベトナム、スリランカといったアジア新興国の人材は、給与水準が低いケースが多く、日本企業が比較的良い給与を出せば優秀な人材を確保できると思われがちです。しかし、給与を上回る提案を他社が行うと離職されるリスクが高いという現実もありますし、金銭面だけではモチベーションが長続きしない事例も散見されます。国や地域によって異なるものの、若手人材ほどキャリア形成や学習機会を重視する傾向が強く、給与以外の要因が企業選択や定着に大きく影響するのが特徴と言えます。

また、そもそも社員が仕事に望むものは給与だけではありません。多くの人は「自己成長」「承認欲求」「チームへの帰属感」「社会への貢献」など多様な欲求を持ち、それらが満たされることで高いモチベーションを維持できるのです。もし企業が金銭的報酬だけで人材を引き止めようとしても、より良い条件を提示する競合に簡単に流れてしまう可能性があり、また社員の内発的なやる気を育むことが難しくなります。そのため、金銭以外のインセンティブ設計が海外拠点においても非常に重要となるのです。


3. 現地スタッフが重視する非金銭的要素の例

現地スタッフのモチベーションを高める非金銭的要素は、国や文化によって差異はあるものの、大きく分ければ以下のような項目に集約されます。具体的な施策を検討するにあたって、どれを優先しどのように実装するかは企業の戦略や現地の実情に合わせて調整が必要です。

3.1 キャリアアップと学習機会

多くの新興国の若手社員は、将来のキャリア形成や専門スキルの習得を非常に重視しています。日本企業が提供できる研修やキャリアパスが明示されれば、金銭報酬以上に魅力を感じることも珍しくありません。例えば以下のような施策が考えられます。

  1. 資格取得支援
    語学試験や専門資格の取得費用を会社が補助したり、社内で勉強会を開くことで、スタッフが自己投資する負担を軽減する。結果として組織全体のスキルレベルが向上し、労使双方にメリットが生まれる。
  2. 定期評価と昇進プラン
    成果を出した社員が確実に昇格できる制度や管理職候補の育成プログラムを設けると、現地スタッフの目標意識が高まりやすい。日本のように年功序列がない国が多いため、短期間でのステップアップを求める人材が多い面もある。
  3. 社内ローテーションや海外研修
    希望者を日本本社や他国拠点への短期研修に派遣したり、海外事例を学ぶ機会を設ければ、「グローバルな環境で成長できる」と感じるスタッフが増えるかもしれない。企業規模に応じてプログラムを検討するのが有効。

3.2 承認やリーダーシップ経験

人は誰しも自分の成果を認められたい、チームを牽引したいという承認欲求やリーダーシップ欲求を持つことが多いです。金銭に直結しなくても、以下のような施策がモチベーションを引き出す可能性があります。

  1. 社内表彰制度
    月や四半期ごとにベストスタッフを選定し、社内広報で表彰したり、小さな記念品を贈るなどで公に称える。金銭報酬がなくても自分の頑張りがみんなに知られることでやる気が高まる。
  2. プロジェクトリーダー任命
    有望な中堅スタッフを小さなプロジェクトのリーダーに任命し、リーダーシップを発揮する機会を与える。自己成長意識が高い社員なら、追加手当がなくてもリーダー経験を積めること自体に大きなモチベーションを感じることがある。
  3. 経営陣へのプレゼン機会
    定期的に現地スタッフが提案や進捗報告を日本本社の経営陣にオンラインでプレゼンできる場を設けると、担当者が「自分の成果を直接トップに見せられる」喜びを感じ、積極的に動いてくれるようになる。

3.3 ワークライフバランスと家族配慮

インドネシアやベトナムなど多くのアジア地域では、家族や宗教行事を大切にする文化が色濃いとされます。金銭面だけではなくプライベートや家族の事情に理解がある会社を選ぶ社員は多く、それが離職率の低減にも直結する可能性が高いです。

  1. 柔軟な休暇制度
    例えば家族の病気や子どもの行事などに対して有給とは別に特別休暇を認める企業が増えています。これを明確に制度化することで社員が安心して働ける環境を作ることが可能。
  2. 宗教や行事への配慮
    イスラム教徒の多い国であれば、礼拝時間を確保したり、ラマダン期間の勤務時間短縮を検討するなど、文化的行事や祭日に合わせた柔軟勤務を取り入れる。日本とは異なる祝日や行事スケジュールを尊重する姿勢を示せば、現地スタッフの会社へのロイヤルティが高まる。
  3. 家族に対するイベントや福利厚生
    従業員の家族を対象とした会社行事(ファミリーデー、子どもの学資補助など)を設ければ、社員が「家族も大切にしてくれる企業だ」と感じ、離職を控える要因となりうる。小さな規模でも手作りイベントで十分効果が見込める。

3.4 組織ビジョン・企業理念の共有

海外子会社のスタッフにとって、日本本社の理念やミッションが漠然としていると、自分たちが何のために働いているのか見えにくくなることがあります。金銭ではなく「社会や顧客のために貢献する喜び」や「会社の成長ストーリーの一員となる誇り」を感じられるよう、以下のような施策が考えられます。

  1. ビジョン浸透活動
    定期的に経営トップが現地を訪問し、会社の歴史や理念、今後の戦略を直接説明する。オンラインでも動画メッセージやパネルディスカッションを行うなど、全スタッフが自社の方向性を共有できる機会を増やす。
  2. 現地での社会貢献やボランティア
    地域コミュニティと連携し、社員参加型のボランティアイベント(教育支援や環境保護など)を行う。企業が社会に良い影響を与えている実感を得られれば、スタッフのロイヤルティが高まる。
  3. 日本本社見学ツアー
    可能であれば優秀社員やリーダー層を日本本社に招待し、工場やオフィスを見てもらうプログラムを設ける。実際に日本の企業文化に触れ、本社社員との交流を図ることで、「自分はグローバル企業の大きな一部なんだ」というモチベーションに繋がる場合がある。

4. 非金銭インセンティブ導入の実践ステップ

4.1 社内ニーズ調査と優先順位付け

非金銭的インセンティブを充実させたいときは、まず現地スタッフの価値観やニーズを把握することが重要。簡易アンケートや面談などで「研修機会に興味があるのか」「休日の過ごし方はどうか」「家族をどれくらい大切にしているか」などをざっくりリサーチし、どの要素が最もモチベーションに効くかを判断する。闇雲に手当たり次第やるとコストがかさんでしまうため、社内ニーズを洗い出し、優先度の高い施策から導入するのが合理的だろう。

4.2 施策の設計と予算見積もり

たとえば「資格取得支援制度を作る」と決めた場合、対象資格は何か、費用補助の上限はいくらか、合格したら報奨金を支給するかなど詳細設計を行い、それに必要な予算を見積もる。家族ケアを充実させるなら特別休暇日数を何日増やすのか、それを代替勤務でカバーできる人員がいるかなど、具体的な運用面の検討が不可欠。上層部の同意を得たら、対象スタッフにしっかり告知・説明を行う。

4.3 実施とレビュー

施策を実施したら、定期的にその効果をレビューし、スタッフへのアンケートや離職率、仕事の満足度、チームの雰囲気などを指標としてモニタリングする。期待した成果が出ていない場合は内容を見直すか、別の施策を追加検討する。One Step Beyond株式会社が提唱する「第二領域経営®」を活用し、週や月の“第二領域会議”でこれらインセンティブ施策の進捗や効果を最優先で話し合えば、後手に回らずPDCAを効率的に回せるだろう。


5. 「第二領域経営®」でモチベーション管理を計画的に推進

前述のとおり、非金銭的インセンティブの制度や社内文化を構築するのは、企業にとって今すぐ売上に直結しにくい“第二領域”の取り組みの典型例であり、日々の売上確保(第一領域)に追われていると後回しにされがちです。ここでOne Step Beyond株式会社が提唱し、商標を所有する「第二領域経営®」を導入するメリットが改めて浮き彫りになります。

  1. 週や月の“第二領域会議”で最優先議題化
    非金銭インセンティブの新制度や見直し、予算承認をこの会議で扱い、売上報告や顧客クレームなど第一領域の話題を敢えて排除するルールを設定することで、モチベーション管理をしっかり検討できる時間を確保する。
  2. 第一領域の業務を権限委譲して経営トップが集中
    経営トップや幹部が“火消し”対応に呼び戻されないよう、日常オペレーションを現場リーダーに任せる仕組みを作る。非金銭インセンティブ施策はトップのコミットや迅速な決裁が欠かせないため、トップが研修制度や評価制度に腰を据えて取り組める体制が望ましい。
  3. PDCAサイクルで効果検証
    新たに導入した制度(例えば資格取得補助や社内表彰)は、本当にスタッフのモチベーションや定着率を上げているかどうかをデータで確認し、必要に応じて修正・追加を行う。これを“第二領域会議”で定期的にレビューすれば、形骸化を防ぎ着実に組織文化に定着させることが可能となる。

6. 次回予告:ステップ7人材の確保と育成 ⑧「本社と海外子会社の人事交流:グローバル人材育成の秘訣」

本記事(ステップ7 ⑦)では、「現地スタッフのモチベーション管理:金銭以外のインセンティブ」をテーマに、なぜ金銭報酬だけでは社員のやる気を維持できないのか、その代わりにどのような非金銭的要素が効果を持ち得るのかを解説しました。多様な文化・世代・価値観を持つ海外スタッフには、キャリアアップ機会や学習支援、家族や宗教行事への配慮など、金銭以外のインセンティブが大きく響く場合が少なくありません。こうした施策を“第二領域経営®”を通じて計画的かつ継続的に実施すれば、組織の人材定着とパフォーマンス向上に寄与するでしょう。

次回(ステップ7 ⑧)は、「本社と海外子会社の人事交流:グローバル人材育成の秘訣」をテーマに取り上げます。海外子会社の人材と本社の人材を双方向で交流させることにより、どのようにグローバル人材を育成し、組織全体の国際対応力を高めるか、その具体的な方法論を紹介します。本社での研修受け入れや短期ローテーションなど、多角的にメリットや運用上の注意点を検討する予定ですので、ぜひあわせてご覧ください。


7. まとめ

海外進出においては、現地スタッフを長期にわたって安定的に活躍させるためのモチベーション管理が不可欠です。しかし、報酬アップやボーナスといった金銭的手段だけでは、競合他社がより高い給与を提示すれば簡単に離職される可能性があるうえ、内発的モチベーションを引き出すことが難しい場合もあります。そこで、キャリアアップの機会や研修支援、家族や宗教行事への理解、チームやコミュニティからの承認など、非金銭的インセンティブを幅広く活用し、現地スタッフに「この会社で働く意義がある」と思ってもらうことが重要なのです。

このように組織文化や制度を整備する活動は、「すぐに売上には直結しないが将来を左右する」典型的な第二領域タスクと言えます。One Step Beyond株式会社が提唱・商標を所有する「第二領域経営®」を導入し、経営トップや幹部が週や月の“第二領域会議”で最優先議題として取り上げることで、海外子会社のモチベーション管理を計画的に推進することが可能です。形だけの制度で終わらず、現実にスタッフがやる気を高め成果を上げるまでPDCAを回す姿勢が大切と言えるでしょう。

次回(ステップ7 ⑧)では「本社と海外子会社の人事交流:グローバル人材育成の秘訣」をテーマに、海外子会社と本社を横断する人事ローテーションや研修プロジェクトがどのような効果をもたらすかを具体的に解説します。海外拠点で働くスタッフが日本本社を経験することで高いロイヤルティを持つケースもあれば、日本人社員が海外拠点に短期赴任することでグローバル感覚を得る事例もあり、その相乗効果を活かす方法論をお伝えする予定です。引き続き、ご覧いただければ幸いです。

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